アイマスにおけるアイドルの成長と体型について探索的データ分析してみる
TL;DR
この記事では、アイドルマスターシリーズのキャラクターデータを使って、アイドルの身長、体重、BMI、ローレル指数、スリーサイズなどの体格指標を分析した。
アイドルを年齢で 4 つに区分すると、低学年 JS はぷに系的な肉付きの良さが、高学年 JS は比較的現実的な子供体型っぽさが、JC はスキニーさが、JK 以降は高身長低体重なスタイルの良さが重視されているようだ。
特に 13 歳から 15 歳 の JC アイドルでは、他の数値に比べてウエストだけが極端に細くなる異常な現象が見られた。
はじめに
体重の観点からみるアイドル(+α)の健康 | 東京工業大学アイドルマスター研究会
がとても面白かったので、自分もやってみることにしました。最近データサイエンス的なことをあまりやっていなかったので、LLM と一緒に EDA をしたらどれだけ楽なのか試してみたかったというのも動機の一つです。特に目的はありません。データを気楽に探索していきます。
データ元としては、im@sparql を使わせていただきました。めちゃくちゃすごいデータベースで、これだけ大量の二次元キャラクターの細かな情報が正確に揃っていて、しかも手軽にアクセスできるデータベースは他に無いんじゃないだろうか。
まずは SPARQL クエリを投げる。
PREFIX schema: <http://schema.org/>
PREFIX rdf: <http://www.w3.org/1999/02/22-rdf-syntax-ns#>
PREFIX imas: <https://sparql.crssnky.xyz/imasrdf/URIs/imas-schema.ttl#>
PREFIX imasrdf: <https://sparql.crssnky.xyz/imasrdf/RDFs/detail/>
PREFIX foaf: <http://xmlns.com/foaf/0.1/>
PREFIX math: <http://www.w3.org/2005/xpath-functions/math#>
PREFIX xsd: <http://www.w3.org/2001/XMLSchema#>
PREFIX rdfs: <http://www.w3.org/2000/01/rdf-schema#>
SELECT ?name ?height ?weight ?age ?gender ?bust ?waist ?hip ?brand
WHERE {
?s schema:name|schema:alternateName ?name;
schema:height ?height;
schema:weight ?weight;
foaf:age ?age;
schema:gender ?gender;
imas:Bust ?bust;
imas:Waist ?waist;
imas:Hip ?hip;
imas:Brand ?brand.
FILTER(LANG(?name) = 'ja')
}
ORDER BY ?brand
元の記事だとクエリ上で BMI とローレル指数を計算しているが、これらは後で Pandas で計算することにした。
非女性アイドルや「リンゴたくさん」のような異常値を除外し、Plotly でプロット。
(この後の作業も Perplexity に頼りっきりだったが、ほとんどエラーを吐かずに付き合ってくれた。すごすぎる。)
身長
横軸に年齢を、縦軸に身長をプロット。各点はアイドル一人ひとりを表す。点が重なるのを回避するため、プロット時に横軸方向にランダムなばらつきを加えていることに注意。
実線はアイドルの平均身長、破線は 第2編 保健衛生 第1章 保健|厚生労働省 の「身長・体重の平均値,性・年次×年齢別」の 2019 年のデータを表す。
興味深いことに、17 歳を境にそれより若い子は平均より低身長寄りに、大人な子は高身長寄りの傾向があるようだ。
体重
縦軸が体重であることを除けば、身長と同様にプロット。
流石アイドルだけあって、9 歳を除き全てのアイドルが平均よりも大幅に低い体重なことがわかる。
