読書記録壱『お目手たき人』
白樺派、武者小路実篤が1911年に著した『お目手たき人』を読んだ。
感想としてはとても私好みで面白い作品だった! まず粗筋からして面白い。
この粗筋が、女性に飢えていて運命の女性を待っている私に突き刺ささった。
それに加えて、"当然すぎる破局"と、物語の結末が当然のように書かれていることに笑いを禁じ得ない。
私は彼女いない歴=年齢であるゆえ、小説の主人公が作中で女の子と仲良くなったりすると少し萎えてしまう。
もちろん女性が登場して主人公と関わることによって物語が面白くなる側面は多分にあるので、大抵の場合は、心傷つきつつも文学の世界を楽しむことができる。
しかしこの『お目手たき人』に関しては、女性との交際経験がないことがコンプレックスである人が全く臆することなく読むことができ、その上で面白いという最高の小説である。
この小説、本当に一貫して、女性との会話シーンがないのだ。
唯一あるとすればそれは母親とのみである。
「自分は誰かと結婚しない間は淫慾に誘惑される時手淫に逃れて行こうと思っている。」
「自分は可なり強いストラッグルの結果手淫を正当なものだと信ずるに至った。」
『お目手たき人』p47
手淫とはまさしくオナニーのことであるが、この問題についても言及があるのが非常にリアルである。
私は自らの自涜(手淫)に対して強いこだわりがあり、自涜を心の支えにしているところがある。
例えば、今日の仕事が終わったら家帰って自涜しよう、おかずは最近は〇〇傾向が強かったから△△にしよう、など。
また、最低でも1日は間隔を空けるようにしている。日課にしてしまうと日常の中に埋没してしまい、淡々としたつまらないものに成り下がってしまうような気がするから。
また、興奮するシチュエーションを文章として書いたり、ゆくゆくはエロ漫画に落とし込みたいと思っているのだ。
そんなことはどうでも良いとして、オナニーという要素はとても安心感があり、自らの代弁である部分が大きく共感しやすい。
大槻ケンヂの『グミ・チョコレート・パイン』を読んだことがあれば感覚的に分かるような気がする。
主人公は儒教を信奉しており、背徳感からオナ禁をしようとするがなかなか難しく、性欲が爆発して取り返しがつかなくなるよりは手淫をした方がいいのだと正当化しようとする。
やはりオナニーというのは道徳的には良いとされづらいものである。
例えばガーンディーが用いるアヒンサーという観念がある。
アヒンサーとは本来的には不殺生である。つまり肉魚を食べないとか人に危害を加えないとか。
「女は放蕩者の方を君のような道学者より歓迎するものさ。第一面白いもの、君のようなさばけない男は女には嫌われるにきまっている。女は馬鹿だから自分を尊敬して愛しているような男は女々しい奴だと思ってしまう。道楽しないような男はつぶしのきかない、偏屈な男ときめてしまう。君が女に恋されようと思ったら、プラトニックな考をすてなければならない。何んでも露骨にゆくに限る、そうして気に入るようなことをどんどん云えばいいのだ。」と、友は主人公に言う。
これは100年以上経った現在においても非モテ属性を持った童貞にクリーンヒットする言葉だ。
20世紀初頭においても、軽い男がモテて奥手な男はモテることができなかったのだという事実、せちからいなー。
「自分はこう云う時淋しい気がした。そうして友のかわりにわきに鶴が居たらと思った。」 p96
これは友との恋愛トークの際に主人公が思うことなのだが、これは私も何度も経験があるので、友との恋愛トークが長引けば長引くほど、なんとも言えない消沈の感覚が湧き起こるのが理解できた。
その正体はきっとやるせなさだ。
そうして小説のクライマックス、鶴が婚約したことを知り、主人公は"当然すぎる破局"をするのである。
「自分は東京にとどまることにした。そうして淋しい心をかくして平気な顔をしていた。父や母や川路氏はこれならあんなにまで結婚させようと心配しないでもよかったと思われたにちがいない。」 p108
とあるが、自分では平気な顔をできていると思ってただけで、実際にはめちゃくちゃ態度に出てたんだろうな。
きっと父や母はあわれんで何も触れないでいただけだよ。。と思ってしまう。
附録である『空想』もとても面白かった。
これは主人公が自分を100%慕ってくれる妹を作り出して、己を正当化する対話小説を独り書き綴って、その後で我に返って泣くという、そんな内容である。
こういうの100年以上前にあったんやね。
私は何か新しい表現を開拓して、今までの芸術の枠組みを壊したい、アバンギャルドなことがしたい!
そんなことばかりを日々考えているだけに、まだまだ勉強不足だと感じた。
僕は常日頃から似たようなこと岬ちゃんでやってるけど、もっと色々考えないとなあ。
それにしても『空想』の、最後一瞬にして現実に引き戻される感じが最高に好きだな。
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