黒く汚れた雑巾のような布
今回復元した布は、Morimoto collectionの中でも生地自体がとても薄くなっており、状態の悪い布。でも、その美しさと仕事の細かさは一際目立っていた。この古布についてのストーリーは森本さんから直接聞いていたので私自身知っていたが、改めて森本さんのFBを探したら、これについての文章が書かれていたので皆様と共有。
わたしの愛するクメール絣コレクションの古布のなかでも、思い出の一枚。
95年、ユネスコの織物調査の頃、プノンペンの国立博物館のそばにあったアンティックの店。そこには、驚くほどのカンボジアの古布のコレクションがあった。しかし、それなりの値段が付けられ、購入するのは容易ではなかった。しかし、調査もかね店を訪ねて古布を見せてもらっていた。その店には、表のショーケースの他に奥の部屋があり、その部屋の大きな木のケースのなかに、特別のクメール絣の逸品が並べられていた。そして、その店のガラスケースを拭く黒く汚れたぞうきんのような布に目がいった。そして、よくよく見れば絣の布。完品の布を売るオーナーからすれば、そんな端切れのような小さな布には興味が無いようで、欲しければあげると言われ、貰った物。家に持ち帰り、洗ってみて、もういちど驚かされた。わたしにとっては、クメール絣の逸品。年代的には内戦以前、仕事の細かさから言えば7−80年は経っている布。それがこの布である。出会いと縁に、あらためて感謝。
(2016年7月森本喜久男FBより抜粋)
当時、ガラスケースを拭く雑巾になっていた布は、森本さんに救出され、輝きを取り戻し、IKTTで何度も復元されてきた。この布を作った当時の職人は、この布がこんな道を辿るなんて思ってもみなかっただろうな。
4匹のナーガが菱形を作り、頭や尾のような部分も見える。ナーガに囲まれた幾何学模様は赤、黄、緑のコントラストが美しく、Prohutの黄色と藍をかけて作った緑色はとても明るい印象を与える。一番印象的な部分はナーガが描く曲線。なんとも言えない優しい曲線が布全体のイメージを作っているのは一目瞭然で、復元する際にも括り手CHHOMにこのことを何度も伝えた。なんなら紙とペンを持ち出し絵に描いて伝えたくらいだ。
Morimoto Collectionはまだまだ沢山あるのだが、その布のストーリーを知っているのはほんの一部。森本さんが生きている間に、沢山聞いとけばよかったと、いつも思う。
さて、次はどんな布を復元しようか
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