ミーハーヲタクには時間が足りない話
諸兄諸姉の皆様方、こんにちは。あるいははじめまして。
幾崎ふぁんと申します。
隔週更新も予定していたのに気が付けばもうこんな時期に。そう、年の瀬最後のお祭りコミケです。
初日は一応サークル参加の末席に身を置く――29日西は03bをよろしくお願いします――ので遅刻は許されない為もう寝るのですがこれだけだとあんまりにも短いのでまたミーハーヲタクの短編を少々載せます。いつも通りのフィクションです。実在の人物にはあまり関係ありません。
ということで、ここまで読んでくださった皆さまありがとうございました。
最後までお付き合いいただける方は本当にありがとうございます。
おそらくはこれが年内最後のnote更新です。来年も皆様の健康を陰ながら祈りつつ、来年はわたしのバーチャル体を使って動画作ってみたいなと、見てくださってる鬼の皆さまを笑わせにいきつつ。
では、よいお年を。
◆
ポッポッポッ、ポーン。
ノートパソコンとにらめっこしていた僕は開きっぱなしにして放置していた動画サイトから日付が変わったことを知る。
まずい、時間がない。
コピー機で印刷するとはいえ折ることを考えると残されたのはあと……
「ねぇーひまなんだけどー早く乱闘ゲームしましょうよーキャラ揃えた意味ないじゃなーい」
なんて残り時間を計算していると、空気を震わせることの無い猫撫で声が僕へ伝わる。
それは僕にだけ聞こえる声。傍から見れば幻聴と同じで、
僕がおかしいだけかもしれないけれど愛すべき隣人たる彼女は確かにここにいる。
「私が出来ないの知ってるでしょー」
知ってる。それに僕だって本当は早くゲームしたい。むしろゲームだけしていたい。
「だから普段から少しずつやりなさいって言ってるのよ。普段おちゃらけてそれで時間が足りないだなんて当然の報いだと思わない?」
容赦なく銀の弾丸を打ち出す彼女の視線は冷たい。
そうだよな。でも分かっていても実際に行動に移せない弱い人間なんだ僕は……
「そもそも貴方のその行動に何の意味があるの? 読まれることのない御伽噺ほど悲惨なものはないと思うけど」
「僕が読む。書くたびに読むんだ」
「詭弁だわ……それで満足するなら頭の中でやればいいじゃない。私みたいに」
自分の中の何かを形にしたかった。外に出したかった。そうすることで何かになりたかった。
世界を救う勇者になりたいだとか、叡智を極めた賢者になりたいだとか、そんな話じゃないけど。
「……そりゃ世界の危機でもないし情報は海よりも広いこの世の中でそんなこと言い出したら頭の病院を勧めるけど」
それに僕が本の形を作りたいのにはもう一つちゃんとした理由がある。
怖いのだ、死ぬのが。
「どうしたの急に。でも、んー、ほとんどの人間はそうじゃない? 私には観測のしようがないから知らないけど」
「死んだ後になにも残らないのが怖いんだ」
「ちゃんと残るわよ、誰も貪らない腐肉と預金に借金、それから貴方が買い集めて大切に仕舞い込んだ宝物」
「そこに僕が残ってるのか」
「どれも素敵な貴方の証よ?」
「僕はそう思えない」
「嘘ばっかり。私が思ってることは貴方も考えたことなのに」
今日は特に言葉のとげが痛い。彼女にも虫の居所が悪い日なんてものが有ったりするんだろうか。
「いいから私にかまってないで手を動かせって言ってんのよ。どうせ終わらないとゲームしてくれそうにないし……間に合わなくて後悔しても知らないわよ」
その言葉を聞いてやっぱりこいつは僕なんだなぁ、としみじみ思う。
黙々と作業を再開する。ノートパソコンとにらめっこしながら少し考えて一文を打って、変えて、消して。
このままのペースが維持できればコピー本の体裁は保てるだろう。少なくともさっきよりは進みがいい。
そうこうしているうちに彼女が話しかけてくることもなくなる。ただ退屈そうに画面を見つめている。
僕が黙れば彼女も黙る。だって彼女はそういうモノだから。
貴方が残したい貴方は、ここにあるのね。
だれかがぽつりと、そう漏らした気がした。
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