2021年の受験体験記①
こんにちは。2021年ももう終わりが近づいておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。気づいたら年末という感じで、時の流れが非常に早く感じます。
今年は、もともと予定していた2つの資格試験を受験しました。ビジネス会計検定試験の1級と中小企業診断士試験です。今回は、これらの試験をなぜ受験しようと思ったかという点や、実際の受験の手ごたえや結果、今後の展望のようなものを書きたいと思います。
①ビジネス会計検定試験
○はじめに
ビジネス会計検定というと、あまり聞き馴染みがないかもしれません。会計関連の試験ですと、ビジネスパーソンであれば日商簿記検定を受験することが多いですし、もっと専門的な勉強をしたいという人であれば公認会計士試験を受験することでしょう。私は日商簿記検定の2級はすでに保有しているので、簿記の1級を受験する手もありましたが、まずはビジネス会計検定の1級を受験することにしました。
ビジネス会計検定試験の内容は、簡単に言えば、企業の財務諸表を読み解くための知識・能力を問う試験と言えます。これは、簿記検定が財務諸表を作成するに当たっての知識・能力を問う試験であるのと対照的です。財務諸表を作成するような経理部門に所属している会社員はごく一部に限られますし、実際に日々の取引の仕訳を起こす人も多くはないと思います。逆に言えば、営業部門や販売部門や経営企画部門などに所属する会社員は、他社や自社の出来合いの決算書を見ることの方が実際に作成するよりもはるかに多いと言えます。決算書を作成する(仕訳をする)よりも読み解く能力が、多くのビジネスパーソンのスキルとして要請されるといっても良いかもしれません。
私はそのような部門に属しているわけではなく、企業の与信判断を行う部門に属している人間ですので、実際に決算書を読み解くような業務をしばしば行っています。したがって、この資格試験は私にピッタリの内容なのではないかと思い、財務諸表分析の腕試しも兼ねて受験することしました(2019年3月に3級をすっ飛ばして2級を受験し9割取って合格)。
○ビジネス会計検定試験1級について
1級の試験はややハードルが高く、200点満点の内100点分はマークシート(20問弱)、もう100点分は論述式(100~200字程度が10問程度)の試験です。合格のためには7割の140点以上を取る必要がありますし、論述で50%以下の点数を取ってしまうと、合計点が140点以上であっても不合格となります。また120~139点を取った人は1級には不合格となりますが、「準1級」認定になります。試験の概要については以下をご確認ください。
ビジネス会計検定1級の公式テキストは400ページ超のテキストで、それだけをしっかり勉強すれば合格できるという考え方をするならある意味楽な試験かもしれません。しかし、会計学(会社法、金融商品取引法などの内容を含む)の専門的な内容が多く含まれますので、テキストを読んだだけでは正直よく分からない部分も割と出てきます(逆に、2級までは簿記2級に合格/挑戦している人であれば比較的すんなり分かると思います)。そのために、公式過去問題集があるという見方もできます。公式過去問題集はビジネス会計検定の過去問が収録されているので、実際にどのような問題が出るのかを体感することができます。しかし、そもそも1級は年に1回しか試験がなく、3年分の過去問しか収録されていないため、訓練を積むにはやや物足りない内容と言えます。とりわけ、私のように、企業の財務諸表分析を日頃からやっている人間にとっては、論述式の試験への対応はさほど苦痛ではないですが、そうではない人にとって見れば、なかなか大変な試験だと思います。ただし、論述式で出題される項目は、収益性(営業利益率、ROAやROEなど)、安全性(自己資本比率、流動比率など)、生産性(労働分配率、労働装備率など)、成長性(売上高や利益の変化率など)など、ある程度決まっているので、指標の意味と使い方を理解して書き方を身につければある程度は書けるのではないかと思います。
○受験
そのようなことはさておき、2ヶ月程度テキストと問題集に沿って勉強し、2021年の3月にビジネス会計検定試験1級を受験しました。受験会場は家から地下鉄を使って20分もあれば着く場所にあり、過去に受験した場所でもあったのでとりわけ緊張することもなく入っていきました。ただ、1級となると受験者が少なく、私の入った部屋には11人しかいなかったと記憶しています。ビジネス会計検定の知名度の低さもそうですし、1級まで取ろうと思う人となるとかなり限定されるということですね。
実際に試験がスタートすると、今まで勉強してきたことを信じて、問題を解くしかないですが、マークシート形式の問題が分からなくて仕方ない事態に直面し、これは「厳しい」と感じました。論述式も、今までほとんど出たことのない「セグメント別」の分析が要求されたり、CVP分析の想定事例の論述が過去類を見ないほどの大論述を要求されたりしてなかなかの歯ごたえがありました。
○結果
