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Enterprise SaaSのプロダクトマネージャーとして重視している1つのこと

こんにちは。MNTSQ(モンテスキュー)というLegalTech企業でプロダクトマネージャーをやっているikutaniといいます。創業して1年半が経ち、大手法律事務所向けのプロダクト立ち上げを経て、現在は大企業向けのプロダクト立ち上げに注力しています。

Enterprise SaaSの特徴

スタートアップやSMB(中小規模の会社)向けのSaaSプロダクトと比較して、Enterprise(大企業向け) SaaSが持つ特徴はどんなものでしょうか。

プロダクトマネジメントに大きく影響する部分としては大きく3つかと思います。

・ドメイン知識の要求水準の高さ
・コントロールすべき状況や情報が多い
・カスタマイズとの戦い

いろんな部署の方に使っていただくプロダクトの場合は特に、
実際に利便性を感じていただくべきユーザさんと、導入効果を評価する決裁者では、求めているものや課題認識が全然違うということもあります。

こういった状況を上手に乗りこなしながら、高単価でも導入を決めていただけるだけのバリューを出し続ける必要があります。
また、高単価を維持するためにカスタマイズ開発ばかりやっていたのでは提供価値も成長性もスケールしていかないので、どういったプロダクトに落ち着けるか判断するうえでカスタマイズとの戦い(葛藤と言ってもいいかもしれません)に悩まされることになると思います。

※ 今回はプロダクトマネジメントの側面を中心に扱いますが、経営/ビジネス的な側面での特徴については、このあたりの記事が参考になると思います。


今回は、大企業向けにSaaSプロダクトを提供していくEnterprise SaaSのプロダクトマネジメントをやる上で、僕が特に重要だなと思っている「ドメイン・エキスパートとの協働」について書きたいと思います。
(元々は3つ書こうと思ったんですが、書いてるうちにやっぱり1つ目が重要すぎるなと思ったので1つにしてしまいました


ドメイン知識の要求水準が高い

Enterpiseプロダクトのデザインは、求められるドメイン知識水準がとても高いです。例えば..

・何故この業務が必要なのか
・どの部署が関わっているか
・各部署は何を目的にどのようなオペレーションをしているのか
・準拠しなければならない法令や内部規則の趣旨と運用状況

このように、知らなければならないことがたくさんあります。ましてや弊社はリーガルテック企業なので、法務領域のニーズや法的な業務要件なども把握する必要があります。

プロダクトの価値仮説をブラッシュアップ・検証したり仕様やデザインに落とし込んでいく過程で、プロダクトマネージャーが現場についてどれくらいの解像度を持てるかは死活問題であり、事業の成功確率に大きく影響します。ユーザーさんにヒアリングさせていただく際も、ある程度の予備知識がなければ良い質問ができないだけでなく、そもそもユーザーさんの言葉を理解することができませんことすらあります。ユーザーさんからしても、「この人は素人じゃなくて話が分かってる人だな」と思わなければ、課題意識に深く切り込んだ話や感覚ベースの違和感を共有する気にはならないでしょう。


ドメイン・エキスパートの存在

プロダクトマネージャーは誰よりもドメイン知識に詳しくあるよう努力すべきという気持ちはあるものの、スキルも業務も高度化している現代でEnterpriseプロダクトをスピード感を持ちつつ開発することを考えると、この役割をプロダクトマネージャーが1人で埋めることはなかなか現実的ではありません(もちろん業界によります)

そういった中で、プロダクトマネージャーにとって重要なパートナーになるのがドメイン・エキスパートです。事業にとって鍵になるドメイン知識に精通しており、出来ればその業界の内部者であるような人が望ましいです。弊社で言えば、代表であり大手法律事務所の弁護士である板谷がこの役割を担っており、プロダクトの価値仮説や機能案のブラッシュアップだけでなく、顧客対面でも大きく貢献しています。

もちろん、弊社の板谷もすべての法務領域に精通しているわけではないので、必要に応じて長島・大野・常松法律事務所の適切な先生にヒアリングやディスカッションをさせていただくことで、より高い解像度で現場や課題を理解するようにしています。


コラボレーションの品質を高める

プロダクトマネージャーは様々な専門性を持ったメンバーと一緒に仕事をしますが、特にドメインエキスパートと協働するうえでは、「判断力に対する信頼」を勝ち取ることが重要です。具体的には、「こいつに正しく十分な情報が入っている前提なら、必ず正解を出してくれる」という信頼が重要です。

どういうことかというと、

例えば、ある程度の専門知識のブリーフィングをしたうえで、プロダクトマネージャーが設計やデザインを持ってきたのに対し、ドメイン・エキスパートは「イメージわかない」「いまいち」「悪いとは思わないけどピンと来ない」と思ったとします。
ここがプロダクトづくりの出発点です。コラボレーションによってどれだけブラッシュアップできるかが鍵になります。

