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~「再現」のバリエーションと進化を楽しむ~ MOMATプレイバック展1953-1954→1955
先日、東京国立近代美術館(MOMAT)のコレクション展を観てきた。
ここ数年、年2,3回のペースでコレクション展を観てきたが、相変わらず、いい。今回はコレクション展だけを観たが、それだけで十二分かつ大満足だった。今特別展「TORIO」が開催されているが、そちらは来月に回す。
なぜ今回わざわざコレクション展だけ観に行ったか。それは、コレクション展の中で注目の展示企画(作品ではなく)があり、それをじっくり観察したかったため。ということで、以降ではそれにフォーカスして語る。とはいえ、せっかくなので、それ以外のモノも最後少しだけご紹介する。
* * *
さて注目していた展示とは
7室&8室 プレイバック「日米抽象美術展」(1955)
概要は以下公式ページで確認できる。中盤に該当記事。ちなみに、コレクション展は全12室。
1955年、まだここ東京国立近代美術館が開設もない時期(当時は「国立近代美術館」)、場所も今の竹橋ではなく京橋だったころ開催された「日米抽象美術展」を、様々な手法で再現展示したもの。アーカイブ資料(当時のポスターや雑誌記事、写真等)で当時の様子を伝えたり、VRで展示空間を再現しその中を探索できたり、実際に展示されていた作品(の一部)を展示したり、当時展示されていた解説パネルを再現複製して展示したり。
以下、展示光景。
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ここまで第7室。
ここから、第8室。
作品による「再」展示。
ただし、半分は1956年以降制作されたもの。「当時出品した作家の作品」を展示しており、厳密に「当時展示した作品」を展示していたわけではなかった。本当に当時展示した作品は、2点だけ。
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実はこれ、昨年2023年もほぼ同じ企画展示が行われており、そのときも大いに注目していた。それがこちら。該当記事はページ中段。
7室&8室 プレイバック 「抽象と幻想」展(1953–1954)
今回2024年も、前回2023年も、それぞれ対象とする過去の展覧会で配布されたリーフレットを「取り込んだ」特製リーフレットを、この企画の一環として制作配布している(言葉で書くとゴチャゴチャする)。それが、これ。
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ここからは、この企画に対する感想・考察。感じたり思ったりしたこと。ただ、今回も前回もVR展示は軽く試した程度であり、また2023年の方は1年前の記憶ということもあり、正確さを欠く部分があるかもしれない。あくまでファーストインプレッション程度のコメントとして、寛容にお読み頂きたく。
この企画展示の1番の目玉がVR展示であることは、明白だろう。一番挑戦的な構成要素、という慎重な言い方をしてもいいが。そしてその評価は、通常の美術展鑑賞におけるそれ、要するに、展示や作品そのものの 良い(美しいとか)/イマイチ、面白い/退屈、分かりやすい/難解 などと、同じ言葉を当てることができても、その意味するところが違ってくる。これも明らかなことだろう。そうした背景をふまえると、主催側がこの企画展示の出来栄え及び成果をどのように評価するかは、大いに気になるところである。ここMOMATの機関誌「現代の眼」(639 号)上で、外部有識者によるまさにこの企画展示を対象とした「展評」がもう既にリリースされており(https://www.momat.go.jp/magazine/209)、期待して読んだが、ちょっと難解でありまた私が期待する着目点や評価軸とは異なっていた。
本note公開後、この点に関していくつか良い論考資料を見つけた。これらで言及されている内容は、私の興味関心や考えと重なる点が多い。資料名だけだが、リストアップする。
・展覧会の再構成を超えて 「プレイバック「抽象と幻想」展(1953–1954)」から考えること(『現代の眼』637号)
・シュルレアリスム美術における展覧会の機能に関する総合的研究(KAKEN)
・ドキュメントから想像力をひろげる──MOMATコレクション「プレイバック『抽象と幻想』展」(略)(artscape「キュレーターズノート」)
VR展示を試してみたごく個人的感想としては、昨年2023年は「まだ色々と仕上がってない」ように感じた。それに比べ、今回2024年は「少し仕上がってきた」かのように思われた。具体的には操作性・応答性だったりVR空間内の光景の品質だったり。どちらも風景/作品の画像はモノクロだったり背景(例えば展示の壁)へのテクスチャーなどは省かれてたりするため、実際に操作して比較してみないとこの(地味な)「進化」は分からないような気がした。ただ感覚的なものでありしかも1年前との比較なので、ひょっとしたら私が誤認している(=実のところシステム自体は昨年から特段のアップデートはない?)可能性も大いにある。このあたりレビューするのがなかなか、難しい。
このVR展示で、「これは確実にいい、将来性がある、応用性が広い」と思ったのは、オートパイロット機能。まず四苦八苦しながら自分でVR操作しないでも、スムーズにVR展示空間内を勝手に一通り巡ってくれる。これができているのなら次のステップとして、以下のような操作をしたくなる=今後こういった機能を足していって欲しい。オートパイロットを途中で一時停止しマニュアルモードで鑑賞し、満足したらボタン一発(また音声指示で)オートパイロットに復帰。自分の見たい作品を長く、自由なアングル・距離感で(できたら照明もお好みで変えて)鑑賞し、その際はキャプションや参考文献も情報ウィンドウとして任意にオーバレイ表示。ボタン一つあるいは音声一言でスクショあるは動画記録。SFドラマやテレビ/ネットゲームの世界では、既視感溢れる光景・機能だと思う。標準化はされてないと思うが。また、これらを総称して何と呼べばいいのか、ちょっと言葉が浮かばないのだが。「インテリジェント・ナビゲーションシステム」などだろうか?。要するに「VR展示」に留まらず、「VR鑑賞システム」としてさらに発展して欲しい、ということ。いわゆるVR展示システムを作っている企業や機関は幾つか存在するので、もしかしたらここで挙げたような機能がほぼ一式実装されているプロダクトが、既に存在するのかもしれない。しかしそうしたところで、最後は操作性/UIの部分がネック/突破できていないブレイクスルーとして残り続けそうな気がする。美術館DXとして期待したい領域である。
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おまけ
今回のコレクション展の方で、特に「おっ」と思ったものを、1点だけ。
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と思ったけど、もう1点。
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展覧会とは関係ないことだが、MoMAT周辺のお堀に藻?が爆発的に発生し水面が埋め尽くされており、ビックリした。少なくともここ2,3年で、ここまで繁殖した光景は、わたしの記憶にはない。これも気候変動なのだろうか。
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以 上
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