スーサイドパレヱド*カットアップノベル

こちらの曲中に出てくるカットアップノベルをまとめたものです。
著:ユリイ・カノン

―最初で最後の幸福―

彼女は自分の人生を恨んだ。
遊ぶことに夢中になって、帰るのが遅くなった泥だらけの自分を優しく叱ってくれる母親が欲しかった。

彼女は自分の人生を恨んだ。
誰よりも勉強してとった、クラスで一番のテストの点数を褒めてくれる父親が欲しかった。

彼女は自分の人生を恨んだ。
暖かい食卓を囲む家族が欲しかった。おはようを言ってくれる家族が欲しかった。おやすみを言ってくれる家族が欲しかった。

家族が欲しかった。

彼女はまだ知らない。

朝。彼女はいつものように家にいる誰よりも早く起きて、学校行きのバスに乗る。私がいつも座るのは後ろから二番目の窓辺の席。だが今日は先客がいた。そこに座る少女は彼女と同じ制服を着ているが、初めて見る子だった。彼女は迷った末に隣に座る。少女は彼女の気配に気づいたのか窓側から彼女の方へ一瞬視線が移ったが、また外の景色へと戻る。
学校へと一番近いバス停が見えて、二人は同じタイミングで立ち上がると強い雨が急に降り出してきた。傘を持っていなかった彼女はバスを降りるとひとまずバス停の屋根の下へと逃げ込む。まだ時間もあるから、止むまで様子を見ようかと考えながら立ち尽くしていた時だった。
「一緒に行こう」
バスで乗り合わせた少女が赤い傘を彼女の頭上に差し掛ける。
「あ......うん、ありがとう」
高校一年。街の木々の紅葉が散り始めた冬の前のことだった。

彼女はまだ知らない。

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Enigmatic Fake mythlogy

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―劣等人間―

鋭い衝撃音が重く響いた。
その音を発した銃を手にするのは軍服に身を包む少年。目の前で玉座へ座りながら額より血を流しているのはその父親。死んだ父親と同じくらい、少年の目は精気のない無機質なものに見える。

硝煙がゆっくりと空気に溶けていく。自ら師事し、鍛えてきた銃術で殺されるとはなんて皮肉だろう。
「さよならだ」
さっきの父上の言葉への返答。もうすでに聞こえちゃいない。育てられた恩はあるが真実を知った今、罪悪感なんてものは1ミリも無い。目的を遂げる為に必要なことの一つに過ぎないのだから。それに玉座に座ったまま死ねるなんて、皇帝らしい死に様じゃないか。いくらその肉体を機会に変えて延命したって、こんなにあっけなく死んでしまうって虚しいものだ。

少し前まで父上だったそれを玉座から引きずり下ろし、そっと玉座へ腰掛けてみる。今まさにここは僕の場所になったのだ。邪魔者はもういない。この国も、軍も、民も、すべてが僕の思いのままになる。
もう僕は劣等な人間ではない。はじめは自分の正体に慄いたがこれこそ僕が欲していたものなのだ。恐れるものはなにもない。

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1st song

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―幽霊塔から彼女は見ている―

窓の外に見える塔を眺めながら、気怠い授業を受けていた。当然内容は頭に入ってきていない。
雨。
蓋をしたように空を覆い尽くす灰色の雲はほんの僅かな光も漏らさない。
あの塔はその雲の壁に突き刺さったみたいに高く聳える。こんな風に天気が悪い日は塔の頂上がが見えなくなって、霧が深いとその姿もほとんど見えなくなる。通称"幽霊塔"人智を超えたあの塔は百年以上前に造られたという。塔にはこの国の建国者である大魔女が祀られているらしい。大魔女の魔力によって作り出されている魔力の障壁によって悪いものが寄り付かないとかなんとか、幼い頃からずっと「いつでも大魔女様が見てるから悪いことはしちゃいけない」と、たしなめられてきたっけ。
おばあさまの更におばあさまが生きてた頃の女王様がその大魔女様。大魔女様が繰り出した魔術で瞬く間に百もの兵を焼き尽くしたとかそんな伝説を聞いたことがある。教科書や伝承の中の人って感じで、なんとなく現実味がない。
こうやって授業を受けながらうわのそらになってるのも、大魔女様は見てるのかな。静かに笑いが口から洩れる。
今日も何も無いといいな。