このコラボレーションを加速させるために大きな役割を果たすのが「判断力への信頼関係」です。これがある場合、「違和感がある = 何か共有されていない背景知識がある」という共通了解をすぐに作ることができ、暗黙の前提を探すためのコミュニケーションにすぐ取り掛かることが出来ます。プロダクトマネージャーは設計やデザインのベースにある情報設計やロジック、配慮したことや切り捨てる判断をしたものを共有し、ドメイン・エキスパートも議論を咀嚼しながら自分の持つ感覚や経験を共有していきます。大抵の場合、重要な前提が漏れていたり、許容範囲に対する見立てが大きく違ったといったポイントが見つかり、それをベースにブラッシュアップが行われます。弊社の場合だと、私と板谷の間で1つの機能について10回ほどラリーをすると良い感じのものができます。

逆に、こういった信頼関係が薄い場合、「とりあえず別案を作ってみる」とか「(プロダクトづくりの素人である)ドメイン・エキスパート側が案を作ってみる」といったことになりがちで、時間を浪費したりクオリティが上がらなかったりします。やりとりを続けているうちに攻撃性を帯びてきてしまって、健全なディスカッションにならないこともよくあると聞きます。「ドメイン知識の差を埋める」という目的にフォーカスできないと、お互いにお見合いしてしまって、「どっちが決めるんだっけ」みたいな、価値仮説とは関係ない社内権限の話に陥ってしまったりします。

ドメイン・エキスパートはエンジニアでもデザイナーでもありません。プロダクトづくりに関わったことがあるわけでもありません。でも、Enterpriseプロダクトに必要な豊富なドメイン知識を保有しています。その中で、ソフトウェアによる提供価値の仮説や機能・デザイン案の品質を高めていくためには、プロダクトマネージャーが「言語化や視覚化」によってコラボレーションをどれだけリードできるかが重要です。


コラボレーション品質は意思決定の品質に直結する

プロダクトマネージャーなら一度はコンウェイの法則(システム設計は、組織構造を反映したものになる)を耳にしたことがあるかと思いますが、Enterprise SaaSの企業では特に如実に現れるだろうなと思っています。

ドメイン・エキスパートも1人の人間なので、意見が間違っていることはたくさんあります。「現場の声だから」という安易な理由で意思決定をするのではなく、「この情報はファクトかジャッジか」を常に見極めながら、技術・デザイン(・ビジネス)の観点から議論や検証を積み上げていくのはプロダクトマネージャーの仕事です。

ドメイン・エキスパート自身が創業者というケースが少なくないと思いますが、プロダクトマネージャーや技術・デザインチームと適切なコラボレーションが起きていない状態でうまくいく事業など、ほとんどないでしょう。ドメイン・エキスパート自身、経営者となり業界内の仕事から離れて時間が経過するなかでドメイン知識が薄れていくことは必然ですから、組織としてコラボレーションがしっかり起きる状態を作れなければ事業成長がストップするのは自明なことかと思います。少し極端な例ですが「毎回無茶なことを要求するだけの創業者に対して開発チームが事情説明をする」みたいな構図ができあがってしまいやすい業界でもあるので、注意が必要だなと思います。

MNTSQはこの辺どんな感じなの?というところは、もしご興味を持っていただけるのであればいつでもお話を聞きに来てください。


組織全体でのコラボレーション

もちろん、ドメイン・エキスパート以外のメンバーとのコラボレーションも重要です。

Enterpriseプロダクトは様々な部署に属する様々な観点を持ったユーザさんが利用するため、優れたプロダクトを作り上げるためにコントロールすべき情報量が膨大です。例えば弊社には弁護士の板谷以外にもパラリーガルのみなさんやプロダクト開発チーム、実際に顧客対面でいろいろな話や現場の状況を感じ取ってくるチームなどいろいろなメンバーがいますが、みんなが収集した膨大な情報が集約されてプロダクトマネジメントに活かされるためには、「プロダクトマネージャーに情報を入れといた方がいい」と思ってもらえることが大事です。

正直、情報が膨大かつ専門性が高いものも多いので、すごく頑張って追いかけないと全体感を持った判断をするのは難しく、全員が常に納得しながら設計や仕様策定を進められるわけではありません。そんな中でスピードを持って進めていくためには、組織全体で情報収集戦をするという意識と、プロダクトの意思決定に関する適切な委譲関係が必要です。この2つを両立させることはなかなか難しく、組織づくりがとても重要になります。

また、プロダクトの各issueについての検討ログを調べられることもとても重要です。行きあたりばったりな議論にならないようにするためにも、積極的にプロダクトのことを調べようとするメンバーに正しく情報が行き届くようにするためにも、日々のプロダクトに関する意思決定を明快なドキュメントとして残しておくことも重要です。


まとめ

ということで、僕がEnterprise Saasのプロダクトマネージャーをやるうえで重視していることをご紹介しました!
他にも、プロダクトマネジメント関連では、組織づくり、カスタマイズとの戦い、小さなシステムで大きな表現を持てる情報設計、「AI」との付き合い方など大きなトピックがあるのですが、また機会があれば書きたいと思います。



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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。 またタイミング見て記事を書くので良かったら見にきてください。