タメにならないロッテルダム国際映画祭ルポ<後編>
執筆者:塚田万理奈
上映から数日、映画祭で映画を観たりはしても、ほとんど何もせず、パーティーには全く行かず、私はオランダの美術館を巡って、1人で散歩をし、みんなのことを想ったり、ホテルに帰って爆睡していました。
オランダは、朝8時半くらいまで真っ暗で、夕方も17時は真っ暗になってしまいます。お店も夕方には閉まってしまうところも多い。
短い日照時間だからか、日が照っている間、オランダの人はとっても働き者に見える。私は生活を送る人々を見たり撮ったりするのが好きで、たくさん写真を撮りました。
生活を送る、というのは必死で、誠実で、生きることに見えるから、人々を信頼できるような、寂しくなくなる感覚がある。
また、映画を観るときもそうだけど、絵画や芸術は、作り手の声だから、その人の心や人生を見て話を聞いているような感覚になるから、すごく寂しくない。
だから散歩や美術館はすごく有意義で、ロッテルダム映画祭にきたおかげで出会えた人や声との、豊かな時間でした。
でも有意義に過ごしているようで、どこか罪悪感があり、ホテルで「こんな映画祭にまで呼んでいただいて、こんな場所まで来て、皆(私のチームのスタッフや家族や子どもたちが)が楽しみにして送り出してくれて、貴重な機会に、なのに私はほぼまた積極的に話せず、1人でいて、結局そんな人間。だめだろうか」と泣けてきました。
その時心の中に思い出したのがアキちゃんでした。
あの子は「世界」に魂をくれた、そこにかけてくれた、すごく誠実だった。そして私はこんな小さくて弱くて、そんな人間だからあの子たちが美しいって、いつも涙が出るほど感じてきて、その光を残すことだけに精一杯で、だからこそ「世界」ができた。それを言葉を超えて観客の皆さんが、モデレーターさんが、「美しい」って届いてくれた。全部、私の心があって、それが響いたんだ。
好きな人達に会いたくなった。やっぱり好きだなって思った。
アキちゃん、アキちゃんは間違ってなかった。あなたは美しくて、ちゃんとここまで届く。言葉じゃなくて。そうアキちゃんに、堂々と言いに帰れる、と思いました。
それがすごくすごく励まされました。
そして届いたということ、それが、私はただただ好きなことをしてきただけだけれど、自分が追求してきたこと、それに対しての自信も持ったような感覚がありました。
私はそれを失っちゃいけないな、と思いました。何より心だ。だからこの必死で、だめな私を、私は一生愛して行こう、と思いました。忘れないで「私」でやっぱり生きていこう、と、ホテルで寝転びながら、部屋の写真を撮りました。すごく気に入っている一枚です。
私のロッテルダム映画祭、はそんなホテルの時間も含めて、大切な時間でした。作品や、大事な人たちや、自分自身を見つめられた時間でした。
でも人々が聞きたい?ロッテルダム映画祭、のルポとしては超個人の話で、タメにならないルポですかね。
でも何より尊いものは、それぞれがそれぞれ感じたことだと思うから、これが私。
ちょこっと情報を書いとくなら、オランダは、パンとスープとチーズとコロッケとアップルパイとハイネケンが美味しくて、生活は完全にキャッシュレス。オランダ人は身長が高くて、自転車生活が主流で、路面電車が沢山走っていて、建物の窓が大きい。
ロッテルダム映画祭はグッズが沢山あってとっても可愛い。
(甥っ子に公式ニット帽を買ってきました。)
他にも、行きの飛行機で荷物がドバイに置いていかれたり、帰りの乗り換えのドバイでラクダに乗って時間を潰したり、一緒に行ったプロデューサーの今井さんと色々話したり、沢山思い出がある旅でした。
以上私のロッテルダム映画祭の旅でした。
これからも世界を愛していきたいと思います。みんな、皆さん、ありがとうございます。
「世界」 38min/カラー 出演:涌井秋、玉井夕海
監督が実体験を基に出身地・長野市で地元の子ども達と10年かけて成長を撮影する16mmフィルム劇映画「刻」、その撮影の中で子ども達自身と触れ合い、生まれた物語。吃⾳を抱える中学⽣の秋と、やりたい事に悩むシンガーソングライター・ゆうみのストーリーが映し出す人間ドラマ。ロッテルダム国際映画祭入選作。大阪アジアン映画祭2023にてアジア初公開。