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楽観の境地へ〜ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート2023から


Chère Musique


皆さま、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤー・コンサート2023は、お聴きになりましたか。

1月1日の11:00から、日本時間では19:00から、毎年開催されている、世界の音楽ファンが楽しみにしている演奏会です。

オーストリア国営放送がウィーンから世界に向けて生中継してくれて、日本ではNHKがその中継を受け取ってアナウンサーと解説者のナビゲートでリアルタイム放送してくれます。

今回のNHKの解説ゲストは、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のヴァイオリニストで今回は出番ではなかったヘーデンボルク和樹さんと、ショパンコンクールで一躍!時の人となったピアニスト反田恭平さんでした。

私が主宰する音楽アトリエ“ヴォアクレール”のYouTubeチャンネルで、日曜日にお届けしている『音楽のひとしずく』という、音楽のちょっとしたお話をする番組があります。
そこで2021年12月に、このニューイヤー・コンサートがどんなコンサートなのか、聴きどころ見どころを詳しく解説しています。
この解説の内容も、近いうちにここに投稿してみたいと思います。


一番お伝えしたいのは、クラシックファンに限らずどんな方でも、音楽がお好きでさえあったら、とても楽しめるイベントだということ。

本当に気軽で美しくて、家族でおしゃべりしながらなんとなくテレビを眺めているだけでも、気分が盛り上がって楽しくなる、そういうコンサートです。

注目ポイントはたくさんあり、中でも一番は指揮者と曲目。
今年の指揮者は、地元オーストリア人のフランツ・ウェルザー=メストさんでした。

フランツ・ウェルザー=メスト

ウィーン訛り

毎年違う指揮者、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と繋がりのある、世界的に活躍しているかたに、依頼がいきます。

翌年の方を本番直後に発表するのが恒例ですが、実は本番の数年前に決まり、プログラムの相談などもしているようです。

そんな中で、地元オーストリアの出身の指揮者というのは、これまで、あのヘルベルト・カラヤン、私が一番好きなニコラウス・アーノンクール、そして今回のフランツ・ウェルザー=メスト。


解説のヘーデンボルク和樹さんがとても良いことをおっしゃっていました。
ウィーンの音楽の演奏感覚というのはとても独特で、現地の指揮者から学ぶのが一番良いのだそうです。

その感じはとてもよく分かります。
音楽はなんでもそうですよね。
民謡の歌い回しを現地の人の歌を聴いて体感するのと同じことです。



これをヘーデンボルク和樹さんは、演奏の「ウィーン訛り」と言っていました。
上手い言葉ですね。


その言葉どおり、メストさんは、ウィーン三拍子が秀逸!
世界の他の地域の人にとってはけっこう難しいこの三拍子。
メストさんのそれは、とても自然なのに表現が濃くて、生まれ持ったウィーン訛り!という感じでした。

初めての曲の中でも、ウィーンフィルから充分にその良さを引き出していました。


あれだけの曲数、どの曲もとても丁寧に細部まで作り込んであって、ちょっとした隅々の音までとても深みがあり、各音に意味を感じさせる、そんな音色でした。

それに、各曲の演奏が始まる前の、楽団員へニッコリ!笑顔を送ってから構えるのも、私は観ていてとても気持ちが良かったです。

曲によってその表情が少しづつ表情が違ったので、それで次の曲の出音を引き出しているのだなあと感じました。

私の合唱団の指揮者典子師匠も同じなので、なんだか嬉しかったし、私も見習おうと思いました。


シュトラウス家の次男

そしてプログラム。

今年は驚きの連続で、まず一つ目のポイントは、15曲中なんと14曲がこのコンサートでは初めて演奏される曲だったということ。
メストさん曰く「再発見の魔法の旅」だそうです。


オーケストラには表舞台に立つ演奏者と指揮者以外に必ず重要な裏方と事務方がいて、中でも「ライブラリアン」という重要な役職があります。
楽譜を調達し、管理するお仕事。
この部署がないとオーケストラは立ち行きません。

NHKのインタビュー映像にもありましたが、ウィーン・フィルのライブラリアンは、今回のニューイヤー・コンサートではさぞかし大変だったろうと思います。



そして、ただ初めてなだけではなく、あのヨハン・シュトラウス2世のすぐ下の弟、ヨーゼフ・シュトラウスの作品が半分以上を占めていました。
これには私もびっくり。
プログラムが発表になってこれを知ってから、ずっととても楽しみにしていました。


シュトラウス一家は、まずお父さんのヨハン・シュトラウス1世、一番有名な長男のヨハン・シュトラウス2世、今回たくさん作品が取り上げられた次男ヨーゼフ・シュトラウス、末っ子のエドアルト・シュトラウス。


