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お殿様の“孤独のグルメ”/徳川将軍の食卓を考える③

徳川将軍の食卓を考えるシリーズ。

いよいよ『旧事諮問録』から将軍の食事について見ていきます。

朝食はどんなメニュー?

旧・中臈の箕浦はな子さん、旧・御次の佐々鎮子さんによれば、精進日でなければ朝からお魚だとのこと。精進日とは祖先の忌日など、肉食を断つ必要のある日のことです。

食事は、お膳に盛って一人前ずつ提供します。

千代田の大奥「元旦二度目之御飯」

大奥での将軍と御台所(将軍夫婦)の朝食の献立は、次のようなものでした。

本膳
・ご飯とおみおつけ(味噌汁)
・平椀(煮物)
・腰高(漬物など副菜)
なます

二の膳
・豆腐か鶏卵の汁物
・鯛かホウボウの焼物(焼き魚)

なますのイメージ/「池波正太郎の江戸料理帳」より

ご飯、味噌汁、煮物、焼き魚、漬け物という献立です。
これに、口取りという小皿がつきました。

昼食は朝食と同様。
夕飯は量が多かったそうですが、献立は同じようなものだったようです。

三食とも、二汁五菜の本膳料理形式だったということでしょう。

豪華ではありますが、“おもてなし”ではない日常食なので、焼き魚や汁物・煮物中心のごく普通のメニューが提供されていたようです。

お殿様は“冷や飯”のイメージ

落語「目黒のサンマ」に代表されるように、お殿様の日常食は冷えていてまずかったという先入観がありますが、その点についても質問がなされています。

《質問》
お肴などは本当にうまく熱くなっておりますか。冷えておりましょう。

《回答》
そうでもございませぬ。公方様の方は冷えているかも知れませぬが、御台様の方は、中年寄が試食こころみをいたすのでございまして、何でも終始あおいでおりました。

《質問》
それでも、汁などは冷えておりましたろう。

《回答》
イエ、チャンと御膳所に火鉢があって、終始あたためて差上げたのでございます。
ただ公方様の方は、いつもぬるいぬるいと仰せられていらしたそうでございました。
しかしそうでもございますまい。
よく公方様はあったかい物を食べることは出来まいなどと申しますが、左様ではございませぬ。もっとも御膳部の方で終始うちわであおいでおりましたから、それで冷めてしまうのかと思いますが、まさかそうでもございますまい。

  • 大奥の御膳所には火鉢があって、料理をあたためて出していたので、冷えているとは思えない。

  • 御台所の食膳に関しては、大奥の中年寄が試食(毒味)をしていたが、ずっとあおいでいた(から冷めていたはずはない)。

  • 将軍(公方様)は「ぬるい!」とおっしゃっていたそうですが、そんなこともないはずです。

かなり強気の主張です。

“冷や飯”イメージについて真偽を確認したい聞き手と、“温かかったはず”と主張する大奥スタッフのプライドが印象的です。
「目黒のサンマ」的なイメージがすでに世間に浸透していて、給仕担当者としてはそれが不本意だったのかもしれません。

おかわりの方法

おかずについては、独特な給仕方法をしていたようです。

お肴などは一と箸なり二箸なりむしって差し上げますと、それを一と箸なり召し上がって、すぐにお替わりを差し上げるのでございます。
お肴のお替わりの時は、御間を隔てて中臈衆が持って参られますと、私(※佐々鎮子)が受け取って、御膳所へ持って行って取替え、また持って行くのでございます。

一口分を取り分けてある惣菜を一箸食べて、すぐにおかわりをするようです。
おかわりのときには、将軍の近くで世話をしている中臈から御膳を受け取り、御膳所に持って行って、新しい料理を受け取って戻るようです。

このことについてはさらに質問が出ています。

《質問》
魚などが出ますと、表の方だけで、裏の方をひっくり返して召し上がるようなことはありませぬか。

《回答》
決してそういうことはございませぬ。
表の方も、半分も召し上がりませぬ。一と箸か二箸でございます。

《質問》
むしって差上げるのは、同じ皿の上でむしって差上げるのでございますか。

《回答》
ハイ、少しむしって、そのお魚の上にのせて差上げるのでございます。

魚料理は、表側の一口か二口分しか食べないし、裏側をひっくり返して食べることは絶対にない。少量をほぐして魚の身の上に乗せて、それを差し出すのだとのこと。

鯛の塩焼きイメージ

鯛もホウボウも決して小さい魚ではありませんが、かなり贅沢な食べ方をしているようです。
食べきるということは想定していない提供方法。上流階級の豊かさを感じます。

しかし、残った料理についても、無駄にしていたということではない様子。

《参考文献》
大口勇次郎「消費者としての江戸城―将軍御膳の魚料理―」(『お茶の水史学』45号、2001年)

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いくは
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