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はじまりの美術館 第8回福島県障がい者芸術作品展「きになる⇆ひょうげん2024」

家族ででかけた先のホテルのロビーで、並べて置かれているフライヤーの一つに、はじまりの美術館という言葉を見つけました。
はじまりの美術館。
「これって確か、サッポロ一番のところじゃなかったっけ」と思いながらフライヤーをよく見ると、障がい者芸術と書いてあって、間違いない、と思いました。

「サッポロ一番のところ」というのは、以前読んだ「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」という本の中で、「はじまりの美術館」に行き、そこで、「サッポロ一番しょうゆ味」という作品を、全盲の白鳥さんと一緒に見たことが紹介されたことから、一緒に記憶されてます。
この作品は、作者が20年間にわたって毎日、そして一日中にぎりしめていたサッポロ一番しょうゆ味の袋を、正面と両側の壁いっぱいに並べたものです。味噌味でも塩味でもなく、しょうゆ味だけがお気に入りで、パッケージを眺めたり、触ったりしているところから、この作品ができたそうです。

作品の写真が掲載されている記事を見つけました。

行けたらなあ、とぼんやり思っていたのですが、自分で積極的におでかけの計画を立てたりするわけではないし、と、引き出しの中にしまっておく感じだったのですが……日にちを見ると、12月30日から年末のお休み、行けるとしたら翌日しかないと思いました。
夫と下二人がスキーに行っている間に自分で運転していけばよいのですが、やっぱり雪道は怖いからどうしよう、と考えていて、ちょうどチェックインを終えて戻ってきた夫に、ここ行きたい、と言ってみました。フライヤーを手に取ってみたものの、反応も薄く、まあスキー満喫したいよね、と考えて、それ以上は何も言いませんでした。
自分自身、雪道運転の恐怖>はじまりの美術館行きたい、だったので。

でも翌日、夫が見つけてきた喜多方ラーメンのおいしい食堂に行った後、
「じゃあ行こうか」
「え、どこに?」
「はじまりの美術館に行きたいんでしょ」
「え、嬉しい、ありがとう」
といった感じで、急に行けることになりました。今考えると、食堂で案内されたテーブルの近くの壁際に企画展のポスターがどんと貼られていて、夫がその真正面に座っていたということもあるかもしれません。

まるいち食堂のラーメン


ナビが示した道が除雪されていない道を通らなければならなくて駐車場から建物までの道も除雪されていなくて遠回りする、というハプニングもありましたが、無事、行くことができました。

この企画展は福島県の委託を受けて、障がいのある方から広く作品を募り、全て展示しているものです。県内だけでなく、全国各地から応募があるようです。名前は本名の場合もあればそうではないことも、そしてその後に書かれたカッコ内の数字は年齢とのこと。これも本人が公表したくない場合は、書かれていません。
学芸員さんが、見た人すべてに審査をお願いする「オーディエンス賞」もあるのでご協力お願いします、と説明してくれました。アンケートと一緒に手渡された葉っぱの形の付せんに気に入った作品の番号を書いて、それを木の幹のところに貼り付けます。既にたくさんの葉っぱの付せんが貼られていました。付せんは作者に渡すとのことで、良かったらメッセージも書いてください、ということで、書いてみよう、と思いました。
下二人も、展示を見る楽しみを見つけたみたいです。


オーディエンス賞の付せんの木

展示エリアの入り口のところには招待作品が展示されていました。ヘラルボニーが商品化しているアートにも、こんな雰囲気の、緻密にたくさんの色を使って書かれた作品があります。自分でもよく分からないけれど、とてもきれいで心惹かれます。
それほど広いスペースではないと思っていたのですが、空間をうまく使い、本当にたくさんの展示がされていました。明確な区切りはありませんが、テーマでふんわり分かれていて、例えば、自画像は自画像で、海の生き物を書いたところは海の生き物でなんとなくまとまっている感じでした。

福島県知事賞の作品《ぼくの365日》はとても印象的で、ある意味「サッポロ一番しょうゆ味」に、というか、障がい者アートとは何か、ということ(少なくとも私の理解)に通じると思いました。

