危険な昔話
昔話は危険だと思う。特に、弱っているときは足を取られかねない。
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学生時代によくつるんでいた旧友と話したくなり、電話をかけてみた。彼女は北京に住んでいたのだが、このコロナの騒動で帰ってきているのではないかと僕は検討を付けたのだ。まさか出るとは思ってもいなかったけど、兎にも角にも、彼女は電話に出た。
とりとめのない挨拶をしてみたら、彼女は開口一番、「なんか明るくなった?」と言った。なんだよそれ、俺はいつも明るいよ。どれだけ根暗なイメージが染みついているんだよ、と笑ってしまった。
それからは質問の嵐だった。何しているの、どこすんでるの、何の仕事をしているの、私の話は良いから、今は何に悩んでいるの!まあこんな感じだ。僕も質問攻めに疲れたから、昔の話をした。僕らは昔の話をするのが好きだ。大体、あの頃は本当に時間があったよな。相当地味だったけど、今思えば確かに輝いていたよな。なんてあての無い話をする。
あの頃、いつも何かに悩んでいたよね。それもよくわからないことで。私の中であなたは儚い人。一緒に遊んだ日のことを思い出しても、大抵雨が降ってるの。ふと、そんなことを言われた。その言葉に、しばらく忘れていた感慨を抱いた。
そんな自覚は無かったけど。俺が常に苦悩していて、しかも常に雨の状況を思わせる男だとしたら、随分湿っぽい嫌な男ってことじゃないか。それに俺には「儚い」なんて形容詞はもったいなすぎるよ。俺は、ともすれば消えてしまいそうな、色白で華奢な女の子に「君は儚い」なんて言ってみたいね。
そういうところが儚いんだよ、と彼女に笑われた。
昔話は、危険だと思う。特に梅雨の季節は。
良かったら話しかけてください