埋火
昔の言葉も今の言葉もごちゃ混ぜに。
いつかの呟き
しょうじきに なろうとするとなけてくる しょうじきに かこうとするとはらがたつ そんなことでとわらわれて かんがえすぎよとさとされて わたしはわたしがきらいになって いつだってはらをたてていた ぜんぶまちがいなんだって だしたらいけないものなんだって どんなにだいじなきもちでも とじこめなくちゃいけないんだって しょうじきに つつみかくさずはなしたら あなたはがっかりするかしら それともびっくりするかしら どうしてだっておこるのかしら そうなんだねってわらうのかしら し
暗く深い海の底で 淡く光る青いひかり 重く沈む砂を蹴って 泳ぐ魚の群れを追って 永く遠く伸びるひかり 流れゆくのは一瞬で 振り返ったのはあなただったか わたしはたしかにあの瞬間に 流星をつかまえたのだ 瞬くように照らす灯り さざめくように寄せる波と 青くひかる不知火ふたつ 海の底には何にもなくて 白い魚の鱗はひかる 流れゆくのは一瞬で 振り返ったのはわたしだった わたしはたしかにこの胸に 永く遠くひかりを放つ 流星をつかまえたのだ
ひとつ終わればまたひとつ あれが終われば次はこれ 気がつけば夏は終わっていって 年老いた猫は死んでしまった いつか買おうと思っていた 猫用のクッションは売り切れていて いつか観ようと思っていた 映画はすでに終わっていて いつか言おうと思っていた 言葉は引き出しの奥に しまったまま取り出せずにいる ひとつ終わればまたひとつ あれが終われば次はこれ 何にも渡せないままに 何にも掴めないままに ゆるやかに溶けてゆくのだろうか 終わりが来るのは分かっていて いつになるかは分から
もう大丈夫 言われてなんだか嬉しいような 寂しいような 胸の奥の奥の方に じわり血が滲むような もう大丈夫 だからもう放っておいて 抱きしめようとすれば するりすり抜ける もう大丈夫 もう大丈夫だから 苦しくなったらちゃんと言うから もう大丈夫 もういい もう充分だ 必要ない 用済みだ 触るな 触れるな 鬱陶しい しつこいんだよ この痛みを 疼く古傷を 抱きしめてあげよう もう大丈夫 もう大丈夫だね だからもう 目を閉じておやすみ
きっとさ 小さくて見えないよね 米粒くらいだろうね でもさ きっとさ ひかっているのはわかるよね ひかっているもの いつだって どこでだって スズランの街灯みたいにね 真夜中の看板みたいにね ひかっていたもの あの時だって ぼんやりと やわらかくて 優しくてまっすぐな ひかりだったんだ 振り返るのはもうおしまい あれもこれも全部捨てて 近くて遠い これからの話をしよう
なぁそろそろ来るんじゃないか? いやまだ来ないよ。 もう待ちくたびれたよ。 今日は来ないけど明日はきっと来るって。 もうすぐ11月だぜ。 なぁゴディバってさ。 なんか強そうだよな。 悪の帝王みたいだって誰かが言ってた。 あんなにうつくしいのにな。 見たことあるのかよ。 いやないけど。 待つことって希望なのかな。 そりゃそうだろ。 空見上げ 待てど暮らせど来ぬひとを いつかいつかと 歳をとりけり なんだよ急に短歌詠むなよ。 ゴディバって人なのか? いやわかんないけど
おかしいな 空気が入らない 隙間なく 全て塞いだはずなのに おそろしくゆっくりと 萎んでゆくような 瞼が閉じてゆくような 抗いようのないような 苦しいのか苦しくないのか それさえもわからないような そう それは おそろしくゆっくりと 上がってゆくような 落ちてゆくような 近づいてゆくような 離れてゆくような 水に沈めればきっと わかりますよ まぁわかったところで 残念ながら何もかも 終わってしまいますがね 灰色男は満面の 笑みを浮かべて飛び込んだ 白鳥たちが戯れる あ
きみはとってもあしがはやくて やわらかそうなそのしっぽに ようやくふれたとおもったら まばたきするまにすりぬける だれもかれもみんなみんな むちゅうになっておいかけてんだ きみはとってもひとみがきれいで びいだまのようにとうめいで あのやまおくのみずべのように きらきらとひかっているから だれもかれもみんなみんな われをわすれておいかけてんだ ゆれるしっぽにさわりたくて さわりたくてさわりたくて くらやみのなかにひそんでいる こわいやつらのこともわすれて りょうてをのばし
