どこへ行こう
どこへ行こうか。何をしようか。
結局のところそればかり考えている。
もう何もいらんと言う父に
さりげなく声をかける。
お父さん、映画観に行かへん?
映画館遠いし、行ったことない場所やから
一緒に行ってくれたら助かるんやけど。
高速もよう分からんし。
ほらあのショッピングモール。
子どもらも一緒やったら喜ぶと思うわ。
映画か。
映画館なんてもう何十年も行ってへんな。
ジブリのな、映画が始まってんねん。
そうか。ほな行こか。
風が吹いたり椅子が揺れたりするんか?
子どもみたいな目をしてわたしの顔を覗き込む。
いやそういうんはないけど。
今度そういうのも行こか。
生まれてこの方父と映画館に行ったことはない。
この街に映画館はない。
別に焦って思い出を作ろうと思っているわけではないけれど一度くらいは映画館に座って一緒に観てみたい。
そんな気持ちになったのだった。
映画か。そりゃええわ。
父は呟き続けている。
残された時間はどれくらいあるのだろうか。
猫の背中を撫でながら。
まだ何も飾られていない写真立てが
じっとわたしを見つめている。