「健診」に行ったら老先生が優しかった話
退職して2年目、国民健康保険に加入しました。
そうすると、近所の病院で「健康診査」を受けることができます。
身長・体重・腹囲・尿検査・血液検査・心電図・問診を、誕生月か翌月ならいつでも無料で受けられるのは助かります。
私は引っ越しをしたので、特に「かかりつけ医」がありません。
ですから、健診をしてくれる病院の一覧表の中から選んで電話をします。
はじめに電話をした病院には断られてしまいました。
2件目は、何十年か前に診てもらったことのある病院に電話をしてみました。
その病院の先生は私よりも20歳ぐらいは先輩なので、もう80才は過ぎておられるはずです。
外科・内科のいかつい病院の建物は、数年前、歯科医の娘さんのためにかわいらしい全面ピンク色の建物に改装されました。
ピンク色の歯科医院の一室で、ときどき老先生が外科・内科の診察をされているとしばらく前に聞いていました。
電話をしてみると、「月・水・金の午前中だけですが内科の診察がありますので、朝食を抜いてお越しください」とのこと。
そして本日水曜日、朝ご飯を抜いて行ってきました。
名前を呼ばれて診察室に入ると、老先生は
「いや~、久しぶりだね~」とニコニコしておっしゃいます。
とても80歳を過ぎておられるようには思えない、まっすぐな姿勢にがっちりした体格にツヤツヤの肌。
あれ、もしかしたら同年代だったっけ、と頭が混乱するほどです。
老先生は問診票を見ながら、あれやこれや丁寧に尋ねてくださいます。
私も気が緩んで、これまでの病歴やあちらこちらが痛いことなど話します。
老先生は、「痛いのは辛いね~。どうしようもないのかなぁ。ストレス発散できることがあればいいのになぁ。大きな声で叫ぶとか、どうだろねぇ」などと言いながら笑っておられます。
そして、「心が弱いのかもしれないねぇ。それは心が優しいということだね」と穏やかな笑顔でおっしゃいます。
私は「心が弱い」と言われてうれしかったことはありません。
それなのに、老先生にこう言われたとき、うれしくて涙が出そうになったのでした。
もしかすると私はこれまで、心の弱い自分を認めたくなかったのかもしれません。
「私は体は痛くなるけれど、心は強いのだ」と思おうと、何十年も踏ん張っていたような気がします。
かわいそうに、私は自分自身から否定され続けてきたのかもしれません。
これからは心が弱くて優しい私を、自分が大事にしてあげようと思えたのでした。
老先生の力は絶大でした。