時々ふらりと夢の中で訪れる場所がある。 大通りから少し入った路地裏でぼんやりとひかる看板をいつも探している。 もうあの店はなくなってしまっただろうか。 彷徨っていると見知らぬ男と目が合った。 探しているんでしょう。 ありますよ。そこに。 どうして目に入らなかったのだろうか。 闇夜烏の仕業だろうか。 きっとそうに違いない。 あぁよかった。まだあった。 薄暗い階段を上がる。 天井には揺れるモビール。 あの輝きはオパールとターコイズ。 はるばるお越しいただきまして。 琥珀糖
何物にもなりたくない と言ったら またそんな強がりを なれるものならなりたいでしょ あんたみたいな女とは あたしだって歩きたかないわよ 札束をちらつかせ 女は言った 憐れむような眼差しで 蔑むような眼差しで 何物かにならなければ 生きる価値などないような 世界に服従しているだけ あんたって どこまで行っても臆病なのね そんなんじゃ 女は髪を靡かせて 顔の見えない男の腕に 細腕を絡ませる だれかからほめられるような だれかのやくにたつような だれかのめいわくにならないよう
一目散に逃げてった たぶんもう戻ってこない 去り際に一度だけ振り返った 長い尻尾がゆらり揺れた 追いかけていたつもりもないが 一度駄目になってしまうと 何もかも全部駄目になる 今までだって何度でも 繰り返されてきたことだし そういうもんだよなって今の自分を 納得させようと思えばできるのだけれど 色褪せたカラーコーン カンナの赤が枯れてゆく もうすぐ夏が終わるのだろう あの猫もいつか いなくなってしまうのか 嫌いになりたい もう見たくない なんて嘘 カンナの赤が蘇る 嫌に
鍋を囲んでいる いつ死ぬかわからない いつ死んでもおかしくない 終わりなき銃撃戦 わたしたちは武器も持たず 炬燵に入り鍋を囲んでいる 見上げれば星空 もう暫く時が経てば 月の光も届くだろう 立ち昇る湯気 ゆるやかな空気 こだまする銃声 まるでリズムを刻むように 頭上を弾丸が飛び交う中 平然とした顔をして 微笑み微笑む微笑んでいて どうかこのまま気づかずにいて あの弾丸は流れ星 あの弾丸は流れ星 心の中で祈り続ける もうすでにあの植物たちは 芽を出し蘇生しつつあるのに お前
熱すぎる 冷まさなければ このままでは 火傷してしまう早く 一刻も早く 冷まさなければ 触らないで 熱すぎるから 全てがとけてしまうから 熱すぎる 冷まさなければ このままでは 火傷してしまう早く 一刻も早く 冷まさなければ 適温になるまでわたしは あなたを見ない
ここにプリンがひとつある。 読み上げてみよう。 ホンモノは、おいしい ミルクにやさしく包まれる ジャージー牛乳プリン クリームがかかった2層仕立て とろ〜り 印字された文字を隅から隅まで声張り上げて 読みたくなるほど嬉しいことがあった。 あぁプリンの神さまありがとう。 ありがとうありがとう。 甘味が我が身に沁み渡る。 なんとやさしい味だろうか。 冷蔵庫にはプリンが二つ。 独り占めなどしない。 子どもらの分である。 帰宅して冷蔵庫を開けたらきっと 奇声を発するであろう。 喜
どこかで聴いたような気がする。 どこかでこの空気を感じたような気がする。 何か思い出せそうな気がする。 あぁ気になる。もやもやする。 気になって仕方がない。 目を閉じてみる。ほら何か浮かんでくる。 これは一体何だろう。わからない。 そういう音や言葉に時々出会う。 図書館で同じ本を同時に手に取った時のような。 いやそれはあまりにドラマチックすぎるか。 そんな経験一度もないし。 わからないことは何でも調べられる時代になったけれど残念ながら自分の記憶だけは自分
かなしいことがあった日は しゅるしゅるしゅるとリボンをほどく 頭の先から少しずつ しゅるしゅるしゅるとリボンをほどく いつの間にやら絡まって くしゃくしゃになった胸の奥 何度も何度も踏み潰されて ぐしゃぐしゃになった足の先 かなしいことがあった日は しゅるしゅるしゅるとリボンをほどく ほどけたところは透明に よごれたところは鮮明に 今度こそ うまく包めたと思っていたのに 今度こそ うまく結べたと思っていたのにな かなしいことがあった日は しゅるしゅるしゅるとリボンをほ