Ikuo ISHIDA

半世紀近くフランスに在住。群像新人賞受賞、小説家、歌人、実務翻訳家・会社

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最近の記事

短歌との決別 —〈私〉という増強装置の可能性 石田郁男

 もう随分昔の話だが、わたしは小説の新人賞をいただいた。短歌はといえば、はじめてからちょうど十年。でもこの半年は、読むことも詠むこともできずに過ごした。  小説は全部で七作の短編を発表した。わたしの小説はいわゆる〈私小説〉に似たものが多い。そして純然と人物を作り上げた虚構作品を書くと、担当者からいわれた。 「どこかサガンみたいだけど、編集長が嘘っぽいと言って通さないんです、石田さんはもっと自分のことを書くほうがリアリティがあって面白いと思いますよ」「自分のことって身辺にはあま

    • ピエール・ルイス - ビリティスの秘められた歌 (訳 石田郁男)

      ビリティスの生まれ  ビリティスは、紀元前6世紀初頭、パンフィリア地方の東に位置するメラス川のほとりの山村で生まれた。この国は重々しくかつ陰鬱だった。深い森におおわれ、巨大なタウルス山塊がせまっている。岩の間からは清冽な泉がわきあがり、高台には大きな塩湖が横たわり、谷間には静寂が広がっていた。  ビリティスはギリシャ人の父とフェニキア人の母の間に生まれた。彼女は父親を知らずに育ち、子供の頃の記憶には父親の姿がない。もしかしたら、ビリティスが生まれる前に亡くなっていたのかもし

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