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季刊「自治と分権」75号(2019年春号) ブックレビュー

自治労連愛知県本部
西尾市職員組合 市川京之助

名著17冊の著者との往復書簡で読み解く 人事の成り立ち「誰もが階段を上れる社会」の希望と葛藤

海老原嗣生・荻野進介 共著
白桃書房 定価:本体2500円+税

本著は、「なぜわたしたちの働き方は変わらないのか?」について、日本型雇用の強みと課題を、戦後から平成という時間軸と欧米との比較から描き出している。

雇用ジャーナリストである著者の海老原氏は、リクルートキャリア(旧:リクルート人材センター)の元社員であり、モーニング連載の漫画「エンゼルバンク―ドラゴン桜外伝」の主人公、海老沢康夫のモデルである。

僭越ながら、海老原氏あてのブックレビューとさせていただいた。

【往信】拝啓 海老原嗣生様

●日本型雇用が残る公務員
終身雇用(任用)、年功序列、新卒一括採用が当てはまる地方自治体では、誰もが階段を上り賃金が上がる給与体系が残っています。

これは、自治体業務が非営利であり、事務分掌の規定はあれども、「公務のために臨時の必要性がある」業務で無限定に時間外労働をしてきた背景があると思われます。

公務員の給料が民間企業より低かった高度成長期をふまえ、自治体労働組合は民間企業の標準的な賃金まで到達させました。しかし、世帯で1人が稼ぐ時代から、現在では世帯構成が多様化し、生活ベースの賃金の考え方が変化しています。

マイナス評価がなければ上がる賃金体系を公務職場では残し、2020年度からは、会計年度任用職員の制度が全国で施行されます。公務職場でも、有期雇用(任用)、評価による更新、広く公募が一般的になり、公務労働者の二極化は顕著になります。

この制度を、賃金による公務の分断と捉えるのか、時代が要請する働き方であるのか、それとも新たな公務労働制度の源泉になるのかは、ジャーナリストである海老原様の知見をお伺いしたいところです。

理論を現場に当てはめようとしてもうまくいかないことがありますが、現場を精査し、成果として色褪せることはない理論は、なぜ浸透しないのでしょうか。中立の立場である公務員が、現場の求める雇用制度と研究を繋げる役割を担うことが理想だと思う反面、公務員も人員削減で疲弊しており、難しさを感じています。

海老原様には、研究と現場を誰が繋げて形にしていくべきなのかを併せてお伺いします。

〈質問まとめ〉
・長期雇用と短期雇用が混在するメリット、デメリットと今後の展望は
・現場を精査し、成果として色褪せることはない理論は、なぜ浸透しないのか
・研究と現場の融合を果たす役割は、誰が担うのか

【返信】海老原嗣生氏から

どうもありがとうございます。ご掲載大変嬉しく存じます。返答につきましては以下簡略に。
 ①②書中にかきましたが、非正規の過半が、店舗・製造・事務アシスタントです。通常の総合職での非正規割合1割にもならない状況です。つまり、ある特定の職域に非正規を用い、他の領域では正規だけ、という職務分離を行い、同一労働同一賃金が成り立つようにしています。こうしたことを考えず同一職務内に正規・非正規が混在するから大きな問題が発生します。地方公務員はまずここが問題。ではなぜそうなったか。行政スリム化のあおりを受けて、新卒採用が絞られ、欠員分を安価な非正規で埋めるしかなかったからでしょう。日本の公務員は人口比・産業比でみても世界で最も少ない国の一つです。行政に厳しい世論が過剰になりすぎたことを反省すべきでしょう。
 ②仕事は難しくなり、それにつれて付加価値も高まり、だから給与も上がるこの3点が揃い踏みしない限り、経済合理性は成り立ちません。それか成り立つがどうか。に甘さが残ると、単なる生活給になります。分断などといわず、この関係をしっかり考えるべきときです。理論などというものではなく、現実的アプローチで民間はその方向に変わりました。大手民間企業では大卒かつ正社員の勤続男性で50-54歳の過半(52%)が非管理職です。そこまで合理的になれるかどうかでしょう。
(原文のまま。転記誤りは修正します。)

以上

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