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深淵を覗く。「絵に描いたような典型的変態。ルーシー・ブラックマン事件」

 映画や小説で考えうるであろう暴力的変態の人物像がこの犯人の中にはある。現代でいうところの他人に共感できないサイコパスであるとも言え、また人格障害であるとも言えるだろう。親の莫大な遺産で生活する高学歴の犯人は、その財力を生かしてかなりダメな方の男の夢を追求した。

 2000年7月に元英国航空の客室乗務員であったルーシー・ブラックマンさんが失踪し、2001年2月に神奈川県三浦市の海岸近くの洞窟でバラバラ死体となって発見された。

 ルーシーさんは来日しホステスとして六本木のクラブで働いていた。2000年7月1日に彼女は失踪直前に友人の女性に「接客した男性からデートに誘われた」と告げ、行方不明となった。その後7月3日に「タカギアキラ」と名乗る男からその友人に電話があり、「ルーシーは私と千葉にいる。宗教団体に入った」と伝えられた。それを聞いて不審に思った友人が警察に捜索願いを出す。さらに数日後、英語のワープロ文字で「宗教団体に入信し、修行しているので探さないで欲しい」と書いた手紙が麻布署に複数回届いている。この時点でもうびっくりするぐらい怪しいのだが、ルーシーさんは発見されていなかった。
 8月22日に、ルーシーさんの妹が記者会見を行い、ルーシーさんの父親も来日し1万ポンド(当時160万円ほど)の懸賞金をかけて有力情報の呼びかけを行なった。
 9月下旬、警視庁刑事部捜査第一課と麻布警察署が被害者が勤めていたクラブの常連客で、不動産管理会社の社長の男、織原城二(48)を捜査していることが明らかになった。また、捜査によりルーシーさん以外にも外国人女性二人が行方不明になっていたことが明らかになった。
 10月12日、別件の準強制わいせつ容疑で織原が逮捕された。
 2001年2月、容疑者の持つマンションから近い三浦市内の海岸にある洞窟内で、地面に埋められた浴槽内に遺体がバラバラに切断された状態で発見される。
 なお、こいつは2010年に猥褻目的誘拐、準強姦未遂、死体損壊、死体遺棄にて無期懲役刑が確定している。
 この事件では、家族によるメディアや捜査機関へのバッシングやイギリス政府からの圧力、東京高裁でのルーシーさんへの準強姦致死罪が認められなかったことなど、さまざまなことが起こっているが、そこには言及しない。織原受刑者の変態さとその手法について考えたい。

 この変態は大阪生まれで在日韓国人の親を持つ。生まれた時の名前はキム・ソンジュン、小学校に上がる時には金聖鐘という名前に変え、高校時代には整形手術を受け、星山聖鐘という名前に変える。のち21歳の時に織原城二と名前を変えて帰化した。

 不動産会社やタクシー会社の経営者の父を持つ裕福な環境で育ち、17歳で父を無くしたことで莫大な遺産を相続した。慶應義塾高等学校入学とともに単身上京し、父親から与えれれた田園調布の家政婦つきの一軒家で生活していた。
 1969年ごろ、高校在学中からアルコールやクロロホルムや睡眠薬の利用による昏睡レイプを初め、1995年までに209人の女性に対する性的暴行をノートに記録していた。こいつは17歳からその性生活について詳細に記録を残しており、一部始終はカメラで撮影していた。
 高校卒業後、駒沢大学に在学しアメリカやスウェーデンに遊学、帰国し慶應義塾大学法学部の法律学科と政治学科を卒業した。

