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渡邉美穂さんの卒業に寄せて日向坂46が思うこと

窓の外から差し込む暖かい太陽の光は、彼の決心の邪魔をする。

どこかで聞いたことのあるタイトル、どこかで聴いたことのあるメロディー、どこかで訊いたことのある別れ話である。

 何気ない日常を過ごすその二人はお互いのことを理解していることからくる一定の余裕が感じられる。彼は彼女を受け入れ彼女の心地良い居場所であり、彼女も彼の愛情を非常によく理解しており、彼との時間に感謝もしている。傍から見ると順風満帆なのだ。

 好かれあう男女がどうして別れなければならないのか理解に苦しむことがある。

刺激が足りなくなった?親や親族の反対を受けた?どうも違うようである。
彼女には夢があるらしい。その夢を叶えるためには彼と一緒にいることは不可能だという。

彼は言うだろう。「彼女の夢を近くで応援したい」と。

しかし、彼女は独り言のように言うのだ。「彼のやさしさに甘えたくない」と。

彼女は決して彼に対して大きな不満を抱いているというわけではない。自らの進んでいく道には彼とともに過ごしていては得られないものがあるのだ。彼女の考える夢は二人で紡いでいく未来ではない。お互いの描く夢は違う。

 どんなにそれが苦しいことであっても、そう簡単に受け入れられることではない。多様な感情が襲いかかるのだ。彼女がどれだけ彼に対して過去の感謝を語ったところで彼の感情は容易にあきらめることはできない。わがままな生き物である。その存在を簡単に手放せるほどよくできてはいないのだ。

自らの未来と彼女の幸せ、そのどちらも取るためにはどうしたらよいのか。はたまたそのようなことは可能なのかと悩み苦しむ夜。

だが、彼は彼女の夢とともに歩くという選択をしない決意をする。彼女のこれからの未来を思うとそれがベストな選択だと考えたからだろう。その利他的な心は「やさしさ」や「思いやり」と言ってしまえば綺麗だが、偽善や欺瞞に繋がりかねない脆さがある。

 彼女のために別れる決心をした彼は、彼女への寂寥を噛み締める。彼女の夢を応援することは彼女を幸せにすることになるのかどうか実際のところ分からない。果たして何のために、彼女を失うのか。何のために、悲しみに耐えているのか。ただただ、彼女に対して悲しい素振りもつらい言葉もこぼしたくない。それはある意味、かっこ悪い男のプライドのようなものだ。そんな強がりが、偽善的なやさしさが、本当に二人にとって良いことなのかと冷静に批判することは誰にでもできる。しかし、その選択が、その生き方が正しいと自らを納得させるために、彼は離れていく、愛する人の背中を追いかけることなく見送る。ソファーの上にぴたぴたとこぼれ落ちる涙はどうしようもなく塩辛い。

窓の外から昇る太陽の光は、彼の再スタートを照らし出し、渡邉美穂との別れに意味をもたらさんとしていた。

※出典…日向坂46「やさしさが邪魔をする」