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Suicide Parade

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どうか 醜いくらいに美しい愛でこの心を抉ってくれよ

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―均したプロパガンダ―

もう何年も補修されていない、無数のひび割れや欠けがあるものが並ぶ街。帝国の中で最も多くの貧困層が居住する地区。その街の中心にある広場に集まった群衆の目線の先にあるのは、帝国の皇太子。
「先の大戦から100年、この星の50%以上の大地は未だ死んだままだ。今、我々が生きているのはただの幸運か?いや違う。我々の先祖がどの国の人間よりも優れていたからだ。我が国が誇る偉大な科学力は世界を恐怖させた。その科学力を無くして、大戦を生き残ることなどできなかったであろう。しかし、戦争がもたらしたのは勝敗などではない。平和でもない。ただ荒廃した大地と数えきれない犠牲だ。戦後、支配体制が変わったこの国は進化をやめた。進化をやめた生物はいずれ淘汰される。かつて我が国が世界を劫かす程に科学を発達させることが出来たのはなぜか?それは競争だ。他国を出し抜く為、どの国よりも力と繁栄を望んだからだ。国と国とが手を取り合って......等といった思想はとうの昔に死んだ。こんな時代だ。また先日のように力を蓄えたどこかの国がいつここへ攻め込むかもわからないのだ」
一呼吸。そして皇太子はより力強い声を上げる。
「今再び、我々は立ち上がるべきなのだ!競い、守り、奪い、世界一の国へと返り咲くのだ!国民よ、武器を持て!この貧しい生活から、他国からの恐怖から逃れるために!諸君らの体には、世界一を誇った帝国人の血が流れているはずだ!諸君らの力を、この国は欲しているのだ!」
次第に大きくなる拍手。歓呼の声。
「家族を、友人を守りたければ力を得るしかないのだ!今を生きる我々の存在は、ただ死んでいくためにあるのではない。未来へ、子孫へ、その命をつなぐためにあるのだ!まやかしの平和にその身を侵され進化をやめた下劣な人間へと成り下がるか?今こそ!我々は進化すべき時なのだ! 」
鳴り止まない拍手喝采。それは世界を揺り動かす程に。

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―戒厳令の夜に生命論は歪む―

壁を埋め尽くすように書かれた文字は、この国の言葉だろうか。言葉というより計算式のようなものにも見える。近づいてみるとそれはすべて血で書かれたものだというのがわかる。"こっちのやつら"のすることはよくわからない。
「手当てはできたか?」
「止血はしました。もういけます」
何とも言えない気味の悪さを覚えながら、後から来た隊員とともにここを後にした。

先の大戦から100年以上、大きな戦争は起きていなかった。前皇帝が崩御され、現皇帝が就任されてからこの国は大きく変わった。国を守るための軍は、攻めるための軍となった。
均衡的な関係を保ってきたこの国へ攻め込むのを、俺は心の中では強く反対していた。公然と"バケモノ"が狩れると言って喜ぶ者も少なからずいた。
宣戦布告もなしに強襲という方法を選んだ現総帥のお考えは正直なところ理解しがたい。この国の歴史上では初めての事だろう。一兵士に過ぎない俺がいくら何を考えたとしても意味はないのだが。

命を投げ打ってでも一人でも多くを殺すのが兵士の役目。この国で兵士の子供として生まれ、兵士として育てられた人間の人生なんてこんなものだろう。無人機たちはこんなこと考えずにただ黙々と命令をこなすだけだ。ある意味羨ましいな。なんて馬鹿なことを考えながら銃を抱えてまた街の中へ、戦地へと向かう。

