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青少年育成とチャイルドライン

青少年育成にとって
子どもの声を受け止める大切さ

 インターネットの普及やさまざまな格差が顕在化し、これまでの社会通念や価値観が大きく揺れ動く社会で育つ青少年たちは、多様な悩みを抱えています。

青少年との関わりの中で、そんな悩みが露呈すると、つい大人の視点で良かれと思うことを勧めることがあります。自分自身の経験にもとづき、影響を受けたことや大切に思っていることを次の世代に伝えることが、青少年の育ちに役立つと考えて・・・。

しかし本当は、青少年の声を受け止め、一人の“ひと”として向き合うことも求められているのではないでしょうか。耳を傾け、声にならない声を救い上げる、そんな気持ちが、青少年育成に関わる人間にとってとても大切になっています。

今回は「よこはまチャイルドライン」さんにお話しを伺い、子どもの声を受け止めることについてお聞きしたいと思います。



「相談」というより「聴く」チャイルドライン

 よこはまチャイルドラインの主な事業は、電話を通じて子どもたちの声を聴くことで、今年の8月からはチャットも始めました。
電話相談と言うと問題解決のように感じられるので、私たちは電話で子どもたちに寄り添うことをメインにしています。ただ話を聴いてほしいっていうことであれば、聴くだけで終わるだろうし、どこか相談先を探しているのであれば具体的に紹介します。子どもたちが気になることを自由に話してもらって、どんな内容の電話でも全て受け止めます。

電話の始まりは必ず「はい、チャイルドラインです」と名乗るようにしていて、相手が「ワー」と勢いよく話しかけることもあれば、しばらく言葉に詰まることもあります。そんな状態になったら待ってみる。「ゆっくりでいいよー」という感じで。無理はしないで、喋りたいことを喋って、急に(電話を)切っても別に怒らない。「いいよ」って言ってくれるのがここなので。

日常の場面では、何かに気を遣って、誰かに気を遣っておそらく生きているんだろうから、ここも「ちゃんとしなさい」っていうのはしなくていいかなって思ったりします。

学校に配布しているカード

電話の終わり方

 チャイルドラインには4つの約束があって、「いやになったら切ってもいいよ」ということが含まれています。基本的には子どもたちが主導権を握っているので、電話を受ける際には切られてもいい覚悟で臨んでいますね。

1回の電話時間は子どもによりますが、通常は長くても1時間、時間が長くなりすぎると疲れや混乱が生じる可能性があるので、一般的には30分ほどをひとつの目安にしていますね。

悩みがある場合には一緒に考えてみて「私はこう思うけど、あなたはどう?」と伝えたり…子どもが決めることなので、そのために一緒に考えるサポートですね。最終的には子どもたちが電話を通じて明るい気持ちになった、ホッとした、すっきりしたということが生まれるといいと考えています。

電話の終わり方は難しい部分で、相手の気持ちや求めていることを見極めながら行っていますが、もやもやとか曖昧で(終わっても)いいとも考えています。電話のハードルが低いし、「今日はここまでだったけど、また明日もやっているから」「また同じ時間帯やっているからかけてね」という電話の終わり方もあります。もし、よこはまチャイルドラインが対応していない時間帯でも、「別の人が話を聞いてくれるけど、いつでもかけてね」と全国のチャイルドラインにつなげることもありますね。

無言のメッセージを受け止める

 電話では相手の表情や仕草が見えないので、「今あなたの話を聞いていてこんな風に思ったよ」とか、「どうしたらいいかな?って考えながら話しているんだよ」といった風に、感情や考えを声に出して具体的に伝えるようにしています。うなずきや相槌も大事にしていて、「うんうん」とか「そうだね」といったことも必ず声に出して伝えています。

特に相手が無言の時は声をかけながら反応を待つのですが、沈黙を避けるためではなく、こちらが黙っていると相手は不安になることも多いと思うので「聞いているよ」とか「焦んなくていいよ」とか「ゆっくりでいいよ」とか伝えながら、じっくりと待ってみることを心掛けています。

子どもたちはやっとの思いで電話をかけてくることも多いので、無言の間でもその時間を大切にします。無言の時間は5分や10分といった長い場合もありますが、時間が経って喋ってくれることがあったりしますし、話ができなくてもそこには何か意味があるんだっていうことを受け手もメッセージとして受け止めます。完全な無音ではないこともあるので、背景の音や環境音について、「電車の音がするね」とか「テレビの音がするね」といった言葉を投げかけたり、非言語的な合図(ノックなど)を使ってコミュニケーションをとることもありますね。

