連載小説「いつもの私の完成だ。」第6話:無料公開 安達健太郎×えのもとぐりむ
ここまで、この連載を購読してくださっている方々に感謝の気持ちを込めて、第5話に引き続き、第6話も、無料で公開させて頂きます。
第6話「オセロ」
携帯からの擦れるような女の声を聞いた瞬間、私は強烈な違和感を覚えた。何かがおかしい。明らかに何かが変だ。違和感の原因を探るべく私は、携帯を耳から離した。その時、自然と声が漏れる。
「どうして?どうして携帯が便器の中にあったの?」
彼の黒い携帯はさっき、私が自ら便器の水の中から取り出し、乾かす為に米びつの中に入れたはずだ。
「まさか…」
私は携帯を放り投げ、キッチンに向かった。震える手で米びつの蓋を開け、中に手を入れる。指先に触れる固い異物。目を瞑り、その異物をそっと握り、米びつの中から取り出す。目を瞑ったまま祈る。
「お願い。お願いします…」
目を開けた。
私の手に握られたそれは携帯ではなく、真っ黒なうんこだった。
「うんこだ…」
そう、私が彼の携帯電話だと思い、便器の中から取り出し米びつの中に入れたそれは、携帯電話ではなく、まぎれもなく、真っ黒な、太めの、うんこだった。
握られた真っ黒なうんことは対照的に、目の前が真っ白になっていく。
黒と白のコントラスト。オセロだ。
オセロの世界に迷い込んだ私は、角を取ろうと躍起になる。
「角だ。角を取らなければ…」
オセロ。元オセロの中島知子。女性霊媒師に洗脳されて、よく分からない感じになった中島知子。今の私はまさにそれだ。
落ち着け。落ち着かなければ…。
夜明けはまだ遠い…。