職人のプライド
SEANG LEAN(シン レイン)、若い頃から括りを始め2007年伝統の森に家族と共に来た。彼女の得意な模様がある。それが私たちが「カンマン」と呼んでいるナーガや卍、プカーチャンなど吉祥文様で構成された人気の模様だ。昔から彼女はこの模様を得意としていた。彼女が制作するカンマン模様の布はお客様にとても人気があり、大判の布だけではなく、スカーフタイプや色違いも作り始めた。
まだ森本さんが生きていた頃の話し、彼女の括りが少しずつ揃わなくなってきた。布の最終仕上げ等を担当るショップスタッフ達とも、時折この話題が出ていた。しばらくすると、シンレインは森本さんに「括りではない仕事がしたい」と伝えたそうだ。彼女も50代を過ぎて老眼が進んでおり、すでに手元が見えずらくなっていたようだった。他の仕事がしたいと言われた森本さんは、まだ括りを続けてほしいと伝え、老眼鏡を買ってあげた。それからは特に問題もなく、日々が過ぎていった。
2022年頃、また彼女の手元が狂ってきた。老眼鏡が合わなくなってきたのかと思ったが、どうやらそうでも無いようだ。しばらくそのまま様子を見ていたが、一行に良くなる兆しはなかった。そしてある時、彼女が新しく仕上げてきたヨコ糸で織り始めると、正直、このまま商品として出せるレベルではなかった。すぐに織りをストップさせ、そのヨコ糸は矢絣やストライプに回した。これは括り手にとって心が痛い選択でもあるが、仕方がない。
そろそろ括りではない仕事に変えたほうが良いのではとも思ったが、もう一度彼女の可能性にかけてみることにした。
彼女の得意なカンマン模様の布。これは幸いにも森本コレクションの中にある。そのため、実際に古布を見て復元することが出来る。
ある日、その古布を手に彼女が仕事をする場所へ向かった。私の手には古布が握られていたので、彼女も何か察したのだろう。括りの手を止め向かい合った。
「もう一度、この布を見ながら括ってみてほしい」
彼女は、もうみる必要ないと言わんばかりに、ちょっとぶっきらぼうに模様の目を数えはじめた。そして自分が作っているのと同じだから見なくても出来ると。内心ちょっとビクビクしていたが、率直に自分の意見を言った。そしてその古布を彼女に手渡し、「あなたなら出来る」と一言残しその場を後にした。
そして数ヶ月後、彼女の括りが終了した。織り手はとても慎重で丁寧な織りをする若手のVET KEA。織り始めてしばらくすると模様が見えてきた。そしてバッチリ仕上げてきた。
括りも色も、今まで見たカンマン模様の中でも最高の仕上がりの一つだった。織り手のKEAもニコニコして、綺麗だと私に伝えてきた。あまりの嬉しさに、すぐに彼女を織り機まで呼び、とても綺麗な仕上がりだと伝えた。彼女もとても嬉しそうにしていた。
そしてシンレインのカンマン模様の布はすぐに完売した。
スレンさん、そしてシンレイン、50代の職人達のプライドを見た気がした。みどりみたいな若造にまだまだ言われる筋合いはないと、ツンツンしていてほしい。
布作りと共に歩んできた人生、これからも布作りと共に歩んでいってほしいと、心から願っている。
度数の違う老眼鏡は数種類準備済みだからね!!!
SEANG LEAN インタビュー動画(2022年)
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