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垂井式アクセントとは何か①~2拍名詞アクセント

1.はじめに

 2012年から2016年にかけて東西アクセント境界地域である滋賀岐阜県境、および京都・岐阜・名古屋の3都市を含む36地点で臨地調査を行った。2拍名詞アクセントについては単独形のほか、付属語が接続する結合語も調査した。ここでは、近畿式アクセントの彦根、内輪式アクセントの大垣、いわゆる垂井式アクセントの長浜(神照)、樋口、河内、今須、竹尻、垂井の6地点の調査結果を見ていくことにする。各地点の位置をカシミール3Dで作成した地形図に示すと図1のようである。

図1 滋賀岐阜県境における8地点の位置

2.近畿式と内輪式

 2拍名詞の「鳥・石・松・猿」および「ガ、モ、マデ、バッカリ、ミタイ、~ヤ、~デス」など8種類の付属語が接続した結合形のアクセント型を比較していくことにする。近畿式アクセントの彦根と内輪式アクセントの大垣における調査結果を示すと、表1のようである。
 近畿式アクセントのアクセント型はオレンジ色で、内輪式アクセントのアクセント型は青色で示した。グレーで示したアクセント型は、両者に差異がないことを示している。

表1 彦根と大垣の2拍名詞アクセント

 彦根も大垣も整然としていて、付属語が異なっても自立語アクセント型はⅠ類を除いて安定している。付属語からみても結合規則通りであることがわかる。

3、垂井式

 36地点の調査地点のうち6地点を抽出し、2拍名詞のアクセント型を比較していくことにする。調査結果を示すと、表2のようである。

表2 垂井式諸アクセント6地点のアクセント型

 表2から、6地点のアクセントの特徴として次の点が指摘できる。

3.1 コンタミネーション

 垂井式諸アクセントの2拍名詞および結合形のアクセントは近畿式と内輪式の混合であり、結合法則はほとんどみられない。山口(1988)は垂井式の特徴として以下のように指摘している。

 結局、「垂井式」は全体が、単語でいうコンタミネーション(混成ないし混和現象)とみるべきものであるが、それで「京阪式に東京式が影響した」のか「東京式に京阪式が影響したの」かを考えると、これは各地の垂井式ごとに事情が違うことが当然であろうし、各地ごとの言語地理的状況も十分見極める必要があろう。

3.2 単独形の不安定さ

 長浜・樋口・竹尻では、Ⅱ類の単独形は1であるが、結合形は2である。垂井・樋口・竹尻のⅣ類についても単独形と結合形が異なるのは同様である。単独形と結合形のアクセントが異なる点については、すでに生田(1951)が次のように指摘している(旧仮名使いを改めた)。

 (松山アクセントは)文中においては、安定した乙種アクセントになるわけである。(中略)単独の型というものは元来不安定なものであって、ともすれば甲種アクセントの影響を受けた型が現れやすく、従って動揺を生ずるものであるが、これに対して単語が文中に入ると安定性を取り戻して、元の原種乙種アクセントの型に復元してしまうと考えられるのである。

 2拍名詞アクセントを基準として各地のアクセント型が地域分類されている。しかし、単独形は不安定である場合もみられることから、垂井式諸アクセントでは付属語アクセントの結合語も含めて考察する必要があるのではないだろうか。

3.3 地点ごとに異なる混合の仕方

 各地点のアクセント型を比較すると、混交の状況が異なることがわかる。各地点ごとにみていきたい。
①長浜
 Ⅰ類が近畿式、Ⅱ・Ⅴ類が内輪式、Ⅳ類は両者の混交形である。緑で示した「ガ・デス」のアクセント型は類推によりⅡ類に合流したと考えられる。
②垂井
 Ⅰ・Ⅴ類が内輪式、Ⅱ類が近畿式、Ⅳ類は両者の混交である。
③河内
 Ⅰ・Ⅱが近畿式、Ⅴが内輪式、Ⅳ類は両者の混交である。
④樋口
 Ⅴ類が近畿式、Ⅱ類が内輪式、Ⅰ・Ⅳ類は両者の混交である。
⑤今須
 Ⅰ~Ⅴ類とも近畿式である。高起低起の区別はないが、Ⅴ類の単独形が2になると、ほぼ近畿式である。
⑥竹尻
 Ⅰ類が近畿式、Ⅱ類が内輪式、Ⅳ・Ⅴ類は両者の混交けいである。Ⅴ類は付属語アクセントの影響で3になったと考えられる。

4.おわりに

 垂井式諸アクセントとは、山口が常に指摘してきたように、近畿式と内輪式のコンタミネーションであることがわかる。しかも、同じA式と言っても地点ごとにより状況が大きく異なっている。
 今回は8地点の調査結果をもとに考察してきたが、現在進めている伊吹山麓調査を通じて、どのようにして現在のアクセント圏が形成されたのか、また各地のアクセント型はどのように形成されたのかを追求していきたい。

【参考文献】
生田早苗(1951)「近畿アクセント圏辺境地区の諸アクセントについて」(寺川喜四男ほか編『国語アクセント論集』法政大学出版局)

山口幸洋(1988)「垂井式諸アクセントの性格」『国語学』155

山口幸洋(2003)『日本語東京アクセントの成立』港の人




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