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深淵を覗く。「ウクライナ21」

※非常に残酷でグロテスクな内容・画像を含むため閲覧には十分注意してください。

 共感能力が皆無の者は他者の苦痛など1ミリも理解できまい。この映像で振り下ろすハンマーの躊躇のなさでそれが分かるだろう。人類史上初と言われるスナッフフィルム、「ウクライナ21」は2人の若者が人を殺す一連の行動を記録した動画の名称だ。インターネットの隆盛により、それは流出し、広く世界に広まることとなった。
 この「ウクライナ21」は日本と韓国のみで通用する名称で、英語圏の呼び方は「three guys,one hammer(もしくは3 guys 1 hammer)」である。ネットに漂う心身に重大なトラウマを残すと思われるコンテンツに名付けられた「検索してはいけない」ものの中でも最悪の部類に入る映像だ。
 この動画はウクライナのドニプロペトロウシク州に住む19歳のヴィクトル・サエンコとイゴール・シュプルンヤクの2名が男性に拷問とも言える暴行を働き、男性の息が絶えるまでの様子をホームビデオに残したものだ。
 通称の「21」は1ヶ月あまりの期間で殺害した被害者の人数だ。そしてこのビデオは犯人たちが映像を販売する目的があったことから「有史初のスナッフ・フィルム」とも言われている。

※スナッフフィルムについては別の記事もありますのでよかったらご覧ください。

 ウクライナではこれらの事件については「ドニプロペトロウシクの狂人たち」または「ドニプロペトロウシク・マニアックス」と呼ばれている。
 サエンコとハンザ(アレクサンダー・ハンザ:2人のもう一人の親友)は裕福で影響力のある両親のもとで1988年に生まれた。2人は小さい頃からの友人で、3年生の時に(ウクライナの学校は小学校4年、中学校5年、高校が2年で9年生までが義務教育である)スプルニャックが引っ越してきて、3人は親友となった。同じ学校に通い、5年生になる頃には通過する列車に石を投げつけていたという。仲良しの悪友といったところだろうか。
 3人はそれぞれ恐怖症を持っており、サエンコとスプルニャックは高所恐怖症を克服するためにアパートのバルコニーにぶら下がったり、血液恐怖症のハンザは野良犬を拷問し、木に吊るし、内臓を抜き取って殺したり、3人は自分の恐怖症を克服するためにお互いに話し合って協力し、奇妙とも言える行動をしていた。
 彼らは犬だけでなく、白い子猫を木の板で作った十字架に釘付けにし、ピストルで撃ったり、接着剤を子猫の口に入れて泣けないようにし、その記録をビデオを撮っていた。これらは典型的なサド気質に見られる動物の虐待行為だ。

子猫を虐待するシュプルンヤク

 シュプルンヤクはヒトラーと同じ4月20日生まれで、そのことに共感していたらしく、卍を含む血のシンボルを描いたり、ヒトラーを真似て口髭を生やしたりしていた。

ヒトラーを真似るシュプルンヤク

 彼らは自分たちの活動を動画や画像として記録に残すのを好んだ。

ナチス式の敬礼をするサエンコ

 そして高校を卒業した後、サエンコは警備員、ハンザは建設作業員、シュプルンヤクも就職したがすぐに失業し無免許のタクシー運転手になった。3人は計画的にシュプルンヤクのタクシーの乗客を襲い、強盗行為を繰り返していた。
 最初の殺人は2007年6月25日に起こった。友人のアパートでお茶を飲んだ帰りの33歳のエカテリーナ・イルチェンコを路上で背後からハンマーで攻撃し殺害した。その1時間後にはベンチで寝ていたローマン・タタレーヴィチを発見し、顔が認識できないほど鈍器で殴り撲殺した。
 そこからタガが外れたのか、彼らの過剰な暴力行使は加速する。同年7月1日、近くの町ノヴォモスコフスクでエフゲニア・グリシェンコとニコライ・セルチュクの遺体が発見された。
 7月6日、ドニプロペトロフスクでナイトクラブから家に帰る途中であったエゴール・ネクボロダが殴打され、夜警でパトロールを行っていたエレナ・シュラムがハンマーで撲殺され、バレンティナ・ハンザが路上を歩いていた際に襲撃されハンマーで撲殺された。
 7月7日、14歳のアンドレイ・シデュックとヴァティム・リャホフは釣りに出かけていたところを襲われる。ヴァティムは森の中に隠れて逃げることができたが、アンドレイは撲殺された。
 7月12日、セルゲイ・ヤッツェンコはバイクに乗って出かけた後、行方不明になった。彼の死体は4日後に発見された。
 7月14日、スクーターに乗っていたナタリア・ママチュクを殴り落としハンマーやパイプで殴り殺した。この時に犯人を目撃したものもいたが、彼らは上手く逃げおおせた。

