THEインタブー
NoNノンフィクションライターとして活動している私が、これまでに出会った奇妙でいて魅力的なヤバい奴らに直撃取材した、インタビュー記事をまとめました。
闇の職業、悪徳業者、妄想癖……。
彼らの実像に迫っていきます。
『闇ジャンケン師』編
某日、私は知人の紹介である人物と新宿の安居酒屋で待ち合わせをしていた。
その人物こそ、今回の取材対象のA氏である。職業は『闇ジャンケン師』
闇ジャンケン師という言葉自体、私は初耳だった。
その言葉に興味を惹かれた私は、すぐさま連絡先を教えてもらい会う約束を取り付けた。
闇ジャンケンとは一体何なのだろうか? 闇というからには、表立っては言えない職業なのは想像がつく。だが、ジャンケン師という言葉のなんとも軽い響きには、どれだけ闇がつこうが底抜けの明るさを感じてしまう。
期待を胸に膨らませ、先にビールを飲み始めているとその人物は現れた。
パッと見た感じは五十代半ばといった感じか。毛根が寂しくなった坊主頭に、ずんぐりむっくりな体形。安物のスタジアムジャンパーにニットといういで立ち。
いわゆる、どこにでもいそうな中年男性がそこにはいた。しかし、目つきには真剣士の名に恥じぬ、鋭い光が宿っているのも確かだ。
取材場所がこんな安居酒屋であることを詫びると、
「俺ぁこういう場所のほうが好きなんだ」
と笑顔を見せてくれた。その笑顔には、彼の心根の優しさがあふれていた。
そんなA氏への取材内容は、私の知らない世界の連続だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
Q、そもそも闇ジャンケンって何ですか?
まぁ、あれだなー。
ケン場に入ってジャンケンしたい客とジャンケンする。
客が勝ったら客には賭け金の2.1倍、俺が買ったら俺がそのぶんもらうっていう。
客が千円賭けて勝てば二千百円になるから、客としてもおいしい訳よ
今風で言ったらカジノのディーラーってとこかな? 全然違うか。
Q、すいません、ケン場というのは?
あぁ。ジャンケン場のこと。ジャンケンする会場だわ
Q、会場はどういうところですか?
色々あるよ。ここって決まってるワケじゃねぇんだ。
普通にカレー屋さんでやったりするし、知り合いの社長の家とかもあるし公民館であったりとか。
場所は決まってないね 。
俺ら闇ジャンケン師は呼ばれればどこにも行くからさ。
俺らジャンケンできりゃそれでいいんだから。つまり俺らが呼ばれた場所がケン場になるな。
Q、ジャンケン師は今どれくらいいるんですか?
どれくらいだっけなぁ。関東には俺入れて四人。関西は三人。九州は十人以上いたけど、詳しい数まではわかんねぇな。
関西までは横のつながりあっけど、九州まで行くと、もう付き合いとかあんまりねぇんだわ。
Q、九州は盛んなんですね?
ジャンケン賭博があっちのほうから始まったって話だからな。
よくわかんねぇけど、九州人つうのはジャンケンでいろいろきめるんじゃねぇの? 負けた人がジュース代払うとか、負けた人が奢るとか。
そういう文化が九州には根付いてたんじゃねぇかな。
Q、大体の所はジャンケンで決めたりすると思いますが。僕らも子供の頃からそうやってましたし
たしかに……。
Q、ちなみに一回の賭け金はどれくらいですか?
人によって全然違うよ。
でもまぁ一番安くて100円から、高い相手だと1万。それ以上の勝負は俺は受けないな。リスクは大きいからな。
やり始めの頃は結構大きな勝負もしてきたんだ。それこそ10万20万の勝負もしてきてね。でもそうすっとさ、客がどんどん離れてっちゃうんだよね。
一回の勝負で勝つのはいいんだけど、長々と客を遊ばせるにはやっぱり大金をかけちゃいけねぇんだよ。だから1万くらいで遊んでもらって程よくこっちが負けて勝って負けて負けて勝って勝って勝って勝って負けて、みたいな。そんぐらいがちょうどいいんだよな 。
Q、どういうお客さんがいるんですか?
ほとんどが60代70代かな。まぁさ、娯楽がだんだん無くなってきてるじじい達を相手にやってっからさ。
昔は若い者もやってたらしいんだけど、最近の若い奴はジャンケンで金賭けようっていう気にならねぇんじゃねえかな。
だってオタクもそうだろう? ジャンケンでギャンブルしようって思わねえだろ? 競馬とかパチンコとかいくらでもあるんだから
Q、ほとんど常連客という感じですか?
そうだなぁ。八割方は常連客だな。
後は、その客が知り合いを連れてきたり、奥さん連れて来たり。
一見さんお断りって訳じゃねぇんだけど、そもそも存在を知らないから新しい客ってのは、なかなか来ねぇよな。
まぁ客が多すぎてもジャンケン師が少ないから、今くらいがちょうどいいんだけどな。
Q、ジャンケン師のなり手は少ないんですか?
そりゃ少ないよ。誰がジャンケンで食っていこうと思うよ?
