抗えないもの
ただそばにいてくれるだけでいい
そんなの嘘に決まってる
いつもならあっさりと断るのに
目の奥に浮かんだ静まり返った湖に
抗えないものがそこにはあった
街外れの埠頭で二人
ゆらゆら揺れる水面と
滲んだライト
手を繋ぐことも
見つめ合うこともなく
真っ直ぐ前を見つめたまま
男は昔の話をした
好きだった女の子のこと
いなくなってしまった人のこと
もう駄目かもしれない
駄目じゃないですよ
あなたはまだ生きている
朝焼けに照らされた横顔
何もできないことはわかっていても
抗えない何かがそこにはあった
あの男はまだ生きている
どこかの街で生きている
わたしはそう信じている