藁谷虎太郎《ぼくの365日》

作者である虎太郎さんは、毎日、ストローを噛んでいるそうです。端から噛んでいくと丸い筒状だったものがつぶれ、さらに噛んでいると、丸まっていきます。作品のそばに、このストローの最初の状態から、丸まっていく状態になるまでの途中経過が貼り付けられていました。
私がピンクが好きというのもあるのですが、かごから溢れるくらいに盛られた丸まった元ストローは、ライトに照らされて、何だかとても夢のあるものに見えてきます。
少し短くて細めの、子ども用コップにピッタリの長さのストローがセットになっているものの、ピンクかオレンジしか使わないのだそうです。
ここからは私の妄想なのですが、たぶん、これ、まだ3歳くらいだったころに子供用の小さなコップから飲ませるために購入したものなのだと思います。飲み終わった後、ストローをいつまでも離さずかんでいて、困ったな、と思ったこともあったかもしれません。でもあまりにストローを噛むのが好きなので、分かった、もうたくさん買ってあげるから好きに噛んでいいよ、という時期があったのかもしれません。
多数の人の評価軸で見れば、無意味なことに思えても、虎太郎さんにとっては毎日続けてしまうような素敵なことで、それに気付いてたくさんストローを買ったり作品ととらえたお母さんの柔軟さも素敵だなと思います。

きになる⇆ひょうげん展の一番の特徴は、けっして作者の意図的な、作為的な、具体的なイメージを持ってスタートするものばかりではなく、なにか日常のなかの行為で、意図的ではなく、それでも結果的に生まれてくるもの、というものがあります。その人がいなかったら生まれてこないというものが生まれてきて、そしてそれを「鑑賞する」人が必ずいます。それでもっとその面白さを人に伝えたいというときに、この「きになる⇆ひょうげん」展に応募する。そこに、この展覧会の大事なところがあります。本作は、この展覧会ならではの作品で、行為の集積がここにあります。また、丸まったストローを引き立てているこのバスケットは虎太郎さんのお祖母さんが作ったものだそうです。虎太郎さんのきになること、虎太郎さんのお母さんのきになることと、お祖母さんがつくったバスケット。そんなこともあいまって、今年の県知事賞は藁谷虎太郎さんの《ぼくの365日》を選ばせていただきました。

第8回福島県障がい者芸術作品展 福島県知事賞 【審査員コメント】より

その他に印象的だったのは、《ちょっと噛みたいときもある》という作品です。パジャマの胸からおなかの辺りの左の方に小さな穴がたくさんあり、おなかのところはこぶしが通りそうなくらいと大きく開いています。たぶん、右手で引っ張ってちょうど口に持って行ける位置なのかな、と思います。こちらは、審査員賞・日比野克彦賞を受賞していました。日比野克彦さんは、東京芸術大学の学長さんで、この作品について洋服のダメージ加工にちなんで、「ダメージ表現」と評しています。「今年のパリコレの一番最先端オシャレ。ファッションデザイナーはこの舘篤さん。そのコレクションを今年の日比野賞に選びました。」
こちらは写真を撮っていないのですが、審査結果のページから見ることができます。

私は、審査員からの賞をもらってないものを選びたいなと思ったけれど、どうしても気になった《天と地をつなぐ人》という立体的な作品で、紙紐をカラフルに染めて編み上げたもので、特選になっていた作品を選びました。

rouzuren《天と地をつなぐ人》

写真だと見えにくいのですが一本のひもが尾のように床まで届いています。どんよりと雲が低い日に、雲の間からこの巨大な人がぶらさがっていて、地面に尾のようなものが届いている図が目に浮かんだので、付せんにそう書いてみました。

夫が選んだのは、フェニックスという切り絵作品です。

ban《フェニックス》


ban《フェニックス》近づくとこんな感じです。

娘が選んだのは、きぼう、という細かなステンドグラスを塗り絵で表現したような作品。

野本明菜《きぼう》

長男は、淡い色で描かれた一つの作品のそばに座り込んでいたので、その番号をふせんに書きました。

長男の選んだ作品?はうまく撮れてませんでした。

次男は尋ねると色んな番号を言ったので、多分、秘密にしたかったのかなと思いました。

帰りにショップで、ビーズで作ったエンブレムのような飾りのついた髪留めを自分用に、ペンダントを娘用に買いました。私も最初からそれが気になっていたのですが、娘がペンダントを選んだので、ちょっとリンクしているモチーフのものを選びました。
私は気付いていなかったのですが、学芸員さんが包みながら「天と地をつなぐ人」の作者さんのものだと教えてくれました。スマホで撮った写真を見ると確かに、zoururenと表示されていました。その後も色んな方の作品を見たので、作品名だけを記憶していたのですが、私はこの方の作品が好きなのかも、と思いました。


zorurenさんのペンダントと髪飾り

「はじまりの美術館」の公式noteがあったので、貼り付けます。

私が「はじまりの美術館」を知った時の読書日記も、もし良かったら。




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