見出し画像

子どもの日本語教育とJSLバンドスケール   [セルフ・ラーニング研修❺]

コース2 JSLバンドスケールを使った日本語指導                           

  ❺JSLバンドスケールによる「ことばの力」の見立て

1、JSLバンドスケールのフレームワーク
 では、JSLバンドスケールはどのように作られているのでしょうか。
 JSLバンドスケールは、子どもの年齢に応じて、「小学校低学年(1、2年生」「小学校中高学年(3、4、5、6年生)」「中学・高校(中学1年生から高校3年生)」の3つのグループに分けて提示されています。これは、子どもの脳の発達段階と学年を考慮して設定されています。
 4技能(聞く・話す・読む・書く)ごとに、小学校では「はじめて日本語に触れる」レベル1から「十分に日本語を使用できる」レベル7、また中学・高校ではレベル8まで日本語の発達段階が設定されています。

JSLバンドスケールのフレームワーク
小学校低学年  
4技能 の見立て(レベル)
聞く    1・2・3・4・5・6・7
話す.   1・2・3・4・5・6・7
読む.   1・2・3・4・5・6・7
書く.   1・2・3・4・5・6・7

小学校中高学年  
4技能 の見立て(レベル)
聞く    1・2・3・4・5・6・7
話す.   1・2・3・4・5・6・7
読む.   1・2・3・4・5・6・7
書く.   1・2・3・4・5・6・7

中学・高校    
4技能 の見立て(レベル)
聞く    1・2・3・4・5・6・7・8
話す.   1・2・3・4・5・6・7・8
読む.  1・2・3・4・5・6・7・8
 書く.  1・2・3・4・5・6・7・8

それぞれのレベルには、第二言語の日本語(Japanese as a Second Language: JSL)を学ぶ子どもの様子が記述されています。できることやできないことだけではなく、どのような足場かけがあればできるようになるのかなどが具体的に書かれてあります。(テキスト『JSLバンドスケール』のp.10参照)

2、JSLバンドスケールを使って「ことばの力」を見立てる
 
教師が、子どもの日本語の発達段階を把握することを、ここでは「見立て」といいます。「見立て」は、次の手順で行います。
 ❶子どもを観察する。
 ❷観察のメモをとる。
 ❸実践の中で考え、資料を集める。
④JSLバンドスケールと見比べる。
⑤JSLバンドスケールのレベルを見立てる

   ❶❷❸には、教師の実践の中だけではなく、ふだんの何気ないやりとり、子ども同士が遊んでいる時の様子も含まれます。つまり、授業だけではなく、学校生活の中で他者とやりとりする様子全般が、観察の対象になります。授業の中では、子どもと日本語でやりとりしたときどんな反応を示したのか、わかったのか・わからなかったのかだけではなく、どんな足場かけをしたらどんな反応だったのかなどを、メモします。あるいは、子どもが書いた作文やノートなども、「見立て」のための資料として集めます。
 ④⑤は、それらのメモや資料をもとに、JSLバンドスケールの4技能のレベルの記述文と見比べて、レベルを「見立て」ます(テキスト『JSLバンドスケール』のp.11-13参照)。つまり、JSLバンドスケールは、「言語テスト」ではないのです。

ここでちょっと一言。
JSLバンドスケール
を初めて使う人は、JSLバンドスケールを使いながら実践をするのは難しいと思うかもしれません。JSLバンドスケールは、実践の最中に、JSLバンドスケールを使用すると考える必要はありません。そうではなく、実践をした後に、JSLバンドスケールのチェックリストをもとに子どもの様子を思い出しましょう。そして、その「振り返り」から、子どものことばの発達段階を「見立て」ましょう。
*JSLバンドスケールのチェックリストは、テキストの巻末に掲載されています。

3、JSLバンドスケールはCan-do リストではない
 
JSLバンドスケールを初めて使う人は、各レベルの記述文がわかりにくいという印象を持つかもしれません。中には、「ひらがなを覚えたら、レベル1。カタカナを覚えたら、レベル2のようにしてくれると、わかりやすい」などと言う人もいます。しかし、ここには誤解があります。ひらがなという言語知識を覚えることと、コミュニケーション能力を同一視しているためです。子どもは、ひらがなを全部覚えていなくても、やりとりする力がある場合があります。子どもがひらがなをいくつ覚えたかより、覚えたひらがなを使ってどのように他者とやりとりしようとしているかを見ることで、その子どもの「ことばの力」を理解することができると考えることが、大切です。なぜなら、その子どものその時のコミュニケーション力や意欲を足場に、次の言語活動に発展できる可能性があるからです。
 そのような「ことばの力」について、テキストに次のように書かれてあります。
①場面や相手に応じて「やりとりする力」。
②場面や相手により、「言葉を選択する力」。
③「ことばの力」は、総合的な(ホリスティックな)力。
④「ことばの力」は複合的な力。
⑤日本語の力は動いている。
*詳しくは、テキスト『JSLバンドスケール』の「4 「ことばの力」とは何か」(p.15)参照。
 ここには、習得した漢字の数や助詞や動詞の数が明記されているわけではないのです。Can-do リストの基本は、習得目標(目安)となる項目が列挙されていて、それらをクリアしたかどうか(できるかできないか)を判断基準とする、明確な方法論ですが、JSLバンドスケールは、上記のような「ことばの力」(①から⑤)に基づいているので、Can-do リストに慣れた人から見ると、JSLバンドスケールは不明確で使いにくい方法論に見えるかもしれません。
 しかし、そもそも「ことばの力」は上記の①から⑤にあるように、不明瞭で相互作用的で動態的なものなのです。
 では、そのような不明瞭で相互作用的で動態的な「ことばの力」観に基づくJSLバンドスケールは、どうして実践現場に必要なのでしょうか。それは、生きている子どもを見る教師の目を鍛えることになるからです。Can-do リストが学習者の「できるできない」を理解することにつながるかもしれませんが、逆の言い方をすると、Can-do リストを利用する教師は、学習者を「できるできない」という観点からしか見る目を持たなくなると言えるでしょう。JSLバンドスケールは、子ども(人間)を、総合的に(ホリスティックに)捉える教師の目を鍛え、豊かにすることに役立つのです。

課題5 
 次の作文は、子ども(小学校4年生)が書いたものです。もしあなたがこの子どもの日本語指導を行っているとしたら、この子どもの「書く」力をどう「見立て」ますか。また、この作文をもとに、今後、どのような指導をしたいと思いますか。

<作文例> 「お楽しみ会」後に書いた作文。
「伝言ゲームをしました。伝言ゲームは、前の人がどんどん伝言をしてさいごの人に伝えるっていうゲームです。いっぱいチームがいるの早いチームが三チームでえらばれます。ぼくのチームは、ちょっとおそかったので一回えらばれていませんでした。ぼくのだけちゃなくてほかのチームもぼくのチームと同じもありました。ゲームがおわって、次は、クイズをしました。」
*ヒント: テキスト『JSLバンドスケール【小学校編】』のp.151参照



いいなと思ったら応援しよう!