嘘の苦手なミーハーヲタクの話

諸兄諸姉の皆様方、こんにちは。あるいは初めまして。
幾崎ふぁんと申します。

気が付いたら1月どころか2月が終わっててびっくりする今日この頃。節分も値下がりした恵方巻き食べただけで終わってしまったけどこの場合福も鬼も何処へ行くのか。引きこもり?
鬼といえば嘘が嫌いと聞いた覚えがあるけど酒呑童子だけだったような……という事で今日は嘘の苦手な話と、思い出し後悔する話です。中身はまごうことなきフィクションですが。
では、もう少しだけお付き合いいただけると幸いです。

                ◆                

ぼんやりと、ふわふわと漂っている。
こんなでも仕事している限りは人並みの生活が約束されてるんだから便利な職場よねー、なんて他人事のように思い。彼が淡々と目の前の仕事に流されていくのをただ見ている。
私にとってこの時間はあまりにも退屈だけど。私が彼と一心同体である以上は受け入れるほか無い。彼は退屈でもないのか、ぽつぽつと恨み言を呟いては時折一緒にいる人に話しかけてゲラゲラと楽しそうに笑っている。でもよく見たら目が死んで……いつもの事か。
もしかしたら彼は私の夢なのかもしれないと思った事がある。突けば弾けてしまうような泡沫の夢。だけど夢を見るしかできない私にとってそれは全てであることと同じだ。
私を動かせるのが私ではない限りこの思考は嗜好でしかない。あ、今のちょっと上手いかも。
それにしても人と話すときは随分と楽しそうに笑ってる。一緒にいる人間と話す事に何かしらの価値があると信じているのだろうか。いつも他人のことなんて分からないと言ってるのに? 
……なんだか裏切られた気分だ。なんて、嘘だけど。元々話す事に抵抗があるわけでもないし。
だからといって会話が出来るかは知らないけど。
彼が慌ただしくなるにつれて私の意識は静かに落ちていく。
このまま目が覚めなければ楽なのかもしれないのに……いえ、これも嘘ね。
だってそれじゃあ私が楽しくないもの。

…………
………
……

はぁ……
僕が珍しくもないため息をついているとこれもまた珍しくもなく、彼女がだらりと絡んできた。
「どうしたの溜め息なんて。気分も悪そうだしまたなんか失敗でもした? さっきの仕事?」
いや、仕事のミスなんて大したことしてないからどうでもいいんだけど。
「そう。なんていうかバッサリしてるわね……」
そもそも言わなかったとしても彼女にならわかるはずなのだ。だって彼女は僕自身なのだから。
「いやね、そんな訳ないでしょ。自分の事なんだから考えてる事が全部分かるだなんてそれは何も考えてないのと同じことよ」
なるほど何言ってるかさっぱりわからない。つまりは僕がわからない時点で彼女は自分の言葉を証明してる訳だ。
「それにわかっていても言葉にすること、それ自体に意味があることだって……ま、そんな言葉遊びなんてどうでもいいじゃない。それでどうでもいいような失敗から、どうして気分悪くしてるのよ」
「本当にたいしたことじゃないんだけど。ちょっとしたミスから気分が落ち込んで、そのままぼんやりと関係のない昔の発言が色々とフラッシュバックしてきたんだ。大して親しい間柄じゃないのに不用意な行動してしまったり、僕はどうでもいいと思ってたけど向こうはそうでもない事を言ってしまったりして人を傷つけてしまったのではないかと」
文章は消せても言葉と石を投げた事実は消せない。そんなこと考えてたらだんだんと胃の腑が重くなってきたのだ。
「ふーん……多分、あなたがどんな行動したところで同じように考えるわよ。あの時ああすればよかった、って。何もしなかったら、何かしておけばよかった、かしら。もっといい選択をなんて、終わった後になって結果を知っているからなんとでも言えるだけ。善くても悪くてもそういう生き物よ、あなたは。断言してもいいわ」
そういう生き物……か。
「ええ。受け入れろとも変われとも言わない、好きにしたらいい。だから――」
お願いよと、彼女は慈愛に満ちた笑みで続ける。
「吐瀉物でキーボードを汚したりしないでね、掃除がとても面倒だから」
その笑顔と言葉はやっぱりどこまでも僕らしいと、そう思った。

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