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―劣等人間―

鋭い衝撃音が重く響いた。
その音を発した銃を手にするのは軍服に身を包む少年。目の前で玉座へ座りながら額より血を流しているのはその父親。死んだ父親と同じくらい、少年の目は精気のない無機質なものに見える。

硝煙がゆっくりと空気に溶けていく。自ら師事し、鍛えてきた銃術で殺されるとはなんて皮肉だろう。
「さよならだ」
さっきの父上の言葉への返答。もうすでに聞こえちゃいない。育てられた恩はあるが真実を知った今、罪悪感なんてものは1ミリも無い。目的を遂げる為に必要なことの一つに過ぎないのだから。それに玉座に座ったまま死ねるなんて、皇帝らしい死に様じゃないか。いくらその肉体を機会に変えて延命したって、こんなにあっけなく死んでしまうって虚しいものだ。

少し前まで父上だったそれを玉座から引きずり下ろし、そっと玉座へ腰掛けてみる。今まさにここは僕の場所になったのだ。邪魔者はもういない。この国も、軍も、民も、すべてが僕の思いのままになる。
もう僕は劣等な人間ではない。はじめは自分の正体に慄いたがこれこそ僕が欲していたものなのだ。恐れるものはなにもない。

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―全部夢だって―

軍靴の音。銃声。爆発音。悲鳴。叫喚。
フードを深くかぶった少女は先ほど転んだ時にできた傷の痛みに顔を歪めながら壁にもたれかかる。

とっさに逃げ込んだこの廃家。逃げることに必死だったから気付かなかったけど、私は昔ここへ来たことがある。なぜだろう、ずっと忘れていた。それはとても大事なことのようで、心の中に何かがつっかえたように感じる。
ぼんやりとしか思い出せないその記憶の中では、私はまだ小さな子どもだった。友達とかくれんぼをして遊んでいて、私はこの廃家にある地下へ続く階段の先にある鉄の扉の部屋へと隠れたんだ。こんなとこ誰も来ないよね、とひそかに笑っていたのも束の間、閉めた鉄の扉が開かなくなったことに気付いた。その頃の小さな力じゃ閉ざされた扉はびくともしない。他に出口も無い。

地下室からでは声を上げても外にはほとんど声は届いていなかった。
それから何時間経ったかわからない。お腹も空いて、私はここでこのまま死んでしまうんだって思って、涙が止まらなくなった。
ゴンゴン。鉄の扉を誰かが叩く。
「そこにいるの!?」と一緒に遊んでいた友達の一人が繰り返し扉を叩く。私はその子の名前を呼びながら、助けを求めた。
「ちょっと扉から離れてて!」
そういうと、扉から大きめの衝撃音が鳴る。扉はまだ開かないその音が何度か繰り返される。
だれか大人の人を呼んできて――と私が言い終わる前だった。重い鉄の扉がゆっくりとこちら側に倒れ、その衝撃で砂埃がぶわっと舞い上がる。
その子の姿を見た瞬間私はすぐに駆け出し、抱きつきながら泣いた。名前を呼びながら、ありがとうと。......なぜか、私はその子の名前を思い出せない。
近くで爆発音がして、ふと我に返る。今は思い出に浸っている状況じゃない。全部夢だって言ってほしい。
あの日のように誰かが私を助けに......なんて考える。そんなことあるはずがない。それでも私は奇跡に縋っていた。

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《レポート#4》
名前  :××××××
年齢  :22歳
性別  :男
出身  :第9地区
実験日 :2118年1月28日21時54分
実験結果:失敗。死亡。

《レポート#5》
名前  :××××××
年齢  :18歳
性別  :男
出身  :第4地区
実験日 :2118年1月28日22時39分
実験結果:成功。第二実験中に死亡。


