復元不可能??
「この模様難しいから他の模様にしてほしい」
ある日の夕方、私の部屋に来たソキアン。少し言いづらそうな表情で「違う模様にしてほしい」と相談をしにきた。IKTTの中ではもちろん、今となってはカンボジアの中でも一流の括り手と言っても過言ではないだろう。今までもっと難しく複雑な模様を復元してきた彼女にとっては簡単なレベルの模様だった。
「なぜ?」
復元したい布はいつもだいたいテキスタイルブックの中。その画像を拡大コピーし職人に渡す。しかしテキスタイルブックの画像が粗ければ、職人達は模様の目を数えられない。そうなると、復元する布と全く同じ出来にはならない。
それで問題ない。と、職人ではない私は考える。
しかし職人の気持ちもわからないではない。彼女達は見本に忠実に再現したいのだと思う。オリジナルの布の一部のパーツが少しずれていれば、ずらさなくて良い部分でも同じようにずらす。例えば私が、この部分の線は直線ではなく、少し弧を描くようにして欲しいと言えば、その通りにする。その通りに出来る。つまり、The職人なのだ。
彼女が難しいと言ってきたのはナーガの模様でS字にくねった形で表されている。
確かにテキスタイルブックの画像でかなり粗く色も薄いので見づらいが。私は彼女にいった。
「全く同じではなくていい。その必要もない。これはナーガ。あなたは何度も括っている模様だ。あの模様でもあの模様でも、その中にこのように表現されたナーガはいくつもあった。」
私は彼女が制作してきた布の画像を見せながら話した。そして良い機会だと思って、彼女に私が今後やりたい事を伝えた。もちろん今すぐにではなく、将来的にだ。
「いつかはあなたのオリジナルデザインで、絣の布を作ってもらいたい。だから今、皆には個人のレベルに合わせ色々な模様の布を作ってもらっている。これからもしばらくは出来るだけ多くの模様を制作し、数年後には、あなたがデザインした布を制作してほしい。」
ソキアンはちょっとビックリした表情を見せたが、それはとてもポジティブな表情のように見えた。いつだってそうだ。初めは自分が出来るようになるなんて思えないだろう。でもやり続けることで出来るようになる。必ず。多分…笑
私達が制作している絣の布、その中に表現されている模様は、ある意味その時代の最先端の模様だったのだろう。先人達の制作した布の復元を通し、技術、感性、意味を学び、今を生きる職人達に最高の作品をこの時代に生み出してもらいたい。
もしかしたら、何十年後、何百年後に、あなた達が作った布を復元しようとする職人が現れるかもしれない。今の私たちと同じように。それは職人として生きた証にもなる。
それってめっちゃ嬉しいじゃん。
先日、この布が織りあがった。S字のナーガの部分、皆さんにはわかるだろうか。
彼女にしては珍しく、Sの部分が定まってない。そしてテキスタイルブックと同じように線を曲げている部分もあるし、形を歪にしている部分もある。いつも彼女が作る布とはあまりにもギャップがある。しかし、今回の制作を通し、彼女の次のステップへの課題が見えてきたのは大きな収穫だと思っている。
今まで、技術的に難しい複雑な模様を、お手本に忠実に復元してきたソキアン。これからはもう少し自身の感性を使った布の制作を振っていこうと思う。
しかしながら、非常に貴重な布が出来上がったな。
そして、POPで可愛い💕
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