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「障がい当事者と子どもの交流プログラム2024」取材②

■⼯房アリアーレで編みあみぽんぽん作り体験

8 ⽉ 22 ⽇、横浜市旭区にある⼯房アリアーレで⼩学⽣と障害当事者との交流イベントが開催されました。この⽇は、主に⼩学校低学年の⼦どもたちが⼯房を訪れ、障害当事者である利⽤者の⽅々と⼀緒に「編みあみぽんぽん」を作るプログラムに参加しました。⼤学⽣のボランティアとしてこのイベントに参加し、取材させていただきました。


■工房アリアーレとは?

工房アリアーレとは、脳卒中や脳外傷等によって障害を受けた、主に高次脳機能障害の方のための働く場、次のステップの場で、14 年前に設立されました。普段は自主製品の製作や販売のほか、カフェ営業などを行っています。
取材で訪れた場所は、2 階がカフェと工房があり、 3 階は主に工房になっているというお話を伺いました。また向かいにあるフェニックス旭とともに、旭区および近隣区における高次脳機能障害の相談拠点として、横浜市高次脳機能障害支援センターと協力しながら様々な相談に応じているそうです。年齢制限は特になく、30 代から 70 代といった幅広い年代の方が所属されています。現在は 22 人の利用者の方が在籍されているそうです。

高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、脳卒中や脳外傷等の病気やけがによって脳に損傷を負うことで、言語や記憶、思考などの脳機能に障害が起こった状態のことを指します。
●主な症状
➀記憶障害
➁注意障害…集中できない、ミスが多く効率が上がらないなど
➂遂行機能障害…計画ができない、順序通りに実行できないなど

上記に主な症状をあげましたが、損傷の程度や当事者の捉え方等によって病状は様々であり、個々に合ったアプローチやリハビリが必要不可欠だそう。「工房アリアーレ」の所長さんも、「100 人いたら 100 通り」とおっしゃっていたように、病気によって一括りにせず、個々に向き合う眼差しが大切であることを実感しました。


■初めての体験に挑戦する⼦どもたち

この⽇参加した⼦どもたちは、編み物をするのもこういった交流会に参加するのも初めてで、最初は少し緊張している様⼦も⾒受けられました。それでも利⽤者の⽅々が「ここはこうやるんだよ」と優しく⼿ほどきすると、次第に編み物のコツを掴み楽しそうにぽんぽん作りに没頭していきました。

話を聞いた⼦どもたちは当初はこのプログラムが障害当事者の⽅々との交流会だとは知らなかったようですが、編み物を通じて⾃然にコミュニケーションが⽣まれ、最後には⼀緒に過ごせたことを楽しんでいたようです。

特に印象的だったのは、⼦どもたちが「これはどうしたらいいの?」と気軽に利⽤者の⽅々に質問している姿でした。初対⾯であるにも関わらず、臆することなく質問する⼦どもたち。それに丁寧に応える利⽤者の⽅々との⾃然なやり取りが⾒られ、笑顔が絶えない温かい時間が流れていました。⼦どもたちが集中して⼀⽣懸命に取り組む姿に、私や周りの⼤⼈たちも驚かされました。

作業の中でも特に⼦どもたちが夢中になっていたのが、ぽんぽんの飾り付けの作業です。⽬やビーズをつけて、オリジナルの可愛いぽんぽんが完成しました。⼦どもたちは「ここにもっとビーズをつけたい!」「ここにも⽬をつけたらもっとかわいいかも!」とアイデアを出し合い、個性豊かな作品を作り上げていきました。

パーツをつけて飾り付けることで⼀⼈ひとりの個性が光り、⼦どもたちの創造⼒の豊かさに利⽤者の⽅々も感⼼していました。⾃分たちが作った編みあみぽんぽんを嬉しそうにカバンに付けて帰る⼦どもたちの姿は、楽しい思い出を持ち帰っているように⾒えました。

■障害当事者の⽅にとっても良い刺激に

障害当事者である利⽤者の⽅々にとっても、このプログラムは特別なものでした。普段は⼯房で作業をすることが多く、外部の⼈、特に⼦どもたちのような若い世代との交流はほとんどありません。最初は緊張していた利⽤者の⽅々も、⼦どもたちの無邪気な質問や笑顔に触れるうちに徐々にリラックスしていきました。

