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IKTTは「点」である

IKTTを設立するにあたり、わたしがミッションとしたのは

「カンボジアの伝統的な織物を、当時の技術を会得しているおばあ達の協力により復元しながら、現在の養蚕、織物産業の再生に寄与し、カンボジアの若い世代の織り手や専門家を育てていく」

ということであった。
(カンボジアに村をつくった日本人 P100より/白水社)

先日、シェムリアップのショップスタッフからSNSにUPされた一本の動画を見せられた。そこに映っていたのは、括りをするカンボジアの職人の姿。そしてその職人は昔IKTTで括りをしていた職人だった。見るからにヨコ糸は「カンボジアのシルク」、そして明らかにラックの赤に染められていた。仕上がりの布はIKTTの布とは明らかに違う雰囲気ではあったが、徐々にこちらに近づいてきているのが明確にわかった。

カンボジア内ではベトナムのシルクを使用し化学染料を使用し布を作る所が大多数をしめているが、ここ最近、このような現象が起き始めている。

「私たちも頑張ってIKTTのような布が作りたい」

と、言っているところが数カ所あるそうだ。以前からIKTTで働いている職人をスカウトする動きがちらほらとあったのは事実。実際にスカウトされた職人数名が、密告してきた(笑)。うちの代表やショップスタッフは、現在のこのような流れにソワソワしているようだ。

「真似は大いに結構。真似される価値があるから真似される。本物の証拠」

と、言ったココシャネルの名言は有名だろう。彼女についての本は数冊読んでおり、2022年に東京で開催された「ガブリエル・シャネル展」では、彼女の歴代のドレスなどを実際に見る事が出来た。女性を美しく上品に見せるドレスのライン、デザイン。。。彼女自身が産み出した作品へのLOVEを語ったら長くなるのでここでやめておく。

とにかく、IKTTの布はカンボジア内ではシャネルが言う「真似される価値があるから真似される、本物の証拠」なんだろう。以前は国内では見向きもされなかったIKTTの布。いや、「自然染色」や「カンボジア伝統の模様」と表現した方が的確だろう。むしろ、カンボジア女性に昔の布っぽくて好きじゃないと言われた事もある。しかし今、国内の富裕層や著名人がその価値を理解し始め、実際に購入、オーダーし、SNSでUPする事が増えてきた。その流れの中で、カンボジア内の織物関係の人々も、自国の伝統織物の素晴らしさや価値を理解し始めているのかもしれない。

森本さんの話しの中でとても印象的だった事がある。「IKTTの職人がここを辞めて故郷に帰ったとして、そこでIKTTの技術を使って布を作ってくれるなら、それはとても嬉しい事だ。」といった内容だった。そうしたら、もしもIKTTという組織がなくなったとしても、IKTTがつくりあげた技術はカンボジア内に残る。

「IKTTはあくまでも点である」と。

森本さんは「非所有を所有する」とよく言っていた。IKTTは僕のものではなく、カンボジア人のものなんだと言っていた事を思い出す。このような発言からも森本さんの考えがよく理解できるだろう。

冒頭の森本さんの言葉に戻る。

「カンボジアの伝統的な織物を、当時の技術を会得しているおばあ達の協力により復元しながら、現在の養蚕、織物産業の再生に寄与し、カンボジアの若い世代の織り手や専門家を育てていく」

これが森本さんがIKTTを設立するにあたり掲げたミッション。IKTTは長い年月をかけカンボジア内に良い影響を与え始めているのかもしれない。森本喜久男という人物がいたからこそIKTTは「本物」のクメール伝統織物を当たり前のように作り続けてきた。これからもIKTTは「点」として存在し続けられたらと思っている。

ただ、一つだけ。
IKTTはこれからもIKTTらしく突っ走りぶっちぎりで先頭を走っていきますのでヨロシクー笑


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