試験結果は5月に返ってきました。予想はしていましたが、136点で不合格でした。何よりもまず、マークシート式の部分の点数が55点しか取れないという勉強不足が不合格の原因です。論述対策で書く練習をすることに注力した結果テキストの内容把握と理解が不十分になってしまいました。とりわけ、会計学に関する特別深い知識が従前からあったわけではないので、過去問に出た問題はできてもそもそも出ていない範囲もたくさんありそれに対応することができませんでした。テキストを1回さらっと読んだだけで理解できる部分は良いですが、そうではない部分(特に、棚卸資産、退職給付会計、企業結合・事業分離の部分)について重点的な勉強を怠った(時間がないは言い訳になりません)ために、苦杯を嘗めさせられました。136点ですのでマークシートであと1問正解していれば合格していたと考えると非常に悔やまれる結果です。6割以上取れたので一応「準1級」の資格保持者にはなりましたが(笑)
○教訓と今後
ビジネスパーソンのスキルとして「決算書が読める」ことが求められて、書店に色々な決算書関連の本が並んでいるのを見たことがある人も多いと思います。それはそれで非常に面白い本もあります※。しかし、私から言わせれば、ちゃんと決算書を読み解く勉強をしたければ、市販の会計本に飛びつくよりも、ビジネス会計検定の公式の参考書と問題集を買った方が良いですし、市販の会計本は知識の補強と考えて読むくらいが良いと思います。特に、2級の公式テキストは出来が良いですのでお勧めです。ただし、初心者には難しいので基本的な事項をマスターしてから使用するべきです。なお、正直普通のビジネスパーソンであれば1級まで受験する必要はないと思います。
社会人が資格試験の勉強をしていていつも思うのが、どのように時間との折り合いを付けるかという点と、問題集とテキストをどのように活用していくかという点です。時間に関しては、仕事が落ち着いていればいいですが、忙しくなるとなかなか勉強できませんし、自らコントロールできない部分もあるので難しいところです。問題集とテキストは、本来的にはテキストをしっかりマスターするために、簡単な練習問題を繰り返して、一定の段階に達してから問題集や過去問に当たるのが理想ですね。ただ、学生時代のように勉強に集中して取り組む時間が取れなくなると、どうしてもアウトプット型の学習にならざるを得ません。実際、資格試験は「過去問をやってなんぼ」のところがありますし、やるべきなのですが、過去問をしっかりやればテキストの理解が不十分でも受かる試験とそうでない試験があるというのを身をもって感じます。とりわけ、問題の難易度ももちろんですが、7割で合格の試験と6割で合格の試験は大違いですね。
とは言っても個人差があるので、絶対的なことは言えませんが、いずれにせよ、試験で点数を取るための勉強をしてしまうと、足をすくわれることがあります。もちろん、試験対策用に自分なりに暗記方法を開発したり、傾向を分析して特定の分野に絞った勉強をしたりするのは、戦略的な勉強法と言えます。しかし、社会人が資格試験に向けて勉強する場合、学生時代に比べて時間的制約が大きく、戦略的な勉強法が楽をする勉強法に繋がりやすいのも確かです(学生時代に受験に失敗する人も同じかもしれませんが…)。アウトプットを重視するのは大切ですが、インプットが不十分で良質なアウトプットができるはずがありません。また、インプットとアウトプットを別物として切り離して考えるのも違うと思います。それに関しては、以下の三宅さんのnoteも面白いかと思います。
この点は、別に大学受験や資格試験の勉強に限った話でもなく、人付き合いでの会話においての発言や何かしら文章にして自分の意見や価値観を表現する際にも言えることでしょう。
毎回思いますが、テキストをきちんと理解しているかを自分で判断するのは難しいものです。先生が自分を気にかけてチェックしてくれるのなら話は別ですが、自分で自分の方針を決めて、定着度を都度把握して軌道修正していくのはなかなか骨が折れますし、つい楽をしてしまいたくなってしまうものです。ストイックにやっていくか、お金を掛けてでも教えてもらうか、勉強仲間を作るかという選択肢になってくるのでしょうね。
○おわりに
余談ではありますが、この試験では会計学の知識と財務諸表を読み解く能力が問われるだけで、その企業が実際にどのような活動をしているかまでは問われません。財務諸表からどのような状態の企業なのかはある程度読み取ることができますが、「生もの」というよりは「機械」的に企業を分析する試験という印象を受けます。いわゆる「定量評価」というものです。しかし、実際に企業評価を行う上では、数値の裏付けや数値には表れない部分も見なければなりません。例えば、中小企業においては代表者の意向ひとつで方向性が決まることが多く、「人」を見なければなりませんし、企業の歴史や業界におけるプレゼンス、景気や事業の将来的な見通しを含めた「定性情報」を取り入れなければなりません。以上のような面をもっと理解したいと思い、中小企業診断士に関心を持つようになり、試験を受験することになります。
次回に続く
※参考文献
会計と企業活動を結び付けて論理的かつアクティブに問答を繰り返し、財務諸表と経営の理解を深める良著として、大津広一『ビジネススクールで身につける 会計×戦略思考』(日本経済新聞出版、2021年)があります。
また、簿記や会計学の具体的な知識が無くても財務諸表の相互のつながりを体系的に理解するのに非常に有用なものは以下を参照。
國貞克則『【新版】 財務3表一体理解法』(朝日新書、2021年)。
粉飾決算と黒字倒産のパターンについて具体的な事例を用いて平易に説明している良著として、矢部謙介『粉飾&黒字倒産を読む 「あぶない決算書」を見抜く技術』(日本実業出版社、2020年)があります。