機能性便秘を東洋医学的見解で考察①

ちょっと前のnoteで、「便秘の解剖」と題して、便秘の種類を紹介いたしました。

このnoteで出てきた機能性便秘は、以下の4つの種類です。

①直腸性便秘
→排便を我慢し続けることで、直腸のセンサーと排便を促す神経回路が鈍くなってしまって、直腸に便が溜まってしまうタイプ。

②痙攣性便秘
→自律神経の過度の緊張で大腸がキュッとなり、大腸の管の太さが細くなってしまって、便の通過に時間がかかるタイプ。

③弛緩性便秘
→高齢者や虚弱体質の人に多く。大腸がだらーんとして、大腸の動きが悪く、便を運びきらないタイプ。

④腸管形態異常便秘
→「ねじれ腸」や骨盤腔に大腸が落下して入りこんでしまう「落下腸」という腸の形が異常なために起こる便秘。
本来あるべき位置に大腸をキープできない、重力に逆らうことができない程持ち上げる力がないタイプ。

これら4つの便秘を東洋医学的な見解でみるとどのような仕組みになっているか観てみます。


東洋医学のメガネでみた直腸性便秘

直腸性便秘を直感的に捉えると・・・。
排便を我慢し、便を保持しておけるだけの体力があるというイメージ。
その一方で、排便力不足・いきみ切れないので出せない気不足も考えられます。

便保持型の陽タイプの直腸性便秘

便を保持できちゃう人の身体の状態は、
保持できるだけの体力があり(実)、熱をもった物質(便)が体内に滞る。陰陽でいうと「陽」に傾いているといえます。
体力がある人の場合、体内に熱をもつことで食欲は増えるんです。
そうすると、益々熱化が進み、陽&実に傾く感じです。


排便力がない陰タイプの直腸性便秘

逆に、排便力がなく(陰)、仕方なく直腸に便が溜まり、固化していく。
いわるゆ「しぶり腹」と言われている症状です。
排便力の低下の背景には、腹圧を上げきることができない「横隔膜」と「腹筋」の低下があると思われます。

「横隔膜」は、経絡との関係性でみると肺経に属します。
「腹筋」は、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋であり、
それぞれ胃経に属します。
肺経に属する筋肉は、横隔膜を経て季肋部(肋骨の下の部分辺り)までに至ります。腹筋(腹直筋)も季肋部に達しているのでこの二つが腹圧に影響を与えていることがなんとなくイメージできます。

それらの筋肉に関している経絡が「肺経」「胃経」。
腹圧が上げられないというのは、肺経や胃経の経絡に気が充足していない、同時に肺・胃の気が充足していない陰の状態。と考えられます
合わせて気が不足している=熱が不足しているとも考えられるので、
腹部に冷えがあるかもしれません。

そもそも、気が少ないというのは、食べ物から十分に気を作ることができていないので、胃や脾の不調はあると思います。そうなってくると、食欲自体も落ちてくるので、巡り巡って何かしらの便秘になってしまうと思います。どうのようなタイプの便秘になるかはその人の体質による部分もあるのではないでしょうか。

直腸性便秘の場合の東洋医学的な解消方法

①便保持型直腸性便秘
②腹圧不足の直腸性便秘

このふたつの便秘に対してのOTC薬での解消方法としては、
(1)とりあえず腸を動かして出す=刺激性便秘薬(西洋薬:ビサコジル 生薬:大黄・センナ)
(2)腸を刺激しないで、溜まり固まってしまった便を柔らかくする便秘薬=酸化マグネシウム製剤など
(3)直腸まで便は来ているのだから、直腸そのものを刺激する=浣腸

このような選択肢があります。

東洋医学的な観点でいえば、「出せばよい」というアプローチではなく、
その先、「次回から便秘状態にならない状態へもっていく」というところまで見ていきますが、東洋医学的な対処方法でも、まずは”出すこと”ということで、漢方は鍼などの経穴への刺激があると思います。

便秘の漢方薬

最も有名な漢方薬としては、大黄甘草湯
構成生薬は、大黄と甘草の二つ。大黄はセンノシド成分が含有されているので大腸自体を刺激して排便を促します。甘草は、効きすぎる大黄の役割を制御緩和する働きを担って配合されています。

