そこにいた。
ピアノを弾く夢を見た。学校に戻り、ピアノのそばに立っていると、先生に「弾いてごらん」と言われ、ワルツを弾いた。意外にうまく弾けて驚き、その後家に帰ることにした。休学が終わったら音楽学科に転科しようかなと考えながら。
目が覚め、時計を見て、自分の手を見つめる。そこには何者でもない、自分がいた。
私はそこにいた。
文学が好きだ。たぶん人生が好きじゃないから、文学を通して自分から逃れようとしていたのだろう。自分を愛せるようになってからは、文学を手放さざるを得なくなり、現実と向き合うようになった。そして今では、自分と他者の境界が次第に曖昧になっている。ただ、音楽だけは違う。音楽だけが、唯一、私を静かにさせてくれるものだ。
その時、私は彼からどんどん遠ざかっていった。雨上がりの空に雲が消えていくのを見ながら、遠ざかる感覚を味わっていた。手にしていたペンを取り、書いては破り、また書いては破り、何かを記録したいと思いながらも、そこにはもう何も残っていなかった。
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