それにジャンケンで食ってくにはそれなりに勝負強くねぇといけねぇだろ? 誰でもなれるもんじゃねぇんだよ。
ある種、専門職っつうか職人つっても言い過ぎじゃねぇよ。別にカッコつけてるつもりはねぇよ? でも、本当に職人気質がなきゃ、いつまでもこの世界でやってけねぇからな。
Q、お客さんはどうやって集めるんですか?
それは俺たちの仕事じゃねぇんだ。
俺たちはケン場に呼ばれてジャンケンするだけだから。まぁ大体ダイレクトメールだと思うけどな。今風のよ、スマホでなんかやっても客が使えねぇからやっても意味がねぇんだわ。
かといって堂々と新聞広告打つワケにもいかねぇから、新しい客集めるのも容易じゃねぇよな。
だから常連客は大事にしてるよ
Q、具体的には?
マッサージチェア置いたりよ、スーパーが自分とこで作ってる安い発泡酒っての? あぁいう缶ビール配ったりよ。
一回、焼肉食べ放題つきってのもやったんだけど、じじい連中ばっかりだから誰も肉食わねぇもんで、大量に肉余った時は笑ったな。客層見てサービス考えろって話だよな。
あまった肉は誰が持って帰るか、ジャンケン師だけでジャンケンで決めたよ。あの時はめちゃくちゃ盛り上がったなぁ(笑)
Q、ジャンケン師の報酬はどうなってるんですか?
七割五分。
その日稼いだ金はとりあえず全部、胴元が回収してそこから向こうが二割五分差し引いた金額が帰ってくんだ。
Q、割はあまりよくないですよね?
まぁ仕方ねぇよ。
だって、客集めたくても俺らなんか客とれねぇし。町中で金かけてジャンケンしませんか? なんて言ったら怪しまれて警察に通報されんのがオチだよ。
ケン場くれば客がいるもんだから、その辺は俺らジャンケン師も納得してるわ。
Q、それで生活ができているんですか?
まぁできてるよ。でないとこの仕事長々とやってらんないもん。
もう俺は12年かな、この世界入ったのは。今はだいたい月に20万~30万はいくな。
Q、差し支えなかったら最低月収とMAX月収教えてもらえますか?
この仕事はよぉ、体が資本だからなぁ、ダメな時はほんとダメでさぁ。
1回インフルエンザで2週間位動けなかった時があって、そん時は全然駄目だったなあ。
後はさ、あれだよ。
体調を崩した時にテレビ電話でジャンケンしたことあんだけどよ、テレビ電話だとイマイチ相手の動きが読めなくてさぁ。もう全然勝てなくて、その時はマイナスになっちまったな。
そっからは、やっぱり対面してやんねーとダメだなーって。
だから最低の時は本当借金するぐらいの感じになって。
で、マックスの時は、一回どこかの国のすげー金持ちが来てさ。そんで俺は1万しか受けないけど、それでも何回も何回も挑んで来てね。
で、その日だけで82万稼いだことはあったな。後にも先にも最高があれだな、やっぱり。
Q、テレビ電話で勝負することもあるんですね?
ケン場に行けない時で、ジャンケン師が少ない時はそういうこともあったなぁ。
もう受けねぇけど。ありゃダメだ。人類の進歩がもたらした一番の罪だ
Q、それにしても、どうしてジャンケンで勝てるんですか?
子供の時からよう、ジャンケンはすげー強かったんだよ。
ほとんど負けたことはないね。相手の目を見るだろ、そしたらだいたい何を出すかわかるんだ。目が右の方を見る左の方を見る、上を見る下を見る。あとは手の出し方、筋肉の動き。いろいろ見るんだ。
右足左足、体から出てくるオーラ。それで大体6割いや7割はわかるな。
サングラスかけてるやつは難しいんだよね、だからサングラスの時は外してもらうようにはしてる。
Q、ジャンケン師になろうと思ったキッカケは?
なろうと思ったきっかけは、単純に地元の先輩がジャンケン師やってて、昔からその人と俺はよくジャンケンして勝ったり負けたりしてて。まぁ俺の方が強かったんだけども……。
そんで四十くらいの時に偶然地元で会ってさ。んで、お前まだジャンケン強ぇのか? って言われて、まぁ強いっすよつって。
そしたらジャンケン師やんねーかって言われて。なんすかそれ? みたいな感じでよ。
でも話を聞いてたら面白そうだし、俺だったら勝てる自信あったしちょっとやってみるか、みたいな感じで。だからなりたいってなったわけじゃなくって、流れでなったって感じだな。
Q、仕事で危険な目にあったことはありますか?
やっぱりギャンブルだから、その筋の奴らとかたまに客で来たりするんだよ。
そうすると負けが込んできてキレだす奴とかも出てくんだよ。
そしたらドスか? あれを普通に出してきて目の前でちらつかせてよ、今度は勝たせろみたいな感じになって。
でもこっちも真剣にやってから。真剣にジャンケン師やってっからよ。
そんなもん見せられても、だったらこっちもやってやるよみたいな感じで、強めにグー出して勝ったりするんだよ。
その後、帰り道に待ち伏せされてよ、それこそグーで殴られたりして。まぁでもほら、勝負に勝ってっからよそのプライドだけはもうずっと持ち合わせてんだわ。
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