 裁判では押収されたビデオテープの内容も明らかになった。逗子にあるマンションの一室で、果物や出前の寿司、酒を飲みながら談笑するところからテープは始まる。
 備え付けのカラオケで歌ったりしていると、やがて女性は意識不明のようにぐったりし、体を揺すったり呼ぶが反応がなくなる。反応がなくなったことを確認すると女性を抱え寝室に運び、ベッドに寝かせる。
 女性を映すためのビデオカメラは3台三脚に載せられ、リモコンで操作できる。織原は目出し帽を被り、ハンドライトで女性の体を照らしながら映す。すでにビデオに自分の顔は写っているにも関わらず、なぜいちいち目出し帽をかぶるのだろうか。これもこいつの性癖なのだろう。
 被害者のバッグを漁り、免許証やパスポート、IDカードや健康保険証を映す。女性によっては6時間以上も行為に及んでいたらしく、ビデオテープに映っていた女性は数十人に及んでいる。

 もう一人の被害者、カリタ・リジウェイさんが映ったテープでは、彼女は衣類を剥がされた状態で、両手両足を紐でベッドの四隅に括り付けられ時折手足をバタつかせていた。
 彼は褐色の薬瓶からタオルにそれを染み込ませ、ベッドで横向きにさせられた顔の近くにそのタオルを置いていた。何度も瓶の液体をタオルに染み込ませていた。
 昭和大学医学部麻酔科学教室助教授の増田医学博士によれば、おそらくそれはクロロホルムのようだった。カリタさんの死因は劇症肝炎であり、彼女がバタバタとしていたのは重症化した肝炎による「羽ばたき振戦」という特有な症状であった。羽ばたき振戦は肝臓の機能が低下し、アンモニアなどの解毒が追いつかず脳に溜まったことで起こる神経症状である。

 他の被害女性は飲み物の中に何かを入れられていた。織原は「これは開運のお酒だから、2人で飲めばご利益がある。女性はそのショットグラスに1杯、男性はその2倍飲む。これは儀式だから一気に飲み干さなければいけない。モンゴルで手に入れた酒で、日本では売ってない貴重な酒だ」と酒を飲ませ、さらに「この酒は強い酒だから、柑橘類を取らなければ駄目だ」と言いグレープフルーツを絞り飲ませると急激に眠気に襲われた。
 女性は裸でバスローブをかけられただけの状態で意識を回復し、男に何をしたのか聞くと、「食べたものを吐いて、自分で服を脱いでお風呂に入った。音がしたので見に行ったら、頭を打って倒れていた」と言い、自宅まで送ってもらったが、母親と電話して2日近く意識を失っていたことに気づいたそうだ。
 睡眠薬やクロロホルムなど、聞き齧った程度の知識でこのような行為を行なったために人を殺すことになったのだろう。現代ではクロロホルムなどとっくに麻酔には使われていない。

 クロロホルムは1831年にドイツとフランスで発見され、1847年にイギリスにある聖バーソロミュー病院で初めて人体に使用され、同1847年に無痛分娩に臨床応用された。しかし肝臓への障害が強い事と不整脈を起こしやすい事などから、1840年には新しい麻酔薬ジエチルエーテルの登場と共に麻酔薬の舞台ではその役目を終えている。
 こんなに危険な近代で麻酔薬がなぜ使用されたか、それはおそらく「シャーロックホームズ最後の挨拶」によってその知名度が上がったからだろう。これによりクロロホルムは一般的に人間を昏倒させる薬として一般化した節がある。
 吸入麻酔薬は、薬を吸わせ、肺から血液を通じて薬物が体に取り込まれることで効果を発揮する。それを繰り返し吸わせることで肺の中の吸入麻酔薬の濃度が上がり、血液とともに肺から心臓そして中枢神経に運ばれるのだが、肺が充分に薬で満たされないと効果は表れにくい。
 成人の一回に呼吸する空気の量は約500mlと言われている。全肺気量(肺の中の空気の量)が約5000mlLとすると、単純に考えて10回はクロロホルムを全力で呼吸しなければ全部の肺に行き渡らない計算だ。
 つまりは布に染み込ませた程度では、あまり血中の濃度は高くならない。クロロホルムを後ろから羽交締めにして嗅がすと昏倒する、はかなりの誤解なのだ。

