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眼裏
桜色のハンカチを買った
何だろうこの沸き立つような
高揚した心持ちは
春はまだ遠いというのに
どこからか淡い匂いがした
何だろうこの舞い上がるような
ふわりとした心持ちは
風はまだ冷たいというのに
子がこほこほと咳をした
何だろうこのきりきりとした
突き刺すような胸の痛みは
いつものようにけらけらと
笑い転げているというのに
春が近づいているのだろうか
想いが近づいているのだろうか
これはたしかにそわそわと
落ち着かぬ春の心持ちだ
びゅうと強く風が吹いて
何かが吹き飛ばされていった
大寒波がやってきます
ニュースキャスターは繰り返した
季節は秋と冬の境で
ほんの一瞬振り返った
ただそれだけのことだったのに
眼裏に映る景色は鮮明で
何故か花の匂いがした
そこにはたしかにそわそわと
落ち着かぬ春の心持ちがあった
桜並木のトンネルで
幼子が手を伸ばすのを
眼裏に焼き付けた
ある春の日を思い出した
あれは夢だったのだろうか
夢だったのかもしれない
大寒波がやってきます
ニュースキャスターは繰り返した