利⽤者の⽅々が最初はとても緊張していたと聞いたときは驚きましたが、実際のやりとりではその緊張感を感じさせない優しさが伝わってきました。⼦どもたちが作品を完成させたときの喜びの表情、そしてその姿を⾒て微笑む利⽤者の⽅々やスタッフの皆さんの笑顔がとても印象的で、私⾃⾝も温かい気持ちになりました。

⼯房のスタッフの⽅によると、普段よりもシャキッとした様⼦で、⼦どもたちとの会話や⼀緒に作品を作る時間は利⽤者の⽅々にとっても⼤きな刺激となったようです。ある利⽤者の⽅は、「編み物はあまり得意ではないけれど、⼦どもたちに教えるのはとても楽しかった」と話してくれました。

「また次の交流会があったら参加したいですか?」という質問に対して、「参加したい」「まだ分からないけど、参加したいと思う」と笑顔で話してくれた利⽤者の⽅もおり、イベントを楽しんでいる様⼦がうかがえまし た。編み物が得意でない⽅も、他の利⽤者と相談しながら⼦どもたちに教えている姿が⾒られ、参加者全員が協⼒し合っていました。

感想①

私⾃⾝、ボランティア活動やこういった交流会に参加するのは初めてであり少し緊張していましたが、実際に参加してみると和やかな雰囲気に包まれ、あっという間に時間が過ぎました。

特に印象に残ったのは、互いに初対⾯でありながらも⼦どもたちと利⽤者の⽅々がすぐに打ち解け、楽しそうに過ごしている様⼦でした。「⼩学⽣と障害当事者の交流プログラム」というと堅苦しいように感じますが、実際に交流会に参加して感じたことはそういった⽬的を忘れてしまうほどに⾃然な雰囲気の中で、お互いが⼀緒に過ごす楽しさや新しい発⾒を純粋に楽しんでいたことです。会話や作業を通じて、⼦どもたちと障害当事者の⽅々が⾃然に⼼を通わせている様⼦が印象的で、まるで友⼈と過ごしているかのような温かさと和やかさに満ちていました。

また、個⼈的に驚いたことは⼩学校低学年の⼦どもたちの吸収⼒です。ぽんぽん作りの作業、また最後のクイズなどを通し、⾃分が想像していたよりもずっと⼦どもたちは周りの⼈の話を聞いていて、よく観察しているなと感じました。今回の交流会に参加するまではこういったプログラムが⼦どもたちの記憶に残るのか、しっかりと理解してもらえるのだろうかという不安もあったのですが、そんなことは杞憂であると感じるほどに⼦どもたちにとって⾝になるものだったのではないかと思います。

今回の交流会で残った記憶が「楽しかった」だけだったとしても、今後障害者の⽅との関わる機会を持った時に今回の経験から「よく知らない存在」ではなく、「⾝近な、互いに助け合う存在」として思い出してもらえるきっかけとなったのではないかなと思います。⼦どもたちだけでなく障害当事者の⽅たち双⽅にとってもこれからまた関わりを持っていきたいと思えるような機会であったら良いなと思っています。(もりた)

感想②

今回の取材で一番実感したことは、「ケア」に対する関わり方・向き合い方は多種多様であるという点です。「支援事業」と聞くと、どうしても一方向的なケアの形をイメージしがちであり、私も今回のイベントに参加するまではそのような先入観を抱いていました。しかし当日、子どもたちが純粋に楽しむ姿を目の当たりにし、「支援者」「被支援者」という垣根を越えた双方向的なケアの在り方について考えることができました。

もちろん「工房アリアーレ」は、働く場・次のステップへの場という位置付けであるため、発症から間もない方や病状の重い方に対するアプローチは必ずしも同じようにはいかないと思います。実際に旭区では、「工房エリアーレ」の前のステップとして、「旭区リハビリ教室」や「フェニックス旭」といった、病状の段階に応じた支援体制を構築していると伺いまし た。しかし、相互に繋がる場をつくることによって、助け合いの輪が広がり、支援事業や障害のことを知ってもらうきっかけにもなると感じました。

イベント終了後に所長さんから少しお話を伺いました。そのなかで、課題もたくさんあるのだということを実感しました。「工房アリアーレは 2 階にあるため、いかにして地域の人に立ち寄ってもらうのか」ということ。「横浜市からの助成金のみで運営しているた め、財政面はなかなか厳しい…」ということ。特に金銭的な課題は、「工房アリアーレ」単体で解決できるものではなく、行政の制度面にも関わるため、長期的な視点が大切であると実感しました。