身長が平均とそれほど乖離しないのに体重が少ないとなると、健康状態が心配になってくる。次のグラフを見てみよう。
BMI とローレル指数
身長と体重を組み合わせた体格の評価指標として、日本国内で幅広く用いられてる方法にボディマス指数 (BMI) とローレル指数がある。
BMI は体重 (kg) を身長 (m) の 2 乗で割った値で、肥満度を示す国際的な指標である。
ローレル指数は、かつて学童期の肥満度評価に用いられていた指数である。
近年は、小児の肥満評価にも BMI が使われるようになってきており、ローレル指数は現在ではあまり使用されていないらしい。
BMI(ボディマス指数)
計算式: 体重 (kg) ÷ 身長 (m) の 2 乗
成人の肥満判定に広く用いられる国際的な指標
BMI 25 以上を肥満とし、22 が最も病気にかかりにくい適正体重とされる
ローレル指数
計算式: 体重 (kg) ÷ 身長 (m) の 3 乗 × 10
主に学童期 (18 歳前後まで) の児童・生徒の肥満度評価に用いられていた
130 が標準値とされるが、明確な判定基準は定まっていない
BMI は以下。WHO の基準をあわせてプロットしている。
多くのアイドルが「痩せぎみ」以下の BMI であることがわかる。
また、一般女性の平均 BMI が 10 代の間に少しずつ上昇していく一方で、アイドルの平均 BMI は 18.5 の「痩せぎみ」ラインを上回らず、横ばいに推移している。
ローレル指数は以下。日本医師会の基準をあわせてプロットしている。
こちらも、一般女性の平均値が 130 前後なのに対し、アイドルの平均値は 12 歳から乖離がどんどんと大きくなっていく。
体格についてのまとめ
ここまでで 4 つのグラフを見てきた。全部をまとめると、以下のようなことがわかる。
アイドルの身長は、平均に比べて 17 歳以前では低身長に、以降では高身長になる。
アイドルの体重は、平均に比べて常に低体重。特に 13 歳程度で乖離が最大になる。
アイドルの体格は、12 歳まではわりと平均に即しているが、13 歳以降は平均より極端に痩せ型。
考察を付け加えていこう。
大胆な仮定として、アイドルとして誕生しているからには、そこにファンからの需要があるものと考える。
すると、このデータは単にアイドルの体型を考察したものだけでなく、ファンの求めるアイドル像を反映したものだと言える。
そして、年齢に応じてアイドルはいくつかの区分に分けられそうだ。
危険な雰囲気がしてきたが、わかりやすさのため強引にラベルを貼ると以下のようになる。
9 歳 (以下) : 低学年 JS
平均より身長体重共に低いが、複合して見ると肉付きが良い。
最近あまり聞かなくなった言葉だが、「ぷに系ロリ」とも言えるかもしれない。
3 例しかないので代表例もクソもないのだが、一番人気が強そうな、というところでは市原仁奈さんということになるだろうか。
10 歳から 12 歳: 高学年 JS
体格に平均との乖離がそれほど無い。
実際にその年齢の少女らしい体型をしていることが期待されている。
代表例は赤城みりあさんや橘ありすさん等。なんというか、ロリコンホイホイな布陣である。
13 歳から 17 歳
平均よりも低身長低体重の傾向がある。
つまり、より小柄であることが期待されている。
これだけの人数を一括りの属性でまとめてしまうのは、流石に乱暴に思える。より細分化して考えたほうが良いのかもしれない。後述するスリーサイズについての検討の結果、以下の分類が良さそうだ。
13 歳から 15 歳: JC アイドル
平均よりも極端に低身長低体重で、引き締まった体型の傾向。
つまり、特に華奢であることが期待されている。
代表例は高槻やよいさん。
高槻 やよい| アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ(ミリシタ)| バンダイナムコエンターテインメント公式サイト
16 歳から 17 歳: JK アイドル
スリーサイズの値は成人と比べて遜色ないが、身長はそれほど高くない。
つまり、低身長かつスタイルの良いアイドルが求められている。
代表例は佐久間まゆさんとか?