東洋医学的にみるた場合の「大黄」の働きは、
胃腸に溜まった熱を冷ます働きと腸を動かすをします。

便秘の原因として、胃腸に熱が溜まる食生活(脂っこいものや辛い物の取りすぎや過食)をあげています。胃腸に溜まった熱により、食べ物や便は水分を奪われ乾燥させて硬くなります。硬くなるから、動きづらくなります。
動きづらいものがあることによって、体内の気・血の流れが悪化します。
「大黄」によって、胃腸に溜まった熱を冷まし、気血を動かしていきます。

直腸に溜まりすぎて便が硬くなってしまったときは、
調胃承気湯」、「大承気湯」を選択します。
というのは、西洋薬の「酸化マグネシウム剤」と同様に便を柔らかくする生薬「芒硝(成分:硫酸ナトリウム)」を配合します。
調胃承気湯=大黄甘草湯+芒硝
 大黄甘草湯の大黄の量より半分少ない
大承気湯=調胃承気湯-甘草+枳実+厚朴
 甘草が外され、さらに、気の巡りを改善(止まったものを動かす)枳実と厚朴の配合により、大黄甘草湯よりも瀉下作用を示します。

とりあえず出すという見解からみると、
基本的に熱を冷ますという作用が入っているので、①便保持型の直腸性便秘には上記に上げた漢方薬がよいと考えられます。

では、②腹圧不足型の直腸性便秘だとどうでしょうか?
気が不足していることが視野に入ってくるので、先にも述べたようように身体が陰に傾いていることが予想され、「冷え」の可能性があります。
すると、「熱を冷ます」作用のある漢方薬だと合わない可能性が出てきます。なので、温める成分が入るような漢方薬を「桂枝加芍薬大黄湯」を検討します。

桂枝加芍薬大黄湯は、桂枝(シナモン)と生姜が配合されています。シナモンと生姜といえば、温める役割を持った生薬です。このふたつの生薬が、腹部を温めて、脾・胃(消化器系)の働きを改善します。潤いを与える芍薬、胃の働きを高める甘草・大棗、腸を動かし腸の熱を冷ます大黄が配合されています。

腹部に力を入れることができないくらい、腹部が弱まっているということは、脾(消火活動を司る臓)の弱まりがあり、その脾の弱まりによって水分代謝が上手くいかなくなります。脾の低下から水分を作ること自体が低下します。すると、体内において水分不足が起こり、腸が乾燥し便が乾燥していくことが予想されます。便の動きが悪くなり、便が停滞していきます。

桂枝加芍薬大黄湯は、
腹部を温めて、腸を潤すことで便の乾燥を防ぎ、そして、少しの大黄で腸を動かして出すといったメカニズムです。
ちなみに、添付文書にも比較的体力ない人向け、しぶり腹と記載があります。臨床の現場では、高齢者の便秘に使われています。

直腸性便秘と漢方薬のまとめ

腸にある程度の動きがあって、直腸まで便はやってきていて、
あとは出すだけというときには、出す事に注力した便秘薬を検討。

①便保持型の直腸性便秘=陽型
大黄甘草湯
便が硬い場合には、
調胃承気湯
・より強い瀉下作用を期待するなら大承気湯

②腹圧不足型の直腸性便秘=陰型
桂枝加芍薬大黄湯

おまけ:経穴刺激のとりあえず出すの便秘解消


お腹にある経穴=中脘(CV12)、天枢(ST25)、関元(CV4)、大巨(ST27)
背中の経穴=大腸兪(BL25)
手の経穴=合谷(LI4)
頭頂の経穴=百会(GV20) など。

直腸まで来ている便を浣腸のように出す経穴と言われているのが、
前腕の肺経上の経穴=孔最(LU6)です。
孔最(LU6)は、肺経の郄穴で気血が集まるところで、ここがパンパンに張っている時は直腸に便が溜まってくすぶっているそうです。
パンパンになった郄穴である孔最(LU6)を鍼などで刺激することで、スルッと排便につながるという文献があります。


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