襲撃の様子も記録されていた

 それから7月15日に2人の犠牲者、7月16日にさらに2名の犠牲者が出ている。犠牲者はほとんどがハンマーや建設用鉄筋で撲殺されており、頭部に執拗な攻撃が与えられていた。切断されたり、眼球をくり抜かれている者もいた。妊婦に対しては殴り殺すだけでは満足できなかったのか腹を切り裂いて胎児を子宮から取り出していた。
 しかし、目撃者たちが通報したことにより、捜査官たちは襲撃の際に奪われた盗品のリストを質屋に配布し、2人は質屋で被害者から盗んだ電話を売ろうとして電源を入れたときに位置が特定され、2007年7月23日に逮捕された。
 その後2008年12月4日に容疑者のパソコンにあった殺人映像がハッキングを受け流出したのだが、そのうち完全な形で流出したものが「ウクライナ21」と呼ばれるものである。流出の時点では犯人たちは逮捕、監禁されていたため、実際に売買されたわけではない。裁判の際検察は証拠として300枚以上の写真と2本のビデオを発見した。
 その後、裁判ではシュプルンヤクは殺人21件、強盗8件、動物虐待で起訴、サエンコは18件の殺人、5件の強盗、1件の動物虐待で起訴、ハンザは2件の強盗で起訴された。ウクライナでは死刑は廃止されているため、サエンコとシュプルンヤクに終身刑、ハンザに15年の懲役が言い渡された。

裁判中の3人

※ここからは問題のビデオの内容について明記します。過剰な悪意やサディズムで心身に重大なトラウマを受ける可能性のある方は読むのはおすすめしません。また、実際の動画を検索し見るかどうかは自己責任です。



流出したスナッフ・フィルム
 一人の男性がゴミだらけの森の中で仰向けに横たわっているとこから映像は始まる。男性はすでに逃げ出したり、大声を出したりして助けを求める行動が見られず、すでにいくつかの暴行を加えられ動けなくなっているように見える。彼の周りには段ボールのようなものが被せられている。
 おもむろにビニール袋に覆われたハンマーで男性の前頭部をフルスイングで7発ほど殴りつける。男性は顔を血塗れにしながら「うー」と唸り始める。

 顔を血まみれにし動かなくなった男性の腹部を露出させ、ドライバー(アイスピック状のもの)で力任せに何度もブスブスと刺しぐりぐりと抉る。
 そして刺した腹を踏みつけ、またもや腹にドライバーを刺す。さらにそのドライバーで眼球を刺す。男性は力なく反射的に手で顔を覆うが彼らは攻撃をやめない。そしてそれを見て2人はゲラゲラと笑う。
 飽きたのか最後に3回ほどハンマーで頭を殴り死ぬ瞬間までを映す。すでに男性は死戦期呼吸の状態で、顎を上げ何とか呼吸をしようとするがまるで痙攣のように力なく動いているだけである。おそらく重度の脳挫傷と硬膜下血腫で脳幹が圧迫され死を待つだけという状況だろう。
 2人はドライバーを頭部に突き刺した後でも男性が呼吸を続けたことに驚いていることを話し、森から出て車の前で手とハンマーを洗い、笑顔で微笑むところで映像は終わる。完全版のビデオは4分以上の映像である。

 このビデオについては販売して金持ちになる計画を立てていたことをガールフレンドや同級生が証言している。計画では40のスナッフ・フィルムを撮影し、「金持ちの外国のWebサイト運営者」と連絡を取り合っていたという話だったそうだ。この証言によりこのビデオは販売目的の殺人映像である「スナッフフィルム」となった。

 私はこのフッテージを見てからというもの、一切のスリラーやサスペンス映画、スラッシャー映画やグロ・ゴア映画を見なくなってしまった。この映像に染みついた悪意にどれも敵わないばかりか、どんなフィクションの表現よりグロテスクだったからだ。
 想像力を働かせて一生懸命に作ったファンタジーよりも、本物の性的サディストの頭の中のファンタジーにはどれも敵わなかったということだ。この映像により、性的サディストによる幼稚ゆえの残酷さ、そしてタガの外れた人間の「圧倒的な悪意」を見ることになる。
 これが個人に秘められたものではなく、演出がかったビデオフッテージとして、最後に清々しく笑うのを見て戦慄を覚えた。実際に生きている人間を残酷に損壊していく残酷さでなく、終わってニッコリと笑うところに最も悪意を感じたのだ。

 さらに記録の中には犠牲者の葬式に出席し、墓石をひっくり返す写真も残っていたそうだ。裕福な家庭に生まれて何不自由なく生きてきた青年の、染み出した幼稚さゆえの残酷さと、性的サディストとしての覚醒。
 世界にはどうしようもない「絶対悪」は存在するのだ。こういうものは真正面から捉えてはいけない。常識ある人間の理解の範疇を悠々と超えている。

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