『シン・ウルトラマン』の感想ではありません

 『シン・ウルトラマン』について真っ先に思い浮かぶのは数年前に公開された1枚の写真だ。湖畔に立つウルトラマン。Twitterで榛名湖じゃないかと言われていて、確かによく見ると白鳥丸が映っているし周りの建物にも見覚えがあった。ついに地元も怪獣映画の舞台になるのかと公開が待ち遠しかった。結論から言うと映画本編に榛名湖らしき場所は登場しなかった。たぶん見落としはないはずだ。『ウルトラマン』を下敷きにしているのであれば最初の変身の舞台になるのか!?と期待していたのだけれども。

 思い込みと言えば『シン・ウルトラマン』のあらすじは小林泰三の『αΩ』のようになるのだと勝手にイメージしていた。実際に出てきたのはノスタルジーに依拠したファン向け要素の強い作品だった。それはそれで楽しいしこうしてヒットしているのだから驚く。

 結局、またしても群馬県に怪獣は来なかった。群馬県は怪獣に襲われにくい地域だと『ガメラ3』のパンフレットで昔読んだ気がするのだが記憶違いかもしれない。手元にないので確認できない。白衣観音と向かい合うゴジラはお蔵入りになり、レギオンの侵攻は県境でガメラに食い止められた。

 昔見た怪獣映画のことを思い出しているうちに気付いたのだが、怪獣映画で覚えた地名がいくつかある。だいたいが「VSシリーズ」のゴジラ映画だ。それから平成ガメラもか。横浜みなとみらいの観覧車はゴジラとモスラ(バトラ?)が戦う夜景、それから「極彩色の大決戦」というキャッチフレーズと不可分だ。天王洲アイルや福岡ドームといった名称も、新宿の高層ビル群も、群馬県の小学生にとっては映画の中にしか存在しない場所だった。
 
 怪獣映画は場所の記憶に結びついている。東京タワーを見ると、ギャオスが営巣し、モスラの幼虫がもたれかかって繭になった光景が浮かぶ(怪獣映画ではないが『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』では真っ二つに折れた東京タワーが砂漠に突き刺さっていた)。近年の作品では『シン・ゴジラ』作中の雨に煙った線路に佇むゴジラの姿が印象的だった。

 見知った景色が怪獣によって異物と化す。あるいは、日常の形式に怪獣という異物が紛れ込む。ビルから生えた巨大花である草体レギオンやその元ネタのマンモスフラワー。空に浮かぶバルンガ、『シン・ウルトラマン』終盤のアレ。見知ったものが見慣れないものに変化する面白さが怪獣特撮の根底にはある。それはシュルレアリスムに近い感覚なのかもしれない。出会うはずの無いものを出会わせること。現実の中の驚異を再発見すること。

 東京タワーや地元の湖といった見知った景色の記憶を喚起し、怪獣がそこにいるという見知らぬ景色の記憶を刻み付ける。記憶の再生産がそこでは行われているのだと思う。

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