美術館のひとびと
エスカレーターに一歩足を踏み出す。
怯えるあの子と手を繋ぐ。
ママの好きだった場所、行ってみたいな。
曇り空の隙間に懐かしい看板が見えた。
変わらない青。美術館のひとびと。
椅子に腰掛ける男。
一点を見つめていて微動だにしない。
過去を見つめているのだろうか。
今を見つめているのだろうか。
未来を見つめているのだろうか。
覗き窓に顔を押しつけて歓声を上げる。
きれい!きらきらしてきれいだねぇ。
小さな身体に泡のように
記憶が詰め込まれてゆく。
いつかは忘れてしまうのだとしても。
わたしの身体に泡のように
光が音が風の匂いが詰め込まれてゆく。
いつかは忘れてしまうのだとしても。
あのひとがいなくなると
あめがふってくるんだね。
たいようみたいだね。
もうここにはいないのかなぁ。
雨が上がったら虹が見えるよ。
探してみようか。
忘れたくない思い出を
何度も何度も確かめながら
遠い空に想いを馳せる。
曇り空の朝。
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