【昔話】大きなカブと早く食べたいジョセフ
あるところに、老夫婦と技能実習生のジョセフが住んでいました。
おじいさんが作る大きなカブは、この村一番の名物になっています。
どうやら今年はいつにも増して大きなカブが出来たようです。
「こりゃーまた大きいのが出来たなぁ、引き抜くが大変だー」
「婆さんちょっと手を貸してくれんかの?」
「よいしょ、よいしょ」
カブはなかなか抜けません
「よいしょ、よいしょ」
その頃、ジョセフは家にいます。
「よいしょ、よいしょ」
ジョセフはよく爪を切ります。
「よいしょ、よいしょ」
なかなか抜けないカブに悪戦苦闘するおじいさんに、見かねたおばあさんは「ジョセフも手伝ってくれんか?カブを早く抜いてしまわんと夜になっちまう」とくつろぐジョセフに言いに行きました。
家から出てきたジョセフは「これがジャパンのカブ?!こんなワンダフルな体験はないよ!」と手に持ったカメラを離しません。
はしゃぐジョセフに口をつぐんでしまうおじいさん。
そこでおばあさんが、あいだを取り持ちました。
「ジョセフや、おじいさんのカブは日本一美味しいよ。早く抜いてみんなで食べようねぇ」とジョセフに協力をうながします。
「そうだねマム、僕も早く食べたいよ!」
日本食が大好きなジョセフは、特におばあさんの手料理が大好物です。
おばあさんの手料理のことで頭がいっぱいになったジョセフは、お手伝いだと思って味見をすることにしました。
まずはカブにかつお節をかけ始めるジョセフ。
いたずらな風が、おばあさんの肌着の中にかつお節を運びます。
箸を取りに帰っていたジョセフはびっくり。さっきまでかかっていたかつお節がありません。
負けじと味付けのりを砕いて、カブに振りかけます。
外での料理法に「振りかける」を選んでしまう料理下手なジョセフですが、おじいさんたちのためにひと肌ぬぎます。
細かくなった味付けのりは、風に乗っておばあさんの肌着の中に入っていきます。どうやら風の通り道みたいです。
取り皿を取りに帰っていたジョセフはびっくり。かつお節だけでなく味付けのりまでもなくなっていました。
疑問に思ったジョセフは、砕いた味付けのりを空中で手を離すと、味付けのりがおばあさんの胸元を訪ねるじゃありませんか。
風に気づいたジョセフは「なんだおばあさんのインナーがイーティングしてたのか!HAHAHA!」と高く笑い、机を叩く要領でカブを叩きます。
気づけばすっかり夕暮れとなり、表情が帽子の陰で見えないおじいさんとおばあさんは、いつからか掛け声を出す様子もありません。
ジョセフが奮闘している間、おじいさんとおばあさんが黙々と引っ張り続けたおかげか、カブが委縮したのかいきなりスポーーーーン!!とカブが地面から抜けました。
「これでマムの美味しい手料理が食べれるよ!まぁマムのインナーはもうお腹いっぱいだろうけどね!早く行こうよ、僕もカブみたいに地面から足が離れなくなるよ!」と感謝を伝えます。
口を閉ざしたおじいさんは、おばあさんに目くばせをします。
おばあさんは「…ジョセフ、そうね」と口にします。
疲労感からか普段より足取りの重いおじいさんとおばあさんですが、さぁこれから夜ごはん。美味しいカブを食べて、元気いっぱいになりましょう。
その後、おばあさんがよそったジョセフのカブだけ、一切れ少なかったとさ。