大人たちへの反抗という使い倒されたテーマへのひとつの回答-森田ひかる、藤吉夏鈴、武元唯衣、増本綺良へのインタビューを読んで
櫻坂46が誕生してから1年と少しが経った。3枚のシングルの発売、2年連続での紅白歌合戦の出演など、欅坂46の遺産を引き継ぎながらも新しいグループとして生まれ変わりつつある現在。グループの現在地と将来について、多くのファンが関心を持っていながら、コロナ禍という先の見えない長いトンネルの中で今後の見通しも立ちづらい状況にあるのも確かである。そのような状況において、メンバーが実際に何を考えて活動しているかを知ることは非常に有用なことと思われる。
2021年12月28日に発売された『20±SWEET 2022 JANUARY』は、2021年度中に成人を迎える、森田ひかる、藤吉夏鈴、武元唯衣、増本綺良の晴れ着とインタビューが収録されている。成人ということで、「大人になる」ということが本人たちにとってどういうイメージで捉えられているのかが窺い知れる内容となっている。
「大人」というテーマに関して、それぞれが思い思いの回答をしているので、それぞれのファンが個別に受け止めれば良い内容ではあるが、誰一人として、大人のイメージをマイナスとして捉えていない(あるいは、大人になりたくないと過度に駄々をこねたりしない)というのが印象的であった。
大人ということで想起されるのは、前身の欅坂46における「大人」という言葉である。「大人は信じてくれない」と嘆き、大人に対する不信感から、社会的な関係性において自らの本音を隠し、ズルい大人になってしまうことへの葛藤と諦めで語られる世界観はどうしても「大人」に対するマイナスのイメージを想起させる。確かに、そのような「大人像」は本質の一面を捉えているように思えるし、誰だって社会生活において不条理がまかり通ることに「おかしい」と思い悩むことだってあるだろう。その葛藤が、「子供じみている」と思う人間もいれば、等身大の実直な思いであり、無視できない感情だと思う人間もいる。しかし、このインタビューから受け取れる「大人像」というのは、そうしたステレオタイプな想像上の悪い大人ではなく、もっと身近な愛すべき大人なのである。そして、そのような大人は決して“クソつまらない”生き方などしていないのである。
森田ひかるは、自分を客観視できる余裕のある大人像を理想として掲げている。彼女は、自分自身がどうしたいかというよりも、ファンがどのようなことを望んでいるかを第一に考える。しかし、一見利他的で自己犠牲的とも言える彼女は、自らの幸せを忘れて病的な精神状態に陥ることを回避する力を持っている。ポジティブともナルシスト的とも言える彼女の自己愛は、「大人」になるということが、自らの感情を押し殺して、誰かの尺度で生きるということではないということを示唆している。
藤吉夏鈴は、自分が納得できないことはできない性格であることを打ち明けながらも、年上の人の話に耳を傾け「貴重だ」と感じ、自分が知らないことを教えてくれる大人を「素敵だなー」と感じる。そして、新しいことを知り自らの糧とし、メンバーと切磋琢磨しながら刺激を受け、好奇心を忘れず挑戦の日々を送る。彼女の変化を受け入れる強さは、「大人」になるということが、与えられたレールの上で淡々と生きることではなく、自らと他者との関係の中で互いに刺激を与えあいながら生きることだと物語っている。
武元唯衣は、両親の愛を大いに感じながらその感謝を言葉にして憚らない。誰もが一つの目標に向かって進んでいくという理想に対して、各々の人間の感情や価値観が異なることを認めながらも、冷静に客観的に、有り体の結論を求めるのではなく、その相違に立ち向かい、感情を揺さぶられることを肯定する。何かを極めたいという情熱や、何かを見て感動した気持ちや、家族や周りの人からの愛情を受け止められる度量を持ちたいと語る彼女は、「大人」になるということが、他者との違いを冷静に受け入れ、理解するように努めることと、自らの情熱を曲げずに主張することのバランスを取りながら生きていく難しさを孕んでいることを教えてくれる。
増本綺良は、人の悲しみを自分のことのように受け止めて泣くようになったと語る。周りのメンバーに刺激や愛のある言葉を受け取り、感情の振れ幅が大きくなった彼女は、過去の頑固な自分から、他者への慈しみの念を抱くようになり、失敗や間違いを認められる素直さを身につけることができた。感情的になり思ったことを直接的にぶつけるのではなく、相手の立場に立って、言葉を受け止め、呑み込み、時には無邪気にはしゃぎ、語りあう先輩を尊敬する彼女は、「大人」になるということが、他者に対して愛情をもって接することであり、自らを取り繕って美辞麗句を並べ立てるのではなく、等身大の純粋な感情を忘れないことの大切さを教えてくれる。
私たちが日常を過ごす中で感じる「大人」とは一体どのようなものであろうか?
このインタビューを読んで、彼女たちの人間としての懐の深さとこれからを生きる希望を実感させられた。彼女たちにとって、大人は反抗すべき忌むべき存在ではない。自らが、人生の中で身近に接してきた大人たちに対する慈しみと感謝から導き出された理想像である。日々変化する世界において、新しい経験をしながら進化していく彼女たちと櫻坂46にこれからも目が離せない。
終わり