《レポート#6》
名前  :××××××
年齢  :19歳
性別  :女
出身  :第1地区
実験日 :2118年1月28日23時27分
実験結果:失敗。死亡。


《レポート#13》
名前  :××××××
年齢  :27歳
性別  :女
出身  :第2地区
実験日 :2118年1月29日19時48分
実験結果:失敗。死亡。


《レポート#14》
名前  :××××××
年齢  :18歳
性別  :男
出身  :第5地区
実験日 :2118年1月29日20時14分
実験結果:失敗。死亡。


《レポート#15》
名前  :××××××
年齢  :21歳
性別  :男
出身  :第11地区
実験日 :2118年1月29日22時27分
実験結果:成功。

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―道化―
いくつものカメラに囲まれた部屋。赤錆びた鉄の壁。『道化』と称されたものの前には元が何だったのかもわからないほどにぐちゃぐちゃになった肉塊、肉片が転がっている。スーツ姿の長身の男とその部下たちが、モニター越しにその様子を観ていた。
「現在のところは道化に暴走は見られず、決められた対象以外には反応を示しません。ひとまず成功でしょうか」
「そうだな......」
長身の男は少し微温くなったコーヒーをぐっと飲み干す。
「殺してくれ」
テーブルにコーヒーカップを置こうとする手が止まる。そばにいた部下たちもその声を聴いてぎょっとした顔をしていた。
「今のは......奴が?」
「え、ええ......信じられませんが」
カメラを操作して道化に寄せる。表情は先程と変わらない。何の感情も持たない冷たい人形の目。だが、一つ違ったのはその頬に伝う雫。それは紛れもない涙だった。

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零れた感情を一滴残さず 飲み干してくれ

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―ネビュラの螺旋―
錆びついた鉄塔。海のように広がる砂漠。そんな殺風景な外の景色を見下ろす二人。煙草をくわえた初老の男。軍服の少年。
「我が帝国の前身国に戦後最大規模のカルト教団が存在した。表向きの活動は神への祈り、真理の探究、苦の解決、だが、裏では誘拐、人体実験、武装化などの黒い噂が囁かれていた。教団の活動拠点周辺で短期間に行方不明者が続出。以前から怪しまれていた教団施設へ強制捜査が行われた。証拠を押さえられ、教祖である男と幹部数名が逮捕された。それで教団も解散し、国への脅威となる前に事は解決できたかのように思われた」
灰皿に煙草を置き、また新しい煙草に火をつける。
少年はただまっすぐ窓の外を見ていた。男は煙草を一口吸うと、再び話し始める。
「教祖の死刑が発表された次の日、教徒たちは蜂起した。当時の大統領を拉致し犯行声明を出した。要求は教祖と幹部の開放、教団の亡命、以降教団へ一切関与しないこと。国は要求を飲んだ。それから数十年の間教団は表の歴史に登場しなかったが、とある国が教団と秘密裏に接触、教団が行っていた人体実験、生物兵器、化学兵器等、大国の軍事力、技術をも凌ぐ力を手中に収めるために手を組んだ。その国の当時の女王が、後の大魔女だ。人ならざる力で、小国から一気に世界を掌握できるほどの大国へ変貌した。我が帝国と戦争になるまで時間はかからなかった。軍隊を持たない国を除いて、世界の勢力は二分された。東西戦争、100年前の大戦だ。数年に及んだ戦争でこの星の半分は壊滅状態になり、今も完全に復興していない」
「もしも......なんて話に意味はないですが、教団の亡命を許さず、教祖たちの死刑が執行されていたらこの荒廃した世界はなかったのでしょうね」
「元々教団が生まれたのもこの国だ、この国が生んだ罪の一つと言えなくもない」
目の前の景色にあったかもしれない世界を想像してみる。それは昔読んだ小説に出てくる街。観覧車、遊具施設、映画館、遊技場、繁華街。そんな夢のような街。

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