佐久間 まゆ(さくま まゆ) | 【公式】アイドルマスターOFFICIAL WEB -アイドル名鑑‐ (アイマス)
18 歳以降: スタイル抜群
平均より低体重を求める傾向は変わらないものの、身長は平均よりも高い。
より高身長低体重、つまりスタイルの良さが期待されている。
代表例を挙げるのなら秋山律子さんあたりになるだろうか。
秋月 律子| アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ(ミリシタ)| バンダイナムコエンターテインメント公式サイト
アイドルのウェストに生じる異常現象
面白いのはここからだ。
まずは以下のヒートマップを見てほしい。
青色に近いほど、2 つの値の正の相関が強く、赤色に近いほど 2 つの値の負の相関が大きいことを表している。当然、同じ値同士の相関係数は 1 なので真っ青になる。
まず気になるのが、brand と weight の間に相関があることだ。体重と直接の関係があるBMIとBMIカテゴリにも、相関が発生している。これは前述の記事で指摘されている通り、AS のメンバーが軽すぎることに由来する。
次に気になるのが、スリーサイズ同士の相関だ。以下のページにあるグラフによれば、スリーサイズはほぼ同じ度合いで成長していくらしい。
ここで同じ度合いというのは、スリーサイズの間には概ねそれぞれ線形な関係がありそうということだ。あるスリーサイズの平均値は、べつのスリーサイズに何らかの係数を掛ければ、ほぼ近似できそうだということを言っている。この場合、これらの相関係数は全てほぼ 1 になるはずだ。
にも関わらず、スリーサイズの中でもヒップとバストの相関は強い一方で、ウェストは相関がそれほど強くないらしい。他の数値と比較しても、身長、体重、年齢いずれに対しても、ヒップやバストに比べると相関係数が低そうに見える。
何が起きているのか、調べていこう。
以下の図は、アイドル一人ごとに横軸にヒップを、縦軸にバストサイズをプロットしたものだ。年齢ごとの違いを示すため、3 歳ごとに色を分けている。
また、黒い星で示しているのは、ある年齢ごとの平均値だ。一番下の星が 9 歳を表し、1 歳ずつ、その年齢のアイドルの平均値がどこなのかを示している。「平均的アイドル」が、成長に従ってどんな変化をしていくかを表したものだと考えれば良い。
17 歳くらいまで、きれいな直線を描いていることがわかる。相関係数が高いので、当然の結果だ。
この図を見ると、(子供の発育度合いに出生時期による大きな違いが無いと仮定した時、) バストとヒップの増加は少なくとも 9 歳から一定のペースで進み、 17 歳前後で停止することがわかる。
胸の成長は第二次性徴期に訪れることを踏まえれば、実にもっともらしい。平均的には、現実に即した成長をしていると言えるだろう。
次に、ウェストとバストの関係を見てみよう。きっと、この図でもきれいな直線が得られるはずだ。
なんと、きれいな直線は得られなかった。
年齢ごとの平均値に注目すると、妙な点が 2 つある。
第一に、9 歳から 10 歳に上がると、バストの平均値は大きくなるのに、ウェストの平均値は大幅に小さくなっている。もしかすると、上述した「ぷに系ロリ」の需要を反映しているのかもしれない。とはいえ、9 歳のアイドルは 3 人しかいないため、はっきりしたことを言うにはサンプル数が小さすぎるという問題はある。
第二に、12 歳から 13 歳に上がるタイミングでも、度合いは小さいが同じようなウェストの退行が見られる。こちらはサンプル数の少なさでは説明がつかない。12 歳のアイドルは 10 名、13 歳のアイドルは 16 名存在する。
何が起きているのか、別のグラフで見てみよう。今度は、バストサイズが縦軸なのは変わらず、ウェストの代わりに標準体重との差を横軸に置く。
12 歳から 13 歳に上がるタイミングで、標準体重との乖離が大きく開いていることがわかる。そしてこの乖離は、15 歳から 16 歳に上がるタイミングで縮まり、あとはあまり変化しない。
この異常が現れるのが 13 歳から 15 歳というのはかなり興味深い。この年齢は、ちょうど中学生の時期に一致するからだ。つまり、この異常は JC アイドルに対して起きていることになる。
もう一つ、驚きのグラフを紹介しよう。横軸に体重、縦軸にウェストを置くとどうなるか。
なんと、12 歳から 13 歳では、平均体重は増加しているのに平均ウェストは小さくなっているのだ。他の全ての身体的特徴が単調増加している中、ウェストだけが減少するなんてありえない。これは明らかに異常だ。
念の為、外れ値に由来する異常の可能性を考慮してみよう。
体重低めの AS のメンバーの下限は確かに 13 歳ではある。しかし、サンプル数はそれほど多くないため、これだけでは全体の平均を引き下げるほどの効果はないはずだ。
また、全員の中で最も BMI が低い乙倉悠貴さんが 13 歳なのも多少の影響がありそうだが、やはりこれだけでは 14 歳、15 歳の説明がつかない。
やはり、外れ値の影響というよりは、JCアイドル全体のウェスト分布に対して、何らかの異常が起きているということになりそうだ。
