見出し画像

キツネ目 グリコ森永事件全真相

読みごたえのあるノンフィクションです。
いつもながらの、ジャーナリストの取材力には感心させられます。ノンフィクションは、フィクションと違って、「あれは、ああだろう、これは、こうだろう」は許されない。一字一句、正確性が要求される。徹底的に聞き込みをし、何度も現場に足を運んで汗を掻いて書かなければ、読者を納得させる物はできない。
それに引き換え、私のようなフィクション作家は、あまりに調べすぎると、想像力を働かせる余地がなくなり、筆が委縮してしまう。
確かにフィクションの場合、意外と知りすぎると書けないものです。『宮本武蔵』を書いた吉川英治氏などは、剣道の有段者かと思いきや、竹刀の握り方も知らなかったそうです。村田英雄の大ヒット作 ♬王将 を書いた作詞家・西條八十、作曲家・船村徹両氏は、ともに本将棋ができなかったとか。それで、あれだけの歴史に残る傑作が書けるのですから、作家の想像力は、恐るべしとしか言えません。

2021.3.9発売

いやいや、驚きました。この事件に関する本、テレビドキュメンタリーは、何冊も読み、何本も観たので、ある程度この事件に精通していると自負していたら、この本を読んでこんな事実があったとは。
何のことはない、犯人は、多数の証拠を残して、何度も警察に捕まる寸前までいっていたらしい。それを警察が大組織であるがゆえに、小回り、意思の疎通ができてなくて、犯人を目撃していたにもかかわらず、取り逃がしていたらしいです。

① グリコの江崎社長が誘拐される11日前、西宮市役所で運転免許用に江崎社長の名をかたって、江崎家の住民票を取っていた男がいた。市役所の保管倉庫に、その時使った申請書が残っていたが、指紋が残っていたにもかかわらず、指紋を取る前に、その用紙をコピー機にかけてしまい、指紋が取れなかった。その時、指紋が採取されていれば、この事件は早期に解決されていたかもしれない。では、何故、指紋が採取されなかったか? 指紋は、指についた脂肪分の跡なので、コピー機にかけると、その熱で線が分解してバラバラになってしまい、指紋が取れない。
② 江崎社長が誘拐される前、近くの住人が、江崎邸をうかがっている不審な男を目撃していた。が、事件後、そのことを西宮署に電話をしたにもかかわらず、警察はこちらの名前も住所も聞かなかった。これでは、せっかくの情報提供も無駄になってしまう。
③ 江崎社長誘拐2か月半後の1984.6.2、淀川岸で車でデート中の元自衛官が、犯人に恋人を人質にされ、犯人に代わって、現金を受け取りに、焼き肉チェーン店「大同門」に行った。その時、その元自衛官が現金を積んだ車で、淀川岸に引き返す際、犯人の乗った自分の車とすれ違ったにもかかわらず、三日前に中古店で車を買い替えたばかりで、自分の車のナンバーを覚えていなかった。その時、自分の車のナンバーを覚えていて、身代金を積んだ車の後部座席に隠れていた刑事に、そのことを話していれば、後続車の覆面パトカーと一緒にUターンして犯人の車を捕獲できた。(1984.11.20.読売新聞)
④ キツネ目の男のモンタージュと、コンビニに毒入り菓子を棚に置くビデオの男の写真は公開されたが、もう一人、犯人からの郵便物が投函された、名古屋市千種区千種郵便局管内の郵便ポスト付近で、不審な動きをする身長160~165センチの35歳前後の女が目撃されていた。その女(女優の十朱幸代似)のモンタージュを作ったにもかかわらず、キツネ目の男のように広く流布しなかった(私もこの本で初めて見た)。
⑤ その女の声は、グリコの藤江取締役への現金受け渡しの指示の電話のテープにも録音されていたが、それほどメディアに取り上げられなかった(私も聞いたことがない)。もう一人、言語障害と思われる10歳前後の子供の声も録音されていた。しかし、これを公表したら、関係のない障害児がいじめられる可能性があると心配され、別の意味で社会問題化すると見送られた。もし、公表れさていれば、かなり有力な情報が入ったはずである。

これらは、当時の新聞にも発表されていたので、コピペにはならないでしょうが、これ以上書くと、著作権侵害になるのでやめておきます。あとは、この本を読んでください。きっと私と同様、読みごたえのある本を読んだと、満足されることでしょう。
この本を読む限り、この犯人は、運が良かったというより、警察の初歩的なミスが重なって、逃げおおせたといってもいい。今なら、至る所に防犯カメラが設置されていて、リレー形式ですぐに逮捕されるから、この犯人はもう一度同じ手は使えないでしょう。
ここは、この作家に対するアンサー形式で、「あれはそうじゃなかったんだよ、こうだったんだよ」と、この事件の真実をノンフィクションという形で本にすれば、大ベストセラー間違いなしでしょう。この事件のように、身代金受け渡しの危険を冒さなくてもいいし、当時と違って、出版社を通せば印税10%ですが、今なら、アマゾンの電子書籍で出版すれば、印税70%ですからぼろ儲けです。受取口座は、ゴルゴ13のようにスイス銀行にすれば、ノープロブレムです。それに何より、違法行為である誘拐事件と違って、真っ当なビジネス行為でしょう。

最後に、もう一つ興味深いのは、
「くいもんの 会社 いびるの もお やめや (略) くいもんの 会社 いびるの やめても  まだ なんぼでも やること ある 悪党人生 おもろいで かい人21面相」
というこの事件の終結宣言が、1985年8月11日に摂津郵便局管内から投函されているということです。1985年8月11日といえば、東京羽田空港から、大阪伊丹空港に向かっていて520人が亡くなる、あの日航機墜落事故が起きる前日です。その飛行機には、彼らに脅迫されていたハウス食品の浦上郁夫社長(47歳)が乗っていて、命を落としています。事故当時、ひょっとして犯人も、その飛行機に乗っていたので、その後、脅迫状が届かなくなったのでは? という説がありましたが、すべては闇の中です。
(ブログ『JAL123便、横田基地に緊急着陸せよ!!』 2019.9.17.参照)
http://ameblo.jp/ikusy-601/


いいなと思ったら応援しよう!