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旅について

先日、僕が敬愛する沢木耕太郎さんがテレビ出演していた。もちろん見た。沢木さんの人柄がわかる、良い番組だったと思う。

予想通り、旅のバイブルとも言われる「深夜特急」のお話が出た。1970年代、インドのデリーからイギリスのロンドンまでバスを乗り継いで渡ることができるか、という無謀な賭けに臨んだ沢木青年の実録だ。

「どうしてそんな旅に出たのか」という質問になると、沢木さんは手を口に当て、少し考えこんでいる様子だった。

ようやく口を開いて、こう言った。

「特に目的があった訳でも、ましてや本を書くつもりで旅に出たわけもなかった。実際、旅を終えた後は何年も、『深夜特急』を手掛けることができなかった」

そして、こうも続けた。

「旅はアウトプットではなく、インプットの場所だった。自分が何かを知り、学ぶ場所。決して、何かを発信するためではなかった」

アウトプット、インプットという現代的な言葉を使う沢木さんに驚いたのだが、私は沢木さんの言葉で、なんとなく点と点が一瞬にして繋がった様な想いになった。

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先日、ある中学生の男の子が単身でアメリカに渡り、その様子をSNSにアップロードしたことが波紋を呼んだ。彼は、自分のしたいことができない人生なんて嫌だと言いながら、脚光を浴びることに随分必至な印象を受けた。

彼は何のために旅に出たのだろう?

何かを学ぶため?知るため?出会うため?

もしかしたら、自分には何もないということを発信して帰ってきただけなのではないか、と、僕は今、嫌味なことを想っている。

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井出崎・イン・ザ・スープ
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