寝坊した話

最近、寝坊して思わずタクシーに乗ったことがある。

私の職場はどんな理由であれ(電車遅延も含み)遅刻したら罰金+始末書を書かなければいけない。

そのため、万が一に備えて2本早い電車に乗り、始業開始の30分前には職場に着く様にしている。

普段通りだと9時に家を出なきゃいけないところ、
その日は起きたら9時35分だった。

清々しいほどの寝坊だった。
普通にオワリの状況だった。

スマホを5度見し起きて頭をフル回転。
50回ぐらい 夢であれって思った。


1分で着替え、1分で歯磨き、顔を拭き取り化粧水で拭き、髪の毛を適当に結ぶ。
化粧品、アイロンをリュックに詰めてとりあえず一番早い電車に乗る事にした。ここまで起きて約5分の出来事だった。


電車とバスを調べたら一番早くて職場最寄駅に10時24分に着くらしい。

…駄目だ。駅ついてから店まで走っても6分はかかる。

ギリギリ間に合わない。


道の混み具合でバスがいつもより早く着く場合もあるが、逆も然り。


最終手段が頭に浮かんだ。


タクシーだ。

タクシーで、職場まで行っちゃおう。



色々なパターンを計算して、一番勝率と価格のリスクのバランスが良い計画をたてた。


駅につき、タクシー売り場まで猛ダッシュ。
白いでかい車がドアをあけてくれる

上には"個人"のランプ。


「ゼェハァ お願いしますゥ…」


おっちゃん、スキンヘッド。
ちょい怖。


タクシーのおっちゃんが私の運命を分けるぞ。

頼む頼む。

「〇〇〇〇までお願いします!」




「ん?どこそこ?知らないなあ」





おわったーーーッ!試合終了ーーー。



私は説明が大の下手くそだ。しかも、車での道なんか説明できやしない。あと、おっちゃん怖い説がかなり濃厚。


もう泣きそうになりながら、とりあえず住所とか、しどろもどろになりながら周辺の建物を言う。


えっと、ダイソーとか…

あとダイソーがあります。



何故かダイソーの事しか伝えられず、自分の職場が本当はダイソーなんじゃないかすらも思った


「もしかしてあのへん?行った事ないけど多分分かったよ!」



何故か奇跡的に分かってくれたおっちゃん。



奇跡のおっちゃん。


握手したい。

ハグしたい。

個人ランプを七色に光らせたい。


最高のおっちゃんに運転してもらいながら、車内では信じられないほど話が盛り上がった。


おっちゃんの趣味が釣りで、昔は寒くても1日釣りに行けたのが今は1時間で引き上げてしまうようになり、衰えを感じ切なくなった事。


娘さんと会う機会が減った為、久々に会うとお客さんと接してる錯覚になり、思わず敬語が出てしまう事。


長女がLINEを返してくれない事。
次女はたまに返してくれるけど、大体その後欲しいものリストが送られてくる事。


そしてつい、買ってしまう事。


たった10分だけど、寝坊してよかったと思うくらい、良い時間だった。


奇跡の運転で17分に到着。まさかの20分打刻にも間に合う。

凄く感謝を述べる自分におっちゃんは良かったなあとにっこり。


「ここ娘も好きそうだ。今度遊びにくるよ」

ー機会があればぜひ!!遊びに来てください!


降りる時にがんばってね!!足元気を付けて!の言葉を受けて、しっかりお辞儀した。

最高だな、て思いながら職場に着く。
家出た時はあんなに最悪な気分だったのに。

すっかり心に余裕、しかも間に合う。


これもおっちゃんが話を盛り上げてくれ、明るく、そしてスピーディに私を運んでくれたおかげだ。
これが仕事のプロということなんだろうな。

与えられた仕事をきっちり、また、別れた後も引き続く幸福感を与える。そんな仕事ぶりに痺れてしまった。

「雑談の中に本質がある。」
星野源雑談集1の、一番初めに込められた言葉。

まさにその通りなんだよな。と思った。

多分、これはおっちゃんのプロの技だ。

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