新しく入った受け手のボランティアの方たちは、沈黙が怖いと感じることがあります。そういうことは研修の中でどういう風に声かけをするか学んだり、何度も入っているうちにだんだん慣れてくるというところもあります。

電話の受け手

コロナの影響と変化

 コロナ禍では、電話の件数は激減して、少人数で活動するなどの対応を取っていました。減少の原因には、親がテレワークで家にいる、外に出られずひとりの時間を確保しにくい、他にオンラインでできることが多くなったことなどがあると考えています。

内容はコロナに関連したものや深刻な悩みは少なかったですね。本当に稀に「コロナで学校行けなくなって嫌だ」とか、親との関係「ずっと親が家にいるから鬱陶しい」とか「あれができない。これができない。」というのはありましたけど多くはなかったです。子どもたちの思いや悩みは、(コロナ禍でも平時でも)そんなに変わらないんじゃないかと感じています。「自分のこと」が一番で、「性について」が2番目か3番目に入る。ちなみに昨年度から神奈川だけでなく、全国の電話も取っていますが、全国の電話内容も大きな違いはないですね。

電話の件数の変化には、オンラインツールの発達が影響している可能性があります。よこはまチャイルドラインでは今年の8月からチャット対応を開始しましたが、コロナ以前から行われていた地域では、やはりニーズがあるようです。また、男性の受け手ボランティアもコロナ以降増えています。多くはお仕事の後にボランティアに来ていただいていますが、テレワークなどで働き方が変わったことが理由かもしれないですね。男性だからすごく話す子どももいるのでとてもいいことだと感じています。

個人のスーパービジョン

お説教やアドバイスをしない

 ボランティアの受け手になる前には養成講座があり、1年間は実際の活動の前にインターンとして参加してもらい、この期間には受け手より丁寧な研修を行ないます。事例検討会が年5回、ロールプレイを年2 回、個人のスーパービジョンを随時やっていて、毎月のプチ研修が行われます。

プチ研修は、例えば“LGBTQ”について資料を用意しておいて、その日来た人同士で資料を見ながら少し話しをするというものです。これらの研修を経て、1年が経過すると初めて正式な受け手となります。受け手になってからも養成講座とかの研修も受けられますので、研修機会は多いのかなと思います。

研修は、「傷ついている子どもをさらに傷つけないために、みんなが共通して対応しよう」という意図でやっています。例えば、死にたいという子どもに対して「悲しむ人がいっぱいいる、親を悲しませちゃいけないよね」といった説教的な発言は避ける。言わない方がいい・さらに傷つけない対応を研修で補っています。

チャイルドラインの4つの約束には入っていないものの、お説教やアドバイスをしないことがモットーとされています。ついついお説教を言ってしまわないように、研修などで気づきを持ってもらうしかないですね。良かれと思って言っているんですけど、“子どものため”というのが少し危険だと思っています。

私はチャイルドラインに入った時の先輩に「“ありがとう”って子どもから言われたら要注意」と言われたことが強く印象に残っています。「自分自身がアドバイスで喋っているかもしれない」「“ありがとう”って相手が気を遣って言っているかもしれない」と振り返られるようにという意味です。“ありがとう”って言って早く切りたいみたいなこともあります。「それを感謝されて良かったと思うことは違う」というのを言われましたね。

大人はやっぱり“ありがとうございました”とか“よかったです”とか、ある一定の起承転結の“結”があって終わるとスッキリします。逆に子どもが自分の言いたいこと言ってガチャンと切ったら(受け手が)不安に思うけれど、子どもは言いたいことだけ言えたら、それでいいのかもしれない。その起承転結の“結”までいきたいのは、むしろ受け手側だろうと考えなくちゃいけない。あくまでもその子がどう思っているかなんですよね。


2022年度によこはまチャイルドラインが受けた子どもたちの電話は総数10,770件、そのうち会話が成立した電話では、「自分」「性に関すること」「学校・フリースクール」が内容のトップ3となっています。
「名前を言わなくてもいい」「顔を合わせなくてもいい」「家族でも先生でも友達でもない」人との電話は、日常の中では憚られるような内容を話すことができます。このような電話の内容は青少年の関心や心配ごとを純粋に表しているのではないでしょうか。
しかし、非日常の中だけで完結できることでも、完結することでもありません。顔を合わせて青少年と向き合う場所においても、このような内容を受け止める準備は必要なのだと感じます。

NPO法人よこはまチャイルドライン「With You 第76号」より
〈https://www.yokohama-childline.com/activity/withyou/〉


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