西美濃方言講座 #4「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~文法②」
6.各形式の地域性
次に、赤坂方言と共通するこれらの形式は、それぞれどのような地域的分布を示しているのかをみていくことにする。
大垣市赤坂方言と3大方言との関係から、形式の地域性を次の6つに分類した。
①共通語的な形式 … 4方言すべてが使用する。
②西日本的な形式 … 京都方言、赤坂方言、名古屋方言で使用する。
③東日本的な形式 … 赤坂方言、名古屋方言、東京方言で使用する。
④ 近畿共通語 … 京都方言と赤坂方言で使用する。
⑤濃尾共通語 … 赤坂方言と名古屋方言で使用する。
⑥赤坂方言独自の形式
表1~4の213項目を品詞別に地域的分布を示すと、図2のようである。
①~②の分類にはどうような形式がふくまれているのかみていきたい。
①共通語的な形式
共通語的な形式には、モダリティーを表す助動詞第三類、動詞の活用形、副助詞、格助詞などが多くみられる。
②西日本的な形式
否定表現を表す助動詞第二類Aにおいて、そのほとんどを西日本的な形式が占めている点が注目される。そのほかに、アスペクトや授受関係を表す助動詞第一類B、待遇助動詞、終助詞などがみられる。
③東日本的な形式
ほかに比べると、非常に少ない。赤坂方言にはそれだけ東日本的な要素は少ないということがいえる。京都方言だけに異なった形式がみられる要因を歴史的にみると、京都方言で新しい形式が発生したため、赤坂方言以東の形式と差異が生じたことに起因する。
終助詞のゼ>デ、ゾ>ド、動詞や形容詞などの仮定形〈~タラ〉の発生、形容詞推量形〈タカカロ〉の縮退と〈タカイヤロ〉の発生などがあげられる。
④ 近畿共通語
近畿共通語として、ヤ終止とナ終止を持つ形容動詞、ヤ系の名詞、否定表現を表す助動詞第二類Aなどがみられる。
⑤濃尾共通語
濃尾共通語は、待遇表現や終助詞・接続助詞などに多くみられる。待遇表現をみてみると〈イカッセル〉〈イカッシル〉〈ゴザル〉〈クダレル〉〈イリャース〉〈ゴザリャース〉〈ゴザラッセッル〉〈オクリャース〉など9形式にも及ぶ。
⑥赤坂方言独自の形式
赤坂方言だけに独自でみられる形式が多いのが注目される。赤坂独自の形式は歴史的にみるとさらに次の4つに分類することができる(図3)。
ⓐ京都方言や名古屋方言の古態を示すもの
京都方言の形容詞語尾や名詞語尾は、以前はジャ系であったが、あたらしく発生したヤ系に取って代わられてしまった。赤坂方言のジャ系は、京都方言で消失した形式が未だに残っているものである。
ⓑ濃尾共通語
接続・意味は名古屋方言の〈イクダ〉〈イクダワ〉とまったく同じであるが、赤坂方言と形式が異なるもの。名古屋方言の名詞語尾がダ系であるのに対し、赤坂方言ではヤ・ジャ系が使用されるために、〈イクヤ〉〈イクヤワ〉、〈イクジャ〉〈イクジャワ〉と異なった形式が使用されている。
ⓒ岐阜県共通語
京都方言や名古屋方言とは共通していないが、岐阜県方言と共通している形式。〈オリンサル〉〈オンサル〉〈イキンサル〉など、いわゆる「ンサル系」の待遇表現である。
ⓓ大垣方言独自に形成された形式
赤坂方言の上位方言である大垣方言で独自に形成された形式が、待遇表現に多くみることができる。独自に発音変化した〈オイジャース〉〈オクジャース〉〈イカハル〉[1]、岐阜方言と名古屋方言の混交形〈イキャッサル〉〈オイジャッサル〉〈オクリャッサル〉〈オクジャッサル〉、近畿共通語〈イキール〉の類推から派生した〈イッテール〉〈クダシール〉など実に多様な形式がみられる。
そのほかには、助詞の融合形が多くみられる。主格・目的格・場所を表す〈ン〉、程度〈ンウレァー〉、例示〈ンタ〉などがあげられる。
7.おわりに
赤坂方言と京都方言、名古屋方言、東京方言の3大方言との比較をしてみた。この考察の結果を参考に、2012~2016年の4年間で、滋賀岐阜県境である彦根~大垣間の33地点と京都・岐阜・名古屋の計36地点で臨地調査を行った。その結果は、『東西方言境界地帯の方言』で発表したとおりである。
脚注
[1] 京都方言のイカハルが「行きなさる」系であるのに対し、赤坂方言のイカハルは「行かっしゃる」系である。
イキナサル>イキナハル>イカハル(京都方言)
イカッシャル>イカッサル>イカハル(赤坂方言)