杉崎好洋

東西方言境界地帯に位置する岐阜県西美濃地方の方言を、境界線をはさんで対峙する滋賀県湖北方言と比較対照しながら考察していきます。

杉崎好洋

東西方言境界地帯に位置する岐阜県西美濃地方の方言を、境界線をはさんで対峙する滋賀県湖北方言と比較対照しながら考察していきます。

最近の記事

西美濃方言講座#7~方言競

 観光地のお土産売り場でよく見かけるのが、方言グッズ。中でも、方言番付は昔からの定番です。地元の皆さんの方言に対する愛着や誇りが感じられますし、訪問先のお土産として記念になるだけでなく、方言を知る資料にもなります。    私の地元の大垣には、残念ながら方言グッズはありません。ただ、意外と知られていませんが、過去に方言番付が作成されています。大垣の郷土研究会「美濃民俗文化の会」が昭和48年(1973)に「方言競」として作成、平成8年(1996)に、会報『美濃民俗』353号に加筆

    • 湖北・揖斐の近畿式アクセント①~2拍名詞アクセント

      1.はじめに 2023年より滋賀岐阜県境の伊吹山麓周辺において方言調査を行っている。調査した77地点をカシミール3Dで作成した地形図に示すと図1のようである。近畿式アクセントは赤色、内輪式は青色、垂井式は空色で示した。滋賀県湖北から岐阜県揖斐にかけては近畿式が分布している。本論では、これら近畿式アクセント地域の2拍名詞アクセントについてみていくことにしたい。 2.各地の近畿式アクセント 湖北・揖斐の近畿式アクセント地域を、次の3地域に分類した。  1)滋賀県・旧伊香郡~木之

      • 垂井式アクセントとは何か①~2拍名詞アクセント

        1.はじめに 2012年から2016年にかけて東西アクセント境界地域である滋賀岐阜県境、および京都・岐阜・名古屋の3都市を含む36地点で臨地調査を行った。2拍名詞アクセントについては単独形のほか、付属語が接続する結合語も調査した。ここでは、近畿式アクセントの彦根、内輪式アクセントの大垣、いわゆる垂井式アクセントの長浜(神照)、樋口、河内、今須、竹尻、垂井の6地点の調査結果を見ていくことにする。各地点の位置をカシミール3Dで作成した地形図に示すと図1のようである。 2.近畿式

        • 西美濃方言講座 #6「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~付属語アクセント」

          1.4方言の付属語アクセント 4方言の付属語アクセントを、名詞接続、動詞接続、文接続の順に比較していきたい。京都方言は中井(2002)・田中(1996・2005)、名古屋方言は山田(1987、2002)、東京方言はNHK文化研究所(2001)・田中(2003)所収の付属語を本書による結合形式に改めた。さらに、京都・名古屋・東京方言とも生抜きの話者に対して確認調査を行った。  4方言の名詞接続33項目、動詞接続39項目、文接続26項目の付属語アクセントを示すと、表1~3のようで

          付属語アクセントの結合規則(試案)

          1.はじめに 付属語は、「自立語との結合によって現れる結合アクセント型」と「自立語に対するアクセント上の支配力の程度を表わすアクセント結合形式」という二つ の属性を持つ(佐藤1989)。したがって、付属語アクセントの記述は結合アクセント型とその所属語を示すことになる。  結合規則の定義は、佐藤(1989)にほぼ準じるが、結合規則の名称や表記法は田中(1993・96・2005)を参考に一部改めた。本論と佐藤(1989)・田中(1993)における分類を比較すると表1のようである。

          付属語アクセントの結合規則(試案)

          西美濃方言講座 #5「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~自立語アクセント」

          1.名詞 1拍名詞・2拍名詞のアクセントは表1・2のようである。Ⅰ・Ⅱは類別を表す。  赤坂と名古屋は共通の東京内輪式、京都が近畿式、東京が東京中輪式である。近畿アクセントが高起・低起の区別がある声調アクセントであるのに対し、東京アクセントは区別のない非声調アクセントであり、両者の間に大きな断層がある。さらに、近畿アクセントの1拍/2拍名詞が、3型/4型であるのに対し、東京式は2型/3型と型が少ない。内輪式と中輪式は2拍名詞では同じ体系であるが、1拍名詞ではⅡ類の所属が異な

          西美濃方言講座 #5「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~自立語アクセント」

          西美濃方言講座 #4「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~文法②」

          6.各形式の地域性 次に、赤坂方言と共通するこれらの形式は、それぞれどのような地域的分布を示しているのかをみていくことにする。 大垣市赤坂方言と3大方言との関係から、形式の地域性を次の6つに分類した。  ①共通語的な形式 … 4方言すべてが使用する。  ②西日本的な形式 … 京都方言、赤坂方言、名古屋方言で使用する。  ③東日本的な形式 … 赤坂方言、名古屋方言、東京方言で使用する。  ④ 近畿共通語 … 京都方言と赤坂方言で使用する。  ⑤濃尾共通語 … 赤坂方言と名古屋方

          西美濃方言講座 #4「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~文法②」

          西美濃方言講座 #3「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~文法①」

           大垣市赤坂方言と京都方言・名古屋方言・東京方言の3大方言を品詞別に213項目を比較していく。京都方言は楳垣(1946)、岸江・井上(1997)、中井(2002)、名古屋方言は あらかわ(1972)と寺川(1985)、東京方言は永田(1935)、秋永(2007)による。 1.動詞・形容詞・形容動詞・名詞 4方言の動詞・形容詞・形容動詞・名詞を比較すると表1のようである。  動詞・形容詞は、共通語的な形式の割合が高く、差異は小さい。京都方言は新しい形式「イッタラ」「タカカッ

          西美濃方言講座 #3「大垣市赤坂方言と3大方言の比較~文法①」

          西美濃方言講座 #2「東西方言境界線概説」

          1、はじめに岐阜県方言は従来の方言区画論や方言の分類の中で、東日本に入れられたり西日本に入れられたり、さまざまな観点からさまざまな扱いを受けてきたという意味で特殊な方言であると言われている(久野1995)。中でも西美濃方言は東西方言の境界線上にあり、その特徴が顕著であるとされている。ここでは、西美濃方言が、東西対立の対立からみてどのような位置にあるのかを、アクセント、文法、方言区画論の順にみていくことにする[1]。 2.文法日本を東西に分ける代表的な形式として次の5つがあ

          西美濃方言講座 #2「東西方言境界線概説」

          西美濃方言講座 #1「大垣方言」

          2021年7・8月、岐阜新聞の「素描」で大垣方言についてのコラムを9回に渡り掲載いただきました。今まで考察してきた大垣方言の形成史を簡潔にまとめた内容となっていますので、本講座のプロローグとしてここに転載することにします(許可済)。新聞社の規約にしたがい、掲載時のレイアウトのままアップします。 1.大垣方言 2.東西方言境界線 3.中途半端な方言 4.方言周圏論 5.ドバッチ! 6.「辺境」方言 7.京阪の遊郭詞 8.名古屋方言 9.方言研究の魅力 〈追記

          西美濃方言講座 #1「大垣方言」