 これらの間違ったやり方により、カリタさんは多量のクロロホルムを吸引させられ、劇症肝炎となった。この事件における劇症肝炎(急性肝不全)とは、薬物の解毒能力を大幅に越えた薬物の投与により、正常の肝臓に短期間で広汎な壊死が生じ、進行性の黄疸、出血傾向及び精神神経症状などの肝不全症状が出現する病態である。この中途半端な知識による女性への悪戯行為が、被害者の死を招いている。こいつも四六時中クロロホルムを吸わせながら拷問をしていいと思う。
 これらは、成金によるデートレイプの典型的犯行だ。金にモノを言わせ女性に性暴行を加えるジェフリー・エプスタイン事件と構造は同じだ。

 また、睡眠薬を摂取させたのちグレープフルーツを飲ませるという念の入れようだ。グレープフルーツに含まれる「フラノクマリン類」という成分は、薬物を代謝・分解するCYP3A4という酵素の働きを阻害して、薬の効果を強めたり、副作用を出やすくしたりする。おそらくアルコールにより効果を増強させ、苦味のある睡眠導入剤を誤魔化すために、変わった味のアルコールに混ぜたのだろう。アルコールにも睡眠薬の増強作用があるため、グレープフルーツと相乗させて効果を得ようとしたのだろう。しかし、あまりに強い催眠効果は呼吸の抑制を生じ、死にいたる危険性も強いのにも関わらず、全身生殖器となったこいつは止まることなく突き進んだのだろう。

 織原所有の元赤坂のマンションからは、1992年の能率手帳とバインダー式ノートが押収されており、能率手帳には、女性遍歴が書き込まれていたそうだ。
そこにはこう銘打たれていたらしい。
「女、セックス……それは男。少なくても自分にとって非常に重要な意味を持っている。目標、30歳までに少なくとも、500人の女とセックスをすること。このノートは、女友達の記録である」
 気持ち悪すぎる。その内容も少しだけ見つけることができた。
「No26 7月 春本カズミ(仮名) クロロホルム睡眠薬飲ませFuckした」
「90年、No171 1月 ポーランドGAL 銀座のクラブ アヤコージのホステス 逗子でやる ウソが多かった」
「91年、No175 9月 名前 パトリシア 銀座のクラブ アヤコージのホステス……」
「No176 9月 名前 ウーノ アイルランド人 これもアヤコージのホステス。パトリシアが木曜日 ウーノが日曜日 逗子でやる」
「No26 7月 春本カズミ(仮名) クロロホルム睡眠薬飲ませFuckした」
「No198 ゆみ 詩織 順のホステス CROROでやる。CROROを多用したので心配したが、2、3日で回復。CROROを多く使用しないように。だが、KARITAの場合、やはり、病院の薬が原因だと思う。本人が病院、医者を望んだがやはり医者を呼ぶべきではなかった」

 確かに、近年AVのジャンルでも「昏睡姦」「睡眠姦」などの相手を意識不明の状態に置き性行為を行うものが少数ながらある。需要があれば供給がある。もしくは、自分の性癖を形にしたものがインターネットにより露呈したことで、同じ嗜好を持つ者たちへの刺激となり、一つのジャンルとして確立していったのかもしれない。これら意識不明な状態での性行為の画像や動画は変態たちによりtelegramなどで秘密裏に共有されているようだ。そこには「pass out」や「drugged」、「sleep」などのキーワードが付けられている。近年、海外では「ニードル・スパイキング」という注射を使った通り魔的昏睡レイプすら出始めている。
 6時間から2日間にも渡り、長時間薬物で女性をどのような性行為を行なったのかは詳しくは分かっていない。父性が不在な上、倫理が崩壊した変態は薬物を使って自分勝手な欲望を充足していた。いっそのこと去勢した方がいいとは思うが、こういうねじ曲がったやつは陰茎を大腿部に縫い付けるとか、勃起した瞬間に電気ショックが流れるとか、そのような拷問が向いていると思うのだが。

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