ジュ―ビリー
『ジュ―ビリー』というくるりの曲がある。僕はこの曲が好きだけど、このタイトルにどんな意味があるかなんて考えたこともなかった。
感染症が流行する前の年、すなわち2019年の夏、僕は一人でロンドンにいた。事前準備もせず飛び込んだロンドンだったが、霧の街を宛てもなく歩きまわり、初めてJubilee(ジュ―ビリー)という地下鉄の路線があることを知った。
その日の夜、友人に紹介されたタイ出身の女の子と飲みに行った。いつか環境保全の研究所で働きたいと言っていた、所謂インテリ系の女の子で、やはり学生が本来あるべき姿というか、非常に勉強熱心だった。
僕は彼女に、早速ロンドンでの発見を話した。『ジュ―ビリー』という好きな曲があるのだが、ロンドンの地下鉄に「Jubilee」という路線があると知って、不思議な気持ちになった…こんな風にだ。
彼女は僕の話にこう返す。「Jubileeってどういう意味?」
彼女がその言葉の意味を知っているものだとてっきり思っていたが、僕は「知らない」と言うしかなかった。彼女は「好きな曲のタイトルの意味を知らないのね」と、笑っていた。
未だに後悔していることがある。それは僕が『ジュ―ビリー』の意味を知ろうとしなかった理由を、僕の英語力ではうまく言い訳出来なかったことだ。
僕が『ジュ―ビリー』の意味を知ろうとしなかった理由、それは、それを知ることによって、その曲を今までと同じように聴くことができなくなるのではないか、と考えていたから。この曲は、語感だけでいい、そう思わせる妙な魅力がある。
それをうまく伝えられない僕は、何も言えなかった。
時々そんなどうでもいいことを思い出して、あの時彼女の目に僕は気の利いた冗談も言えない怠惰な日本人に映ったのかな、なんて馬鹿なことを考える。