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【エッセイ】同窓会には行かない
幸せな、じぶんを見せたい。
三十路のころ、そんな時期が少しだけあった。
地元の学校を出た中学時代までは、同級生や先生とトラブルを起こしてばかり。問題児扱いされ、学校では誰もわたしに寄りつかず、家族からも眉をひそめられる日々だった。
そんな生活が、小・中学校の同級生たちが誰も行かない高校に進学すると、ガラリと変わった。
高校デビューとはならなくても、中学とおなじく40人いたクラスの子たちと、3年間ひろく浅く、なんのトラブルもなく付き合えたし、違うクラスに彼氏だってできた。
大学卒業を機に、その彼氏とは別れたけれど、
ピアノと声楽を学び続けていたのが実になって、ピアノ講師兼ブライダルシンガーという、ちょっと人とは違う仕事に就けた。
家族に眉をひそめられることも少なくなった。
楽しめたのは、おしゃれやヘアメイクだけじゃない。ひとり旅も楽しめるようになり、地元にいた頃よりも自信がついた。
仕事が休みの日には、趣味のドライブやカフェめぐりに興じて、
あぁ、わたしって幸せだなぁ。
結婚の予定どころか「いい人」もいないけれど、おひとりさまを、こんなにも楽しめている。
と、悦に浸ったりしていた。
たった2人しかいない中学時代の友だちに、
同窓会に誘われたのは、
ちょうどこの時期だった。
これは、いいチャンス。
心のなかで、ニヤリとした。
きっと、同級生たちのなかには、
わたしを見下していた人もいただろう。
逆に、友だちができないわたしのことを、こっそり心配してくれた人もいたかもしれない。
そういった人たちに、
おほほほほ、わたしは幸せよ〜!
と、思う存分アピールできる。
同窓会1ヶ月前。
所属していた音楽事務所から送られてきたシフトを確認し、当日は休みが取れているとわかった途端。
ひどい過呼吸に苛まれた。
かよっていた中学校には、いい思い出はない。
学年に友だちがひとりもいなかったこともある。
そのときに向けられた、先生や同級生たちの敵意のまなざしや、悪意ある言葉たちが、次々と脳裏にフラッシュバックした。
あぁ、そうか。
ふたりの友だち以外の、知らない同級生たちは、
むかしは1人残らず敵だったのだ。
そんな人たちのいるところで、
幸せ自慢なんて、できるのか。
なんだか急に、怖くなった。
友だちのひとりに、
同窓会に行かない旨をメールで伝えた。
4日ほどして「わかった」と返事がきたが、念のため県外にいるもうひとりの友だちにも連絡した。
「えーっ、行かないの? ざんねーん」
電話口からの友だちの声に震えたのは、
同窓会10日前のことだった。
最初に伝えた友だちから聞いているんじゃないかと思ったが、甘かった。
ひょっとして、過呼吸を押しとどめてでも、
行くべきだったんじゃなかろうか。
当日は、50人くらいの同級生たちが旧交を温めあって、それは楽しい会だったと、2人の友だちは口を揃えて言っていた。
行けば良かったかなぁ、
幸せ自慢しとけば良かったかなぁ、
と、おおいに揺れては忘れ、を
去年までは繰り返していた。
けれども、「同窓会に行かない」心理についていろいろ調べているうちに、
どうも「同窓会に行く」人々の幸せは、
わたしの思っている幸せとは違う。
ということが、わかってきた。
彼らの言う「幸せ」は、
結婚していること
高収入の夫と、優秀な子どもがいること
安定した職に就いていること
仕事で成功していること
など、らしい。
なるほど、わたしのように
結婚していなくても彼氏がいなくても
安定した職に就いていなくても
成功したり活躍したりしていなくても
ただ、じぶんの心の赴くままに
ふらっと出かけたり旅したりできる
おひとりさまを楽しめる
というのは、彼らの言う「幸せ」には
当てはまらないようである。
そして、
結婚の予定もない
「いい人」もいない
音楽の分野で成功もしていない
安定した職に就いていない
わたしは、格好のマウント要員になりそうだ。
ということも理解できた。
もし、あのとき同窓会に行っていたら。
「えーっ、彼氏いないのぉ? 結婚っていいよぉ、早くしなよぉ。子どもだってめっちゃかわいいんだからぁ」
「あっ、Sazanamiさぁ、あの子のこと好きだったんじゃなぁい? 独身らしいよぉ、チャンス、チャンスぅ〜!」
などと勝手に盛り上がられ、好きだった子だろうとそうでなかろうと、知らない同級生と公開お見合いのすえ不本意にカップリングされて、
ただただ、ぐったり……
みたいな様子が見えた気がした。
視界が歪むほどの過呼吸に苦しんだときには、
友だちとの約束を
守れないことが不甲斐なかった。
それでも、じぶんの心は守れたのかも。
四十路の現在。
わたしは結婚して、3歳になる娘の子育てと
家事に追われる専業主婦である。
同窓会の誘いはあったが、
今度もまた、行かなかった。
結婚して子どももかわいくて、幸せよ〜!
と、心から思っていても、
知らない同級生たちにひけらかす余裕はないし、「結婚っていいね〜」とは、やっぱり言えない。
充実したおひとりさまと、
家事と育児に追われる主婦。
どちらも幸せであって、
どちらも幸せでないのかも。
なにも、
「結婚してるから幸せ!」
「安定した職に就いたから幸せ!」
「成功したから幸せ!」
「旦那が高収入だから幸せ!」
「子どもが優秀だから幸せ!」
と声高に言いきれる人たちばかりの場に
のこのこ出かけていって、
神経をすり減らすこともない。
「結婚? なにがいいのかな。明瞭簡潔に200字以内で教えて?」とか
「うんうん、高収入なのは、あなたじゃなくて旦那さん。優秀なのは、あなたじゃなくて子どもたちね、はいはい」とか
「仕事はできても人としてどうなのかなぁ」とか
思っていても、いざとなると貝のように押し黙ってしまうわたしには、マウントを跳ねかえす強靭な精神などないのだ。
もしかすると、あのときの過呼吸は、
あなたが同窓会に行っても
嫌な思いをするだけだよ!
という、内なる叫びだったのかもしれない。
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