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KIM SRENG 船のピダン 中編 / まさかのやり直し

私「これ、お客様からのオーダーで、8m必要なんだ(^_-)」

二人・・・

スレンさん「ん?何メートル?」

私「え、8m (^-^)」

スレンさんが笑い出し、もぅ、まったくみどりは的な感じで、でも心が決まったような、嬉しそうな感じでそのまま打ち合わせに入った。オーダーの作品を制作する、それは責任が伴う。でもそれ以上に何か特別な遣り甲斐もあるんだろう。

そして、スレンさんの本気の職人魂のようなものを、この制作を通して見せつけてくるとは、この時点では思ってなかった。そしてこの作品がIKTTの職人達の意識を変化させていった。

まず、括り手にどの模様を作るのか伝える際には、入念な打ち合わせを行う。ただ布や画像を渡してあとはよろしく!的にはしていない。まずは模様の意味、使う糸の量、細かいパーツのデザイン、色、端の模様、バランス、等々、様々な指示を出す。皆さんはお気づきではないと思うが、実際には古布のデザインを大幅にアレンジしている布も割とある。そのような場合は、私がPC上でデザインを制作し括り手に出来るか相談する。

織り手にデザインを見せながら、織りの細かい指示。
実際に括り手(SEAK HOUY)に見せたデザイン画像

そこで私と括り手とのディスカッションが始まり、そこでまとまったデザインを再度作成し拡大コピー。それを元に括り手の仕事が始まる。織りの場合はもっと細かい指示をだす。そういう意味では織り手の方が大変だろうな笑

例えばスレンさんが制作した船のピダン。中心の模様は古布通りだが、端の模様は変えている。

布の左端のデザインを変更
クメール語での専門用語はこの部分をチューン(足)と呼んでいる
布の端の部分をどうするか話し合っている場面

スレンさんとこのような打ち合わせをするのは、ほぼ初めてだったが、とてもスムーズに話し合いが行われた。今回は端の模様を変更するだけだったため、デザイン画はなし。実は端の模様もそれぞれ違い、名前がついていたりする。特にピダンの端の模様は特別で、なんでもいいわけではない。と、思っている。

そして、括りが始まった。シェムリアップに行く度にスレンさんの進行具合を見つつ、たわいもない話しをしていた。

括り始めたスレンさんと、背後にペプシ(犬)

しかししばらく経った頃、いつものようにスレンさんの作業を見に行くと、いつもと様子が違った。いつもなら私の気配がわかると顔を上げて、その時々の話しを始める。しかしその時は顔も上げずにただ仕事に没頭していた。私も気配を消してしばらく見ていると、一度括った場所を外してるのがわかった。しばらくそのまま見ているとこっちに気づいたのか、一瞬私を見てから手を止めることもなく説明を始めた。

船のピダン

この画像を見てわかる通り、このピダンの模様は上段と下段に分かれている。しかも均等に分かれているわけではないから、さらに難しい。この上下のバランスをとりながら自分の感覚を頼りに模様を成立させなければならないのだが、このバランスが良くないということで括りをやり直していた。この時点でだいたい3ヶ月が経っていた。

拡大コピーした元画像を見せながら詳しく説明するスレンさん

括り手がたまにナイフを右手に持って、自分の括った部分をじっと見ている場面がある。

何をしているかというと、これもまたバランスを整えている。1つ1つの点がずれてないか、少しのズレがあればナイフの背の部分で括った部分をミリ単位で調整する。それはとても繊細な作業、仕上がりに大きく関係してくる。

ナイフの背の部分で括った部分を調整する

そんなこんなでスレンさんの作業が進む中、カンボジアの文化芸術省がシェムリアップのショップに視察に来た。もちろん大臣も。来て早々、スレンさんの仕事に食いついてくれた。現在の大臣はこの仕事をとても評価してくれている方なので、理解も深い。職人が直接偉いさん方に自分の仕事を説明し、それをちゃんと見てくれ、評価してくれる。職人にとって誇らしい事だと思う。まあ、王様をはじめ様々な場面で偉いさん方に会ってきたスレンさんレベルになると、そこまで緊張しないだろうが。

大臣に説明するスレンさん

ちなみに大臣は伝統の森にも来てくれている。その際も職人達の仕事を丁寧に見てくれ、職人達からの説明も真剣に聞いてくれていた。森本さんが亡くなってから上の方とのパイプは切れ、このような機会もほぼ無くなっていた中での文化芸術省 大臣訪問。職人達の嬉しそうな顔よ、その時の画像をよろしければご覧ください笑

大臣に説明する括り手SEAK HOUY
嬉しそうに括るホウイ笑
大臣と織り手NOU SORN。
子供の頃からずっと織りを続けIKTTトップの織り手に成長。大臣に自分の仕事を自信を持って説明するまでになった。

スレンさんの仕事が順調に進む中、私は自分の欲と戦っていた笑。それはスレンさん自身で織ってもらいたいというもの。

長くなったので、この続きはまた後日〜(^_-)

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