「アヴェマリアを歌ってください」
Chère Musique
前回は「同じ名前の曲がたくさんあるのです」と書きましたが、今回は「同じ歌詞の歌もたくさんあるのです」というお話。
「アヴェマリアを歌ってください」
クリスマス、それから、、、少しあらたまった場、例えば結婚式などの何かの式典など。
そういうところで頼まれることがある
「アヴェマリアを歌ってください」。
「どのアヴェマリアでしょう?」
「え?あれ以外にあるんですか?」
「あれ」とはどれのことなのか、二曲までは想像がつきますが、そのどちらなのか迷います。
グノーがバッハの曲にメロディを付けた作品と、シューベルトの作品、どちらも同じくらい知られています。
でも実は他にもたくさんの『アヴェマリア』があるのです。
歌詞が同じ?!
ここまでなら、前回の「同じ名前の曲がたくさんある」というお話ですね。
今回はその先。
前回の「ガヴォット」は舞踊の種類の名前でした。
『アヴェマリア』はキリスト教音楽の種類のひとつ。
キリスト教音楽はほとんどが歌詞の初めの言葉を題名としているので、「アヴェマリア♪」という言葉から歌詞が始まる歌だということです。
つまり、他にもたくさんある『アヴェマリア』は、グノー&バッハの方の歌詞と“まったく同じ歌詞”なのです。
この一番有名なグノー&バッハのアヴェマリアを習ったり覚えたりして、その後に別の作曲家のアヴェマリアに出会って、「歌詞が同じじゃないの!」と驚いた経験がある人が、歌好きには多いのではないかと思います。
作曲家によって、ひと言ふた言、言葉を省略していたり、たまには文をひとつ丸ごと抜いてしまっていたりということもありますし、同じ言葉や文を何度か繰り返したりということもあるけれど、元の文章は同じです。
ちなみに、初めに話題に出した中でシューベルトのアヴェマリアの方は、始まりの歌詞が「アヴェマリア♪」だというだけで、その後の歌詞はまったく違い、これはキリスト教の儀式の歌ではありません。
スコットランドの詩人による英語の詩がドイツ語に訳されたものに、シューベルトが作曲しました。
本当のタイトルは『エレンの歌』、教会は関係ない普通の歌曲です。
キリスト教の歌
キリスト教の礼拝で歌われる曲、『アヴェマリア』だけではなくキリスト教の“ミサ”という儀式やその他キリスト教関係の場で歌われる曲は、歌詞はすべて聖書の中の一部。
ですから、いろいろな作曲家がいろいろな曲にしていても歌詞は同じになるわけです。
例えば『アヴェマリア』ひとつとっても、私は10人以上の作曲家の名前が浮かびます。
もとは儀式で歌われるために作られた曲たちでもコンサートの演目に取り上げられるくらいの名曲もたくさんありますし、初めから演奏会を想定して作られたものもありますが、それらの曲の演奏には合唱団の出番が多いので、合唱好きの方は歌ったことがある方も多いでしょう。
そういう方は、曲が変わっても歌詞は同じ、ということを知っているはずです。
そして、それらの歌の中で、一般にも一番よく知られている歌が、『アヴェマリア』の歌詞なのだと思います。
キリスト教のそれらの曲を歌う人たちは、同じタイトルなら歌詞は一つ覚えれば全部同じなので、少しだけ繰り返していたり省略してあったりというところだけを頭に入れればよいだけですから、ラクです。
音を覚えることだけに専念できますね。
それに、何度も歌っていれば意味も分かっているので、大切な単語や文章のところにどんな音を当てはめているか、‘その作曲家の表現’を楽しんで味わえると思います。
ラテン語は難しくない
そう、今「意味を分かって」と書きましたが、これらは全部、もちろん日本語ではありません。
‘ラテン語’なのです。
ラテン語だなんて聞くと「うわー!難しそう!」と思う方もいると思いますが、英語でもフランス語でもなんでも、少しだけでも西洋の言語に興味のある方なら、実はまったく難しくありません。
まず発音、これは小学校で習う「ローマ字読み」そのまま。
ほんの少しだけ、注意して覚える必要がある発音があるにはあるけれど、90%はローマ字読みが出来れば読めてしまいます。
そして、歌うにはもちろん意味が解っていないと本当の良い演奏にはならないのですが、とっさに「とにかく声を出さなきゃ」という場面に出会っても、そういうわけで発音だけは誰でも出来るのです。
私も、キリスト教徒ではありませんがキリスト教の歌はたくさん何度も歌ってきました。
単語や文章の意味は、毎回調べ直してちゃんと楽譜に書き込みますが、発音だけなら、無意識に口が動くようにまでなっています。
文法を勉強したりラテン語の文が読めたりするには、とても難しいお勉強が必要なようです。
ヨーロッパの何人かの知り合いに訊いた反応を見ると、日本人の高校生の授業にある古文や漢文と同じようなものかな、と思います。
フランス語やイタリア語やスペイン語の元になっている言語であって、今は会話では使われていません。
「あーうー?」
ちょっと面白い話。
そういうわけで私の所属する合唱団やヴォーカルアンサンブルは、みんなラテン語の歌詞に慣れているのですが。。。
日本人の日本語の歌で、ウケ狙いで作られた、コンサートの開演前のアナウンスを歌にした作品があります。
その中で「携帯の電源をお切りください」のところに「DocomoもAUも」という歌詞があって、その楽譜を私たちヴォーカルアンサンブルが譜読みしながら初見で歌ってみている時に、AUのところをとっさに全員が「アーウー」と読んだのです。
考えれば携帯キャリアだと分かるけれど、初見で楽譜を追っていたのでね。
反射的にローマ字読みしてしまったというわけ。
みんなで爆笑でした。
今回はアヴェマリアをはじめとしたキリスト教の儀式の音楽は、同じ歌詞で違う音の音楽がたくさんあるのです、というお話でした。
いかがでしょうか?
一回でもミサ曲を演奏する舞台に立ったり、このような歌を習ったりしたことのある方は、同じ歌詞なのですから他の曲にもチャレンジしてみると楽しいかもしれません。
Musique, Elle a des ailes.