短歌との決別 —〈私〉という増強装置の可能性 石田郁男
もう随分昔の話だが、わたしは小説の新人賞をいただいた。短歌はといえば、はじめてからちょうど十年。でもこの半年は、読むことも詠むこともできずに過ごした。
小説は全部で七作の短編を発表した。わたしの小説はいわゆる〈私小説〉に似たものが多い。そして純然と人物を作り上げた虚構作品を書くと、担当者からいわれた。
「どこかサガンみたいだけど、編集長が嘘っぽいと言って通さないんです、石田さんはもっと自分のことを書くほうがリアリティがあって面白いと思いますよ」「自分のことって身辺にはあま