長男ヨハン・シュトラウス2世の素晴らしさは、言うまでもありません。
彼はあの『美しく青きドナウ』の作曲者で、そもそもこのコンサート自体がヨハン2世のワルツやポルカで戦争で暗くなった人々の心を盛り上げようという目的で始まったのです。
だから毎年このコンサートで一番たくさんプログラムの中を占めているのはヨハン2世の作品で、お父さんと弟たちの作品もいつもいくつかは入っているけど、、、くらいの感じでした。
私はとにかく一番好きで、ポピュラー音楽スレスレと言ってもいいくらいとても気軽に聴ける分かりやすい感じ、だからこそダイレクトにカラダに染み渡って乗らずにはいられない。
聴衆というものをよく分かっていて、心身への影響力の一番強い作り方をいつも心がけていたように私には思えます。


末っ子エドアルドは、ヨハン2世と方向性は似ていて、お兄さんよりも更に大衆好みで元気をもらえるような、でもその中にエドアルドにしかない個性があり、時々「あっ!」と思うような不思議な雰囲気になる瞬間がある、そんな作曲家です。


そして今回、このコンサートでは初めて、父よりも兄よりも弟よりも飛び抜けてたくさんの作品が選ばれた、次男ヨーゼフ・シュトラウス。
一説には、しっかりしたクラシックの作品を作る作曲家としての才能が一番優れているのは、このヨーゼフだと言われている人です。

兄弟の中でも飛び抜けてお勉強ができて、機械工学が何よりも大好きで、初めてついた職業は機械系の会社のエンジニアでした。
お兄さんが人気がありすぎて忙しすぎて過労で倒れた時に、お母さんの懇願に負けて代わりに作曲をして指揮をし、それがあまりにも評判が良すぎて、その後しばらくして完全に作曲家に転職しました。

エンジニアから作曲家ということの意味、皆さんはどう考えられますか。

音楽を構築する 

作曲という作業は、人を惹きつける魅力的な個性的な音楽の素材を生み出して、そしてそれを使って作品を構築することです。

どんな目的を持ってどんな素材をどう組み立てるか、そこにとことんこだわり抜いて、どの曲も奥が深くて彩の豊かな、意味深い作品に仕上がるのは、ヨーゼフの創作としては当然の成り行きだったのだと私は思います。


伝統は変化し続ける

そんなヨーゼフ・シュトラウス作品を半分以上にして、そのほかもほとんど演奏される機会のなかった作品を持ってきて、濃いウィーン訛りの表現で演奏してみせる。
メストはそんな指揮者でした。
私としては、敬愛する古楽研究家で指揮者のアーノンクールさんの次くらいに、近年では飛び抜けて質の良いニューイヤー・コンサートだったと感じています。



解説のヘーデンボルク和樹さんが、素晴らしいことを言っていました。
「伝統は変化し続ける」
名言だと思います。


由緒ある伝統的なオーケストラでありコンサートであるけれど、そのことは本当に大切にしてゆかなければならないけれど、無理矢理に急いでではなく人の心に寄り添った自然な流れで、その在り方が少しづつ変化してゆくのは、歴史的にも面白くて良いことなのだ。

という意味のことをお話しされていました。



中に一曲だけ、何百年もの長い歴史を持つあのウィーン少年合唱団と、2004年にできたばかりのウィーン少女合唱団が、仲良く一緒に登場して演奏の主役になる、そんな演目がありました。

とても素晴らしくて可愛くて、涙が出るほど感動的な演奏でしたが、、、こんな成り行きも、伝統の変化の一つの表れなのではないかな、と思いました。

ウィーン少年合唱団とウィーン少女合唱団

楽観主義

お決まりのアンコールの流れの中で、指揮者がひと言だけ短くスピーチをして、楽団員全員で世界に向けて新年の挨拶をするという演出があります。

毎年、ここでその年の指揮者がどんなことを言うのかが楽しみなのですが、今年のメストさんのお話しの中で特に耳を引いた言葉がありました。

「オプティミズム」

「私たちウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、いつでも“オプティミズム”楽観主義をもって、皆さんに音楽をお届けし続けます。」


世界中の人々が人類の危機を耐え忍んで何とか前に進もうとし始めている、そういう今という時にこそ、この乗り越えている人だけが心に持つことに意味がある「楽観的な」物事への気持ち。

音楽の力は、みんなが楽になるためにこそ使われるべき力なのだと、一音楽教師としてあらためて背中を押された気がします。





さて、いかがでしたでしょうか。
ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート 2023。

実はここに書いたこと以外にも、楽しい話題がたくさんあるのです。
それはまた別の、軽いことを書いているブログの方で話題にしてみたいと思います。




Musique, Elle a des ailes.

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