アイドルは JC になると、他の部位を除きウェストだけが極端に締まる。
身長と体重の推移
最後に、以下のグラフを紹介しよう。このグラフは、一般女性とアイドルの違いを如実に表している。
横軸に体重、縦軸に身長を取り、年齢ごとのアイドルの平均値を黒線、一般女性の平均値をグレーで示している。
年齢層ごとのアイドルと一般女性を比べてみると、以下のことが言えそうだ。
10 歳までは、アイドルの平均値は一般女性と大きく乖離しない。
しかし、11 歳から 14 歳までで、アイドルは一般女性の半分のスピードで身長と体重が増加していくような現象が起きる。平均的な 14 歳のアイドルは、平均的な 12 歳の一般女性のほぼ同じ身長と体重である。
その結果、一般女性が 14 歳程度で身長体重に大きな変化がなくなる一方、アイドルは 17 歳まで成長が続く。
また、14 歳のアイドル=12 歳の一般女性以降は高身長低体重な方向への乖離がどんどん大きくなっていく。
この傾向は 18 歳を超えてもゆるやかに続く。
考察を深めるならば、次のことが言えそうだ。
17 歳までのアイドルの身長と体重の分布は、一般女性に比べてより均一に散らばっている。
年齢がキャラクターに対する一つのタグとして機能することを踏まえると、タグとして利便性が高くなるように年齢が設定されているように思える。
あるいは、我々は実際よりも人間の成長速度を遅く記憶しており、それをアイドルという理想像へ反映しがちなのかもしれない。
14 歳までは、ロリ好きと言っても現実にあり得る体型が好まれる。
ただし、14 歳のアイドルは 12 歳の一般女性と同等のプロポーションである。あなたは、あなたが思っているよりロリコンかもしれない。
一方で、15 歳からは非現実的に高身長低体重な体型が好まれるようになる。
オタクが自嘲的にロリコンと言うときには、確かに 15 歳あたりに境界があるように思える。16 歳以上ならロリコン扱いはされない、みたいな。
作品内での扱われ方も、15 歳以下は未成年らしい不完全さが重視され、16 歳以上は成人と同等の扱いを受けがちなように思える。これはアイマスに限らず、いろんな作品に言えそうだ。
要は、JC か JK かで話が変わってくるということか。
一般女性が14歳程度で身体的な成長が停止するにも関わらず、アイドルは17歳まで成長が続くのは、男性が自身の経験を基に、女性の身体的成長を誤解している可能性がある。
というのも、まさに男性は女性よりも身体的成長が長く続くからだ。そして、男性の成長の停止は、およそ17歳頃に訪れる。
ちゃんと検定を行ったわけではないのではっきりしたことは言えないが、JC アイドルと JK アイドルの間で、求められるものが違いそうというのはなんとなく頷ける。
そうなると、先程の分類における「13 歳から 17 歳」は、JC と JK に細分化できるということになりそうだ。
…というわけで、先程の分類は完全形になった。結局、JS か JC か JK か 18 歳以上かという一周回って自然な分類に落ち着いてしまった。
さいごに
今回は、データがきれいに整っているということでアイマスのアイドルのデータを使わせていただきました。ありがとう im@sparql。
今回の調査で得た結果は、「アイマスに出てくる女の子はみんなアイドルだから」では説明できないように思える。根拠は無いがなんとなく、二次元キャラクター全般に、年齢と体型についての同じような現実との乖離が見られそうだ。
年齢によってアイドルに求められる体型が大きく異なる点は特に興味深い。14 歳以下は「無垢な少女」として、15 歳以上は「魅惑的な大人の女性」としてそれぞれ位置づけられ、異なる嗜好が投影されているように思える。
境目が 15 歳前後にあるのは、一体何が原因なのだろうか。やはり、JC、JK というラベルの影響が大きいのか。だとしたら、仮に日本の教育制度が今と異なっていたら、この境目は別の場所に発生していたのだろうか。
それとも、そこら辺に境目を置きたくなるのは、第二次性徴期や思春期といった、人間が元から持っている特徴が原因なのだろうか。いや、そもそも教育制度自体がそういった生得的な特徴を基に設計されているわけで…
考えれば考えるほどよくわからなくなってくる。しかし、少なくともこの分析はとても面白かった。
ちなみに、この記事は決して、世の男性の理想像は間違っているみたいな政治的主張をするためのものではありません。彼女たちはアイドルであり、文字通り偶像化された存在です。というか、そもそも非現実の存在です。追い求める偶像が現実とズレていたとしても、それを非難する理由はどこにもありません。
むしろ、あなたが創作したり妄想したりする時の一助になれば良いなと思っています。私自身、プロフィールの数値を見てドキドキしてしまうタイプなので。
需要があるかはわかりませんが、Plotlyで作成したインタラクティブなグラフは一般に公開したいなと思っています。データ分析に使ったJupyter notebookは、もし欲しいという方がいたら喜んでお渡しします。是非お声がけください。