私はこの取材を通して、「あらゆる人に開かれた空間」は素敵だなと感じました。「工房アリアーレ」では定期的に今回のようなイベントを開催しており、地域のお祭りに参加することもあるそうです。また「工房アリアーレ」では年齢制限を特に設けておらず、「開所当初横浜市から“ご本人が通えるまで通える場所となるように”というお話があった」と伺いました。このように緩く繋がりあえる場は、今の私たちが一番求めているものなのではないかと感じました。

最後に、取材に協力してくださった「工房アリアーレ」の方々、旭区社会福祉協議会の方々、横浜市ボランティアセンターの方々、貴重な機会をありがとうございました!(みぎた)

感想③

私が取材させていただいた利用者の方は、元々文化刺繡をやられていたそうで、ポンポンをつくっている時にも手先の器用さが際立っていました。イベント中、その方の刺繍作品を拝見しましたが、シンプルなデザインながらも目がとても細かく繊細で、色使いも素敵でした。また、その方に刺繍についてお話を伺った際に、生き生きと話されていたことも印象的でした。本人は工房アリアーレに通う理由について「他に行くところないから。」とおっしゃっていましたが、文化刺繡をやっていた影響で細かい作業が好きとのことだったので、それも作品制作の原動力になっているのだろうと思いました。

工房アリアーレの利用者さんのように中途障害をもつ人の中には、障害をもつ前までの生活から突然大きく変化したために将来に不安を持っている方も多くいます。障害をもった後にもこういった自分の”好き“や”得意“を活かせる場を開くことは、中途障害者の方々が生きがいを持って生活を送ることにつながる素敵な活動です。工房アリアーレ所長さんからの事業所紹介にもあったように、まさに”次のステップの場“になっていると感じました。

一方、小学生の皆さんはポンポンをつくることに夢中になり、楽しんでいる様子が見られました。利用者さんに自ら話しかけてくれる子も多く、よい交流の場になったと感じます。また、途中で参加理由を聞いたところ、「ポンポンをつくるのが楽しそうだったから。」と話してくれました。これを聞いて、大人になると今回のような交流会に参加するのはボランティアという形が多いけれど、やはりこういった純粋な気持ちから生まれる地域のつながりも大切にしたいと思いました。小学生の皆さんには、是非これからもコミュニティイベントに積極的に参加してほしいと思います。


■未来に繋がる交流会

今回の交流会は、今年の 1 ⽉に準備を始め、4 ⽉から本格的に計画された特別なプログラムでした。⼿芸が得意な利⽤者の⽅々が⼦どもたちと⼀緒に楽しめるようにと、スタッフの皆さんが⼼を込めて作り上げたイベントです。

利⽤者の⽅々が⾃分の特技を活かし、⼦どもたちと直接関わることで、新たな発⾒や学びが⽣まれたことは⼯房アリアーレの未来にとって⼤きな⼀歩となったのではないでしょうか。

⼯房アリアーレはこれからも地域とのつながりを⼤切にし、より多くの⽅々が訪れる場所を⽬指しています。今回の交流会は、参加者全員にとって忘れられない素晴らしい経験となり、次回もこんな素敵な交流が続いていくといいなと⼼から感じた⼀⽇でした。私もその⼀部になれたことを嬉しく思います。これからも多くの笑顔が⽣まれる場として、⼯房アリアーレのさらなる発展を応援したいと思います。


■普段の⼯房アリアーレにもぜひ

⼯房アリアーレは普段はカフェとしても運営されており、提供されるコーヒーは地元のコーヒー店と共同で作った特製ブレンド。利⽤者の⽅々が⾃らコーヒーを淹れ、接客を⾏っています。

しかし、建物の 2 階にあるため地域の⼈が⼊りづらいという課題もありま す。今後は地域のお祭りやイベントにも参加し、より多くの⽅々に⼯房を知ってもらいたいと考えているそうです。⼯房では美味しいコーヒーの他に、利⽤者の⽅々が作成したさまざまな⼿芸、クラフト作品も販売されています。ぜひ⼀度カフェやお店にいらしてください。


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