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遠い場所
時々ふらりと夢の中で訪れる場所がある。
大通りから少し入った路地裏でぼんやりとひかる看板をいつも探している。
もうあの店はなくなってしまっただろうか。
彷徨っていると見知らぬ男と目が合った。
探しているんでしょう。
ありますよ。そこに。
どうして目に入らなかったのだろうか。
闇夜烏の仕業だろうか。
きっとそうに違いない。
あぁよかった。まだあった。
薄暗い階段を上がる。
天井には揺れるモビール。
あの輝きはオパールとターコイズ。
はるばるお越しいただきまして。
琥珀糖でもおひとつどうぞ。
遠い場所に来てしまった。
きっと誰もここには来ない。
今夜もきっとあのひとは来ない。
琥珀糖を目にするたびにいつも思う。
噛み砕いたらそれで終わりよ。
さて質問です。
彼が好きな花の名前は?
忘れてしまったのですか?
思い出せませんか?
あぁ。
それは残念。
男がグラスの淵を指でなぞると
ほのかに灯っていた電球が
音もなく消えた。
目が覚めて真っ暗な天井を見つめる。
そうだ今夜は疲れ果てて
常夜灯をつけ忘れていたのだった。
わたしはもうずいぶんと
遠い場所に来てしまった。
それはかなしいことでもないが
暗闇の中揺れるカーテンの白を
いつまでもなぞっている。