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「児子衣切れ」

「児子衣切れ」

児子が園に佇む
草臥れた影が
遠い眼差しをしている
後ろ姿では
喜怒哀楽の欠片を掴み取れない
上を見上げている
空には何もないのに
鼠色のオリエンタルな壁に守られて
緑生い茂る園に佇んでいる

何を思うのか
児子は何を
感じているのか
私は何を感じていただろう
この時分に
私も佇んでいる
児子を中心に捉えながら
世界で

児子の精神性は神聖な怠惰と
強欲のみで出来ている訳ではなく
浅葱色に萌ゆる空路の無に
ただ一心に在るようで
その存在は悲しみに暮れる様子もなく
諦観を決め込んだ野放図のように
綿菓子の割り箸のように
世界線のマジックカットのように
偽善の反乱のように
堪え性のない歳時記のように
放たれて掴んだ決め事のように
変え難い無為の最中で

佇んでいる

ように見える

これは結局私の精神性で
児子は未だ無だ

児子の着ている半袖の白いシャツ
 の袖
栗色のボタンは外されている

その切れ端に
糸目に
ミシンの足跡に
刻印に
存在の確定に

手懐けた過去を塗りつけたくなる
そういう風に出来ている私は
無への羨望が浅瀬で駐屯していて
むず痒い

ともすれば衣切れに
追記しておきたくなる
ps
君は何を
考えている

児子は若々しい全身を震わせて
 から振り返る
私に気づくと

怯えた

 後ずさる

瓦解した時は無価値となり
また有様を正そうとする
無駄なのに
画策した絵面はヨードチンキ色になって
何もかも同質性の額に嵌るのに

あぁこれはもう何をしても
何があっても
箱だけが空っぽのままで

赤蜻蛉がふらふらやってきた園に
混沌だけが目眩く

何もないが在ったところを後にして
歩く
在ることしかない何かに向けて

顔を落とし
溜息も一つ落とした

その

次の瞬間には
生い茂